小説『おそろし』  書籍関係

[書籍紹介]

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宮部みゆき「三島屋変調百物語」シリーズ第1作。
ことの発端が書かれている。

川崎宿の旅籠の娘・おちかは、
とある事情から実家を離れ、
江戸で袋物屋「三島屋」を営む叔父夫妻の元へ
行儀見習いとして身を寄せている。
しかし店主の身内としてお嬢様然として習い事に励むよりも、
女中として忙しく働くことで
自らの過去を頭の隅へと追いやろうとしていた。

ある日、叔父の伊兵衛が急な所用のため、
訪問が予定されていた客への接待をおちかに任せて外出してしまう。
建具商の客は、庭に咲く曼珠沙華に恐れおののき、
その理由をおちかに対して話し始める。

これが第一話の「曼珠沙華」
人を殺め、島送りになった兄を巡る弟の複雑な心を描く。
身内から犯罪者を出してしまった家族という、
今に通ずる話。
人間の心の闇に対して、
宮部みゆきがしっかりと見定めていることに驚く。
特に、表題の曼珠沙華の花の間から覗く顔のくだりは、
背中がぞっとした。

帰宅後、おちかから事の顛末を聞いた伊兵衛は、
おちかに人の話を聞く特別な能力があると感じ、
江戸中から不思議な話を集めるようにし、
おちかにその聞き役を務めるよう言い渡す。
その背後には、
広い世間の様々な不幸をおちかが知ることで、
おちかの心の負った傷を癒そうとするものだった。

そうなっての最初の客・おたかの話も不思議なものだった。
錠前屋だったおたかの父は、
ある屋敷の木製の錠前に合う鍵の作成を依頼される。
そればかりでなく、
その屋敷の家守から、その屋敷に一家で一年間住んでくれたら、
百両あげると提案される。
金に目が眩んだ錠前屋一家は、その家に住いでみるが・・・
この第二話「凶宅」の屋敷が、第五話で再登場し、
シリーズ1の全体を締めくくる。

第三話「邪恋」は、おちか自身の話で、
聞き役は女中頭のおしま。
ここで、なぜおちかが実家の川崎の旅籠を出なければならなかったか、
が初めて語られる。
崖の松にひっかかっていた少年・松太郎をおちかの父が引き取り、
おちかと兄の喜一と松太郎は兄弟同然に育てられる。
しかし、おちかに縁談が起こった時、事件が起こる・・・
いわば宮部版「嵐が丘」という趣で、
引き取られた少年とおちか一家との
複雑な心理が描かれる。
ここでも、宮部みゆきは、人間の心の闇
あますところ、暴き立てる。
松太郎の立たされた立場があわれだ。

語り手は黒白の間(こくびゃくのま)に招かれ、
おちかが聞き手となる「変わり百物語」は三島屋の看板となる。

第四話「魔鏡」も哀切な話で、
ある家で起こった近親相姦の出来事が語られる。
その結果、その家は滅んでしまうのだが、
生き残った妹の語り手・お福は幸せになる。

そして、第五話「家鳴り」に、
第二話で語られた怪しい屋敷が再登場し、
それまでの登場人物が全て集って、
解放の時を迎える。

先ほど「人間の心の闇」と書いたが、
宮部みゆきの手にかかると、
それさえも、人間の課せられた業のようなもので、
同情に値する。
そして、全体を貫くのは、
人間の業ゆえの罪と怨念と心残り
それらに対する許しと癒しで、
感じるものは暖かい
ただ、宮部みゆきが見せてくれたものは、
大きく、重く、心に残る。

次のような台詞と描写。

世の中には、恐ろしいことも割り切れないことも、
たんとある。
答えの出ないこともあれば、
出口のみつからないこともある。

一人前の大人になる前に、
人の心の真っ暗な納戸の奥を覗き見て、
泣きも笑いもしなくなってしまった

「亡者はおりますよ」
「確かにおります。
おりますけれど、
それに命を与えるのは、
わたしたちのここ(胸を示して)でございます」
「同じように、浄土もございますよ。
ここ(胸)にございます。
ですから、わたしがそれを学んだとき、
姉は浄土に渡りました」

「誰もあんたが憎くてしたことじゃない。
許せとは言いませんよ。
ただ、勘弁してやってください。
堪えてやってください」


シリーズは後になればなるほど本が厚くなる。
私は宮部みゆきはよく読んだが、
ある時から手を出さなくなってしまったのは、
そのあまりの長大さゆえ。
しかし、親戚筋に進められて読んだ本作。
宮部みゆきの神髄に触れたような、
読書の喜びを感じさせてくれるものになった。

JAグループが発行する雑誌「家の光」
2006年1月号から2008年7月号まで連載された後、
角川書店から刊行された。

一応話はシリーズ1で完結したように見えるが、
「三島屋変調百物語事始」は続き、
読売新聞の連載、「オール読物」の連載、
日本経済新聞の連載、東京新聞他の連載を経て、
シリーズ5まで進み、
おちかが嫁いだ後は、
三島屋の次男・富次郎が聞き手を引き継き、
更にシリーズ2を数える。

特設サイトは、↓をクリック。

https://promo.kadokawa.co.jp/mishimaya/

これだけょの作品をドラマ化しない手はない、
と思ったら、
NHK−BSプレミアムで、
2014年8月30日から9月27日まで
5回放送。

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NHKオンデマンドで視聴したが、
原作に忠実で、テイストも同じ、
良質のドラマに仕上がっていた。

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おちかは波瑠で、適役。

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三島屋伊兵衛は、佐野史郎
妻のお民は、かとうかず子
女中頭おしまは、宮崎美子
松太郎は、満島真之介
口入れ屋の灯庵/語りは、麿赤兒
「魔鏡」の姉弟は、それほどの美男美女ではなく、印象が狂った。

脚本は、金子修介、江良至
演出は、金子修介、榎戸崇泰
音楽(中村由利子)がなかなか良かった。

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第1話のラストに
ブライアン・デ・パルマの「キャリー」(1976)とそっくりの場面があって、笑った。
ドラマオリジナルだから、監督の趣味?




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