小説『雪のなまえ』  書籍関係

[書籍紹介]

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小学五年生の雪乃は、父母との3人暮らし。
学校で陰湿な(クラス全員から無視される)いじめにあい、
心理的に学校に行けず、不登校になってしまった。

その打開策として父航介が出してきたのが、
曾祖父母が住む長野に移転するという案。
決心した父は、広告代理店の仕事をさっさとやめてしまった。
母親の英里子は仕事をやめるわけにもいかず、東京に残り、
週末だけを一緒にすごす暮らしになる。

しかし、移転しても雪乃はやはり地元の学校には行けず、
曾祖父母や父の農業の手助けをする毎日だった。
父は曾祖父から農業を教わりながら、
地域に溶け込もうと努力をする。
大自然の中、
父の幼馴染の広志とその子どもで同学年の大輝、
他住民と関わりながら、雪乃は成長していく。

という、「田舎暮らしにあこがれる一家」の、
よくある話、と言ってしまえば身も蓋もないが、
流行りの題材と言えようか。

しかし、転地の理由が、
娘の不登校の改善、
というのが驚く。
他の学校に転校するなり、
いじめと闘うなど、
いくらでも方法はあったと思うのだが、
長年勤めた会社をやめてまで、田舎に引っ込む。
しかも、そのことについて、
妻(雪乃の母)に一言も相談せず決めてしまう。
もちろん雪乃の承諾も得ていない。
その上、農業の知識があるわけでもない。
ちょっとこの父親、おかしいんじゃないか、
というのが、率直な感想

曾祖父母を頼る、というのも、
全然関係のない土地に行っても受け入れてもらえそうもないので、
「茂三の孫」というのなら、受け入れてもらえるのでは、
というのだから、大甘。
途中、住民たちの無理解にもさらされるが、
それも、後で物分かりがよく解決する。

新しい事業、というのが、
古民家の納屋を改善した「納屋カフェ」というのだから、
どうかしている。
二十一戸しかいない地域でどうやって経営するのか。
住人の「交流の場」なら、他にいくらでもあるだろうに。
なのに、都合良く協力者が現れ、
次第に人が集まる。
大輝やその友達も暖かく雪乃に接する。
そのきっかけに、野良猫まで動員する。

都会人が田舎に引っ込んでの様々な葛藤や失敗を
リアルに描く小説、と思ったら、失望する。
なにもかもが都合良く解決し、
収まるべきとこにに収まる。
村山由佳って、こんな作家だったかな、
と過去の作品群を思い出そうとしてしまう。

季節は、加速度をつけて変わりつつある。
四月に入ってすぐに、
北へ帰るガンが編隊をなして飛び、
軒先をツバメが舞い始めた。
関東よりもだいぶ遅れて桜がほころびだし、
きっちりと畔を切った田んぼに水が張られると、
たちまち蛙が鳴く。
陽射しも風も温かくなって、
こうして少しでも作業をすれば汗ばむほどだ。


などという自然描写はいいし、

「雪ちゃんはね、
ずいぶん大人になっただけど、
まだ子どもだに。
そんでもって、子どもはね、
大人っから心配してもらうのが仕事だに。
あんたの父やんだって母やんだって、
きっとそう思ってるだわ」


という曾祖母の言葉はなかなかいいが。

題名の雪のなまえとは、
ぼた雪とか、粉雪とかのことではなく、
雪の本質のを指す。
凍れば氷、溶ければ雨、
集まれば川となり、いつか海に至る。
では「水のなまえ」ではないのか。

「人間だってな、
無理しておんなじ顔でいるこたぁねえに。
自分の好きなように、やりたいように。
いっくらだってわがままンなっていいだわい。
いっくらだってな」


との曾祖父の言葉。はて。

「日本農業新聞」に2018年11月から2019年12月まで連載。
それで、こんなに甘いのか。




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