映画『羊飼いと風船』  映画関係

[映画紹介]

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1990年代。
チベットの草原で牧畜で生活する家族がいる。
老いて引退した父と、壮年の息子夫婦、
その小さい息子二人の4人暮らし。
もう一人の息子は高校生で寄宿生活をしている。
電気もなく、水道もガスもない、
同じ土地で何代にもわたり、何世紀も続いているような暮らしだ。
文明の利器といえば、馬を売って買ったバイク。
変わったことといえば、
遠くの友人から種羊を借りて、雌羊に種付けするくらい。
そして、時々羊を売りに町に行って買い物をする。

そんな、忘れ去られたような一家にも、
近代化の波と中国の一人っ子政策は影響を及ぼして来る。
二人には既に子供が3人いるので、
次は処罰の対象となる。
妻のドルカルは避妊手術をすることに決め、
診療所の医師からコンドームを渡される。
枕の下にあったコンドームを幼い息子たちが見つけ、
ふくらませて風船として遊んでいる。
そのせいかどうか不明だが、ドルカルは妊娠してしまう。

同じ時期、祖父が亡くなり、
父タルギェは高僧に相談すると、
生まれ変わりが近いと聞かされる。
チベットの人々は輪廻転生を信じているのだ。
祖父の魂が赤子として再生することを願って、
タルギェはドルカルに産めと命令する。
処罰を恐れるドルカルは秘かに中絶しようとするが・・・

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チベットの土着信仰と
中国政府の政策。
そんな出会ってはならない二つの事柄が
家族の葛藤を生む。

そんなドラマが
曇り空の陰鬱な光の中で展開する。
自然は決して美しいわけではなく、
過酷で寒々としている。

この夫婦の話に
今は尼僧となったドルカルの妹の話と
高校生の息子の話がからむ。
妹は「僧院に入って、今は何の悩みもない」と言うが、
その実、幼馴染みの同級生との失恋の傷が今も癒えていない。
羊飼いの暮らしから脱却させようと
タルギェは息子に教育を受けさせているが、
息子は「勉強は嫌いだ。村に戻りたい」と言って、
タルギェを戸惑わせる。

監督のペマ・ツェテンはチベット族出身の監督。
小説家でもある。
東京フィルメックスでは、
「オールド・ドッグ」(11)、「タルロ」(15)に続き、
審査員満場一致で3度目の最優秀作品賞に輝いた。
本作が、日本劇場初公開作品となる。
不思議なアングルの長回し映像は、
最初戸惑うが、
次第に気にならなくなる。

タルギェを演ずるのは、ジンバ
詩人としても活躍するチベット人俳優。
家族の葛藤に悩む父親役を好演。

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ドルカルはソナム・ワンモ
チベットの舞台俳優だという。
妹のヤンシクツォ
その元恋人の青年、祖父を含め、
俳優はよく役柄を理解した演技をしている。
その演技を引き出した監督の力量は確か。

都会に住んでいる我々には想像もつかない、
中国の奥地の過酷な生活。
その中に起こる家族の中のさざ波を描いて、
心に染みる作品だった。
特に、最後の子供たちにせがまれて買って帰った
赤い風船のくだりは、
登場人物全ての幸福を願う祈りのように見えた。

5段階評価の「4.5」

予告編は↓をクリック。

https://youtu.be/Vl0iuf5ZduE

シネスイッチ銀座で上映中。

映画が終って立ち上がり、
ジャケットを羽織って後ろを見ると、
誰一人立つ人がいない。
スクリーン脇では、何やら機材が準備されている。
どうやら監督とのリモート対話のオマケがあるようだ。
それで、ネット予約の際、
この回だけ客が多かったのか。

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いくつかの質問に、
ペマ・ツェテン監督は誠実に答えてくれた。
笑わない人かと思ったが、
「祖父の背中に塗った粉は何か」
という質問には、笑顔を見せた。
「輪廻転生は今のチベットでも信じられているか」
という問いに、今も同じだという答は腑に落ちた。
中国がどんなに強圧的な政策を押しつけても、
住民の心に根ざした信仰を変えることはできない。

チベット映画の過去作品のブログは↓をクリック。

「巡礼の約束」

タグ: 映画



2021/1/28  0:29

投稿者:川崎のOZ

お久しぶりです。同じ回を観ていたんですね。気が付きませんでした。私らは前から3列目の席で見ていました。普段はトークショー等は嫌いなので見ずに退席するのが常でしたがあまり観客が少ないと監督に申し訳ないので今回は挨拶も見ました。ろくに宣伝していない映画でしたが、さすが教授!嗅覚するどいですね。私は主役のお父さんが木村祐一に見えました(笑)。ではでは。

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