『メーター検針員テゲテゲ日記』  書籍関係

[書籍紹介]

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三五館シンシャの「○○員○○日記」シリーズの一冊。
今度の題材は電気メーターの検針員
月に一回家を訪ねて、電気メーターの数字を確認していく人。
一件40円で一日250軒程度をこなす。
暑い日、寒い日など、
見るからに大変そうな仕事だが、
仕事そのもの以上の悲哀が沢山ある。
その悲哀を綴ったのがこの本。

著者は,外資系企業に勤めるサラリーマンだったが、
小説家になりたくて、40半ばで退職。
姉のいる鹿児島に引っ込み、
アルバイト的な仕事を経た後、
50歳の時、検針員を始めた。
10年勤めてクビになり、
介護職などをつとめて、現在70歳

新人賞などに応募し、落ち続け、
小説家の道は成し遂げられなかったが、
この一冊で「本を出す」という夢は果たせた。

検針員の一日は次のとおり。
ハンディという記録装置を持って、その日の担当地域を回る。
バイクや徒歩で。
電気メーターを探し、その指示数をハンディに入力し、
「お知らせ票」をプリントして、郵便受けに投函する。
入力したデータは夕方までに電力会社に持ち込み、
検針したデータをホストコンピューターに引き渡すと同時に、
翌日分の検針データをハンディに入れてもらう。
その後、検針会社に出向いて業務終了の報告書を提出する。

と書けば、簡単なようだが、
マンションのように廊下のメーターを読むのならいいが、
戸建ての住宅地は苦労する。
電気メーターに辿り着くには、庭を通らなければならない。
理解ある客ならいいが、一つ間違えば、クレームになる。
犬がいたり、蛇がいたり、蜂の巣があったりする。
また、メーターは検針しやすいところにあるとは限らない。
その場合、鏡や双眼鏡やライトを使う。
しかし、メーターの数字は小さい。
計器番号はもっと見づらい。
検針員のことを考えて設計したわけではないのだ。
誤検針をくり返すとクビになる。
その恐怖との闘いがある。

検針員を雇用するのは、電力会社ではない。
その下請け会社だ。
契約は一年契約。
個別事業者だから、雇用保険もないし、
事故や怪我の保証もない。

理不尽な客もいる。
「今忙しいから、後にしてくれ」と言う。
そこにメーターがあるのに。
勝手に庭に入ったと叱られる。
マンションに立ち入ったといって報告される。

クレームの電話がいくと、「指導」を受ける。
個別の事情など聞いてもらえない。
電力会社は下請けの検針会社に対して怒鳴り、
検針会社は検針員を怒鳴りつける。
下請け会社の社長は電力会社からの天下りで、
2年で交代するから、問題なく終わらせるのが職務。
検針員の待遇改善など、誰も考えてくれない。

何か問題が生ずると、全体の連帯責任にされる。
個別事業者のはずなのに。
ある時、ハンディが盗難を受けた。
途端に、ハンディの持ち帰りは禁止となり、
その日ごとにハンディをまず取りに行かなければならない。
遠方の検針員には負担となる。

そのことを訴えた時の課長との会話。

「考えてみてください。
私の自宅は伊集院町ですよ。
会社まで30キロちょっとあります。
検針地区は吉野町や郡山町があるんですよ。
その日、いったい何キロ走らないといけないと思いますか。
自宅の遠い人は免除してもらえませんか?」
鹿島課長はこう言った。
「だれも、あなたに伊集院町に住んでくださいとは頼んでいません」


こういう回答しか出来ない人を、私は軽蔑する。

家庭用メーターだけではない。
茶畑の防霜メーターや看板の照明、
自動販売機やコイン精米来器、
地震計や墓地の照明まである。
これらは、
「お知らせ票」をどこの誰に渡していいか分からない。
なのに、「お知らせ票の持ち帰りをするな」という指示が来る。
郵便受けがない、あっても名称が違う、などの問題もある。
客から「お知らせ票が届かない」というクレームが来ると、
電力会社は下請け検針会社を怒鳴る。
会社は検針員を怒鳴る。

40円でも250軒やれば1万円である。
20日やれば20万にはなる。
しかし、体がきつい。
著者は月に10日ほどの検針をし、
あとの20日を創作に向けるという生活を続けた。
姉の家に居候し、後で追い出される。

美人の奥さんや美人の娘さんがいる家の検針は
楽しみの一つとなる。
人との会話に飢えているお年寄りには、
お茶とお菓子の接待を受ける。
女性検針員の場合は、
80歳を超える老人に迫られたこともあるという。
毎月定期的に訪ねて来る若い女性に
独り住まいの男性が一方的な好意を抱いてしまうのだ。
話をしてみたい、そばによってみたい、触ってみたい、
特にお年寄りは人恋しさもあるから、エスカレートしてしまう。
その場合は、配置変え。

検針員仲間が病気になった時のお見舞金についての悲哀。

お見舞いをいくらにしようかと考えたとき、
悲しいかな検針の件数の計算をしてしまったのだった。
1万円、250件分。
僻地だとバイクで一日走り回っても稼げない。
つらいものがある、などと計算し半日分、
5000円にしたのだった。


これは、パート勤めの方も同じで、
ついつい金額を「パート何時間分」と計算してしまうのだという。

しかし、この業界にも大きな変化が訪れている。
スマートメーターだ。
電気使用量を電波で送るシステム。
これが普及すれば、検針員の仕事はなくなる。

いつのまにか公衆電話がなくなり、
いつのまにか駅の改札から駅員がいなくなったように、
いつのまにか検針員もいなくなるのである。


著者の場合は、
検針員と会社の会合などで、
いろいろ改善案などを提示して「うるさい奴がいる」と睨まれ、
契約更改時に、契約延長されなかった。
スマートメーターが普及する前の話だ。

そういう末端の仕事の話。
それでも、こう書く。

低賃金で過酷で、法律すら守ってくれない仕事が
どこにでも存在しつづけ、
そこで働く人たちも存在しつづける。
ただ、そうした仕事をしている人たちも、
自分の生活を築きながら、
社会の役に立ち、
そして生きていることを楽しみたいと思っているのである。
過酷な仕事の中にも、
ささやかな楽しみを見つけようとしているのである。
それが働くということであり、
生きるということではないだろうか。


題名の「テゲテゲ」とは、
鹿児島弁で「適当に」
「あまり一生懸命やらなくてもいいんじゃない」という意味。
このシリーズの他の本の紹介ブログは、↓をクリック。

「マンション管理員オロオロ日記」

「派遣添乗員ヘトヘト日記」

「交通誘導員ヨレヨレ日記」





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