小説『人生は並盛で』  書籍関係

[書籍紹介] 
              
クリックすると元のサイズで表示します
                  
小野寺史宜のいつものお仕事小説、
と思ったら、意外に凝った構成を持った作品だった。

舞台は牛丼屋
駅から離れた、カウンター席が20にテーブル席が4という
小規模店舗だが、それでもバイトの数は20を越える。
店長は流行っている駅前店と兼任で、
いつもシフトに苦労している。

第1話 肉蠅
は、30歳の中年ママ店員・恵と、
体重75キロのデブの大学生店員・日和のバトルを描く。
恵は手抜きをし、いやな仕事は他人に押しつける。
その上、若い店員と浮気をしている。
浮気のためにシフトの変更も日常茶飯事。
対する日和は、要領が良く、仕事も完璧。
いやな仕事も進んでする。
唯一の欠点は、太っていることへの劣等感。
二人は目に見えない冷戦を繰り広げ、
日和の画策で恵は辞めさせられる。
更に日和の陰謀で浮気もばれ、離婚させられる。

第2話 そんな一つの環
は、不思議な一篇。
主人公が頻繁に変わるのだ。
たとえば、ある女性の行動を描いていたかと思うと、
信号のところで行き交った小学生の行動を追うようになる。
小学生が家に帰ると、
居候をしていたフリーターと接触し、
今度はそのフリーターの後を追う。
一行空きもなく、
いつの間にか小説の視点が別の人物に移る。
ただ、その時の中心人物の名前が
フルネーム(漢字)で書かれており、
それ以外の人物名がカタカナで書かれているので、
それが分かる仕組み。

というわけで、

ナンパされる女性
→学校帰りの小学生
→宿なしの35歳のフリーター
→海外旅行から帰って来たカップル
→その婚姻届けを受け取る市の職員
→その女性と旧知で、三人デートをした男二人
→その二人がバイクをひき逃げしたのを目撃した男
→その妻
→その浮気相手の青年
→青年が勤めるレストランで女と別れたサラリーマン

と引き継がれ、
最後のサラリーマンが待つ相手が
トップのナンパされる女性であることが分かる。

映画で言えば、カメラがある人物を追っていたのに、
擦れ違った途端に別の人物の後を追う、という感じ。
ワンカットでやったら、さぞ面白い展開になるだろう。
題名は忘れたが、
前にそういう映画を観たことがあるような気がする。
                                        
第3話 弱盗
は第1話、第2話から1年後で、
日和が働く牛丼屋で深夜行われた弱盗事件を描く。
「弱盗」とは、強くないからで、「強盗」ではない。
話の展開で、
その事件に関わった人間が
第2話の中に登場した人物たちであることが分かる。
弱盗は35歳(36歳)のフリーターだし、
牛丼屋の店長は、カップルの一人、
深夜の牛丼屋に居合わせた目撃者は
最後に出て来たサラリーマン。
その上、ナンパされる女性は、
男二人のひき逃げの被害者で、
サラリーマンは初めて、
ひき逃げのことを知り、
女性がサラリーマンとの
5年越しの約束を果たそうとしていたのだと知る。
それ以外に、第2話の登場人物が何らかの形でからんで来る。

世界が網の目のように織られ、
関係している、ということを筆者は言いたいのだろうか。
そして、最後の「弱盗」事件は、
警察沙汰にならず、
人の善意によって、
落ち着くべき所に落ち着く。
日和の恋人の学生バイトが重要な働きをする。
最後は小野寺史宜らしい世界。
どことなくほっこりするような、
牛丼屋を巡るお話。

3話構成が
最初から仕組まれていたことが分かり、
その仕掛けの妙に、
なかなかの満足感を得られる小説だった。




コメントを書く


名前
メールアドレス
コメント本文(1000文字まで)
URL





AutoPage最新お知らせ