小説『じんかん』  書籍関係

[書籍紹介]

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「じんかん」とは、「人間」と書く。
「にんげん」と読めば一個の人を指すが、
「じんかん」と読む時、
人と人が織りなす間、つまり、この世を意味する。

斎藤道三・宇喜多直家と並んで
日本の戦国時代の三大梟雄とも評されている
松永久秀を描く。

梟雄(きょうゆう)・・
残忍で強く荒々しいこと。また、その人。
主として悪者などの首領、かしらを言う。

織田信長は、徳川家康に松永久秀を紹介する際、
「この男、人がなせぬ大悪を一生の内に三つもやってのけた」
と言ったという。
三大悪とは、主君の三好長慶を殺し、将軍(足利義輝)を殺し、
奈良の大仏殿を焼いた
こと。

物語は、天守にいる信長のもとに
松永久秀の謀叛を知らせに行った狩野又九郎に対して、
信長の見る久秀像を語って聞かせる形で進む。

久秀は幼い時、九兵衛と名乗っていた。
その九兵衛が、弟の甚助と共に
追剥仲間の多聞丸(たもんまる)と出会うところから物語は始まる。
まだ10代の前半だ。
応仁の乱以来、乱れに乱れた弱肉強食の世間を渡るには、
子供たちが集団で追剥をかけるしかなかったのだ。
多聞丸と心を通じた九兵衛は、
多聞丸の「いつか俺の国を持ちたい」という言葉を心に止める。

追剥に失敗して多聞丸は死に、
弟と日夏という女の子だけが残り、
本山寺の宗慶和尚の世話になり、
堺を目指して、三好元長に私淑し、
元長の言う、この世の災厄である武士という修羅を無くし、
戦の無い世、
民が政を執る世界の創建を目指すようになる。

郡県制を布き、厳格な法を編む。
ただ違うのは秦が権力を皇帝に集約するために
この制度を取ったのに対し、
本邦では民に全てを託すということ。
郡県の長を選ぶのも民、
法を定めるのも、
兵を動かすのも全て民の合議で行う。
国そのものを「大きな堺」に創り変えるというものであった。
そこに移行させるためにも、
将軍や管領を朝廷から遠ざけようとしている。


いわば、民主主義を日本に導入しようというのだから、
話は進んでいる。

そのために弟の甚助と力を合わせ、
三好家の中でのし上がり、
民の力の強い自由都市堺を治め、
その人々の信頼を獲得していく。

やがて元長も世を去り、
多聞丸や元長の理想は、
九兵衛と甚助の上にのしかかって来る。

その九兵衛が細川高国と交わす会話。

「民は支配されることを望んでいるのだ」
「馬鹿な」
「日々の暮らしが楽になるのを望んではいる。
しかし、そのために自らが動くのを極めて厭う」


やがて九兵衛は城を建造し、
多聞山城と名付け、前代未聞のことをする。
民に城の中を見学させたのだ。
城の構造は敵に対しての極秘事項だが、
民を惹きつけるための城なのだから、
中を見せた方がいいという考え方だった。

久秀の持論の一つに神仏を信じない、という点がある。

約百年前の応仁の乱以降、
世は乱れに乱れている。
戦乱や飢饉によって
弱き者は日々虫けらのように死んでいる。
神仏が真にいるのならば
何故その者たちを救わないのだ。
救わないのではなく、
救えないのでもない。
そもそも神仏などいないという結論を出していた。


その点が信長と通じるようで、
何度も背かれながら、
信長は久秀のことを買っていた。
というより、又九郎に話しているように、
久秀の生涯に関心を持ち、理解していたのだ。

信長は、又九郎に対して、
久秀がした三悪の背景を語って聞かせる。

九兵衛と甚助の会話。

「本当のところ、理想を追い求めようとする者など、
この人間(じんかん)には一厘しかおらぬ。
残りの九割九分九厘は、
ただ変革を恐れて
大きな流れに身をゆだねるだけではないか」


神仏を否定した九兵衛だが、
負け戦の予感の中で、
次のように言う。

「戦いたくない者は去ってもよい。
だが、もし付いて来てくれるというなら・・・」
九兵衛はそこで言葉を切ると、
己の一生の全てに想いを馳せて呼びかけた。
「神仏に人の美しさを、人の強さを見せてやろう」


結局、信長との戦いで久秀は散っていくが、
信長の所望した平蜘蛛の茶釜と共々、
天守に火を放って壮絶な死をとげる。

多聞丸、元長から受け継いだ理想は、
ついに果たせず終るが、
戦国時代に民主主義を導入しようとするなど、
やはり、無理だと思える。
今の価値観を過去の歴史の中に持ち込んではいけない

日本が根底からその有り様を変えるには、
明治維新と敗戦という「外圧」によるしかなかったのだから。

通常、稀代の悪人として描かれる松永久秀を
理想に燃える武将として描いた点は買えるが、
やや空回りしている印象だった。

小説現代2020年4月号に700枚を一挙掲載し、

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後に刊行。
500ページを越える大部。
直木賞候補作

なお、信長が語った久秀の
「三悪事(三好家乗っ取り・将軍謀殺・東大寺大仏殿焼き討ち)」に対し、
信長自身も、主君に当たる織田大和守家の当主であった織田信友を討滅し、
将軍であった足利義昭を追放し、
比叡山焼き討ちを敢行する等、
久秀と同じような所業を成しているのは興味深い。




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