小説『まち』『ライフ』  書籍関係

[書籍紹介]

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江藤瞬一は、群馬県の片品村の出身。
高校卒業と同時に東京に出て、
下町のアパートに住んでいる。

小学校3年生、9歳の時、
村で宿屋を経営していた両親を
火事で亡くしている。
それ以来、アパートでも火を使えない。

9歳から18歳まで、
祖父と一緒に暮らした。
祖父は歩荷(ぼっか)だ。
歩荷とは、山小屋に食料や燃料を運ぶ人。
車の入れない山道を60キロから100キロの荷物を
背中に担いで運ぶのだ。

じいちゃんに言わせれば、
歩荷は選ばれし人の仕事ではない。
ある程度の体力があれば、
経験を積むことで誰でもできるようになるそうだ。
ただし、山や自然が好きでないと続かない。
何せ、外。
寒いし、暑い。
風が強い日や雨が降る日にはコケることもある。
それでも、自然を感じられるのは魅力。
毎日同じ場所を歩いていても、
景色は少しずつ変わる。
その変化を楽しめる人なら続く。


中学生の時、歩荷のまねごとをした。
わずか15キロの荷を背負って、
もっと重い荷を背負う祖父に続き、音を上げた。

その祖父の勧めがあった。

「瞬一は東京に出ろ。
東京に出て、よその世界を知れ。
知って、人と交われ」


それで、東京に出た。
江戸川区平井にある筧ハイツ。
1階と2階に各2室の計4室のアパート。
荒川の河川敷がすぐ側で、瞬一のランニングコースだ。
気に入って、5年も住んでいる。
大家さんもいい人だ。
仕事はコンビニで3年働き、
その後、引っ越し屋になった。
どちらもバイトで、
引っ越し屋は日払いだ。
体を動かすのが好きなので、
引っ越し屋の仕事は性に合っている。
日雇いのバイト同士はほとんど親交はないが、
野崎という男とは、奇妙な縁で友人になった。

アパートは、下の階にいる、
定年過ぎで、奥さんを亡くした得三さんと知り合いになった。
隣の部屋の敦美さんと彩美さんの母子とは、
部屋に舞い込んだゴキブリや蛾の退治で交流するようになった。

などと、瞬一の生活を巡るあれこれが日常的に描かれる。
食事はコンビニやスーパーの弁当。
既に書いたとおり、火を使わずに済むからだ。

外食はたまにしかしないので、
何を食べてもうまいと感じる。
というか、僕はスーパーの割引弁当でもうまいと感じてしまう。
バカ舌なのだと思うが、
一方では、便利だとも思う。
ものをおいしく食べられること。
それは幸せ以外の何ものでもない。


割引弁当とは、
夕方になって売れ残った弁当を何割引きが売っているもの。
元働いていたコンビニでおにぎり百円セールがあると、
必ず行って、からかわれる。

後半で、祖父が訪ねて来る。
瞬一の東京の住まいを見ておきたいのだという。
そして、瞬一に言う。

「瞬一は、頼る側じゃなく、頼られる側でいろ。
いつも頼ってたおれみたいな人間じゃなく、
おれに頼られてた摂司みたいな人間になれ。
お前を頼った人は、お前をたすけてもくれるから。
たすけてはくれなくても、お前を貶めはしないから」


摂司さんとは、村の役場の人で、
祖父の面倒を見てくれている。

一緒に住もうという勧めに、祖父はこう言う。

「じいちゃんは村の人間だ。村でしか生きていけない」
「でも、住めば慣れると思うよ」
「慣れるのは、瞬一が若いからだ。
若くてやわらかいからだ。
じいちゃんはもう硬い」
「そんなことは、ないと思うけど」
「瞬一はじいちゃんみたいになるな。
町で、人のなかで生きていける人間になれ」
「町に住む摂司さんみたいな人間になれってこと?」
「あぁ。そうだな。
町に住む摂司。それが一番だ。
摂司みたいに、地域を守れる人間になれ」
「町は、広すぎて守れないよ」
「ならせめて人を守れ。人を守れる人間になれ」
身内でも何でもない人の長所を素直に認め、
自分ではなくその人のようになれと言える
じいちゃんのような人に、僕はなりたい」


その祖父が亡くなった。
すい臓がんだった。
見つかった時は、もう遅く、
お別れの意味で祖父は訪ねて来たのだ。
瞬一が村に戻って2時間後に亡くなった。

人が亡くなっても、人は生まれる。
じいちゃんが亡くなっても、多聞(同級生)の子は生まれる。
そんなふうにして、人は入れ替わっていく。
村は変わらないが、人は変わっていく。
でも変わらないものもある。
村にじいちゃんはいた。
そこで生きていた。
その事実は変わらない。
じいちゃんが亡くなったからといって、
じいちゃんが村で生きてなかったことにはならない。
じいちゃんと村のつながりは絶えない。
そしてじいちゃんと僕のつながりも絶えないのだから、
村と僕のつながりも絶えない。


敦美さんの部屋に
離婚したDVの夫が復縁を迫ってやって来た時は、
防衛してやった。
そのとき、元夫はガスコンロから布巾に火をつけたが、
瞬一が撃退する。

俊一は自分が敦美を好きなのだと自覚する。
そして、思う。

火の怖さを、敦美さんと彩美ちゃんを守りたい気持ちが超えた。
あれはそういうことだったのだと思う。
人を守ること。
それは結局、じいちゃんが僕に教えてくれたことだ。
言葉で、ではない。
身を以て、教えてくれた。
僕は両親に守られた。
じいちゃんにも守られた。
そして今、僕には守りたい人がいる。
なら守ればいい。


というわけで、
自分の身近な人を守って暮らすこと、
その貴さを伝えて物語は終る。
偉い人にならなくても、
有名にならなくても、
東京の町には、世界には、
そういう大切な宝を抱いて生きる、
そういう幾万、幾億の人たちがいて、
それで世界は成り立っているのだ。

瞬一が最後に選んだ職業は、
是非読んで確かめて下さい。

小野寺史宜の世界は温かい。
本屋大賞上位作


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「ライフ」は「まち」の姉妹編で、
「まち」より半年ほど前に書かれた。
舞台は同じ平井で、
主人公・井川幹太は同じ筧ハイツに住んでいる。
「まち」とは住民の構成が違い、
共通する登場人物は大家の筧さん夫婦と、
古い喫茶店「羽鳥」のオーナーのおばあさんだけ。

幹太は2度の就職に失敗して、
今はコンビニのバイト。
上の階に住む戸田の無神経な足音に悩まされつつ、
いつの間にか親しくなる。
戸田は浮気が原因で奥さんと子供と別居中だが、
時々奥さんと子供が訪ねて来る。
その戸田家との交流を描きつつ、
幹太の日常が描かれる。
「まち」と同じテイスト。
だが、「まち」の方が
じいちゃんという魅力的人物が登場する分、
深く、面白い。





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