短編集『今日も町の隅で』  書籍関係

[書籍紹介]

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小野寺史宜の短編集。
共通項は、密葉(みつば)市のあちこちで起こる、
本当にささいな出来事の哀歓を描く。
小説すばるに掲載された8編と書き下ろしの2編で成る。
並び方は発表順でなく、
登場人物の年齢順。
小学5年から42歳まで。

転校生の長野くんがクラス委員長になり、
愛里は副委員長になった。
そのせいで、愛里はクラス内で微妙な立場に。
その責任を感ずる長野くんに誘われて、
地元の高校野球予選を観戦することになり、
そこには、大声でヤジを飛ばす男がいて・・・
という「梅雨明けヤジオ」

中学のバンドでリードギターを降格され、
ベースを弾くことになった悠太が
隣の席の乃衣との初デートで訪れたのは東京タワー。
エレベーターに乗る直前、乃衣が上るのやめると言い出す。
それにはわけが・・・という「逆にタワー」

奔放な母の振舞いに翻弄される幹矢。
今日も教師との三者面談で冷や汗をかいた。
酔った母を駅に迎えに行き、
一緒に帰宅する途中、幹矢は意外な話を聞かされる、
「冬の女子部長」

バンドを解散し、声優などでメシを食っているケントは、
同棲中の万弥(まや)とケンカをして、出て行かれたばかり。
むしゃくしゃした気分の中、
小学生の乗った自転車と衝突する。
親に会うために少年の家に行った母親は、
ケンタのバンドのファンだったという、
「チャリクラッシュ・アフタヌーン」

卒論を提出しに行く電車に乗り遅れ、
その上、その電車が事故で人が死に、
卒業できずに1年を棒に振った駿作。
実は、その事故で死んだのは、
いつも駿作が座る席にいた人だった。
希望の会社の内定を取り消された駿作は、
翌年、小さなビール会社に就職する。
そこで出会った那美に一目惚れした駿作は、
食事に誘い、そこで思わぬ偶然の縁を知ることになる、
「君を待つ」

30歳にもなって、まだ小説家志望で、
新人賞に落選し続けている一臣(かずおみ)は、
安いパンを求めて行く店でレジを打つ諏訪さんに、
店内で拾った1万円札を届ける。
諏訪さんは、一臣が気になっていたトリマーの店の店主だった、
という「リトル・トリマー・ガール」

出勤時と帰宅時に15秒間のハグを
妻の好美(よしみ)とするのが日課になっている守。
その家に好美の元カレの和田くんが
一晩泊まらせてくれと頼んで来る。
友人と事業を起こそうとして、金を持ち逃げされ、
アパートの契約も解除されたのだという。
もう一晩泊まらせることになった守は、
好美とのハグもできないまま、
和田くんと一緒に家を出、
別れた後、和田くんの後をつけてしまうが・・・
という「ハグは十五秒」

40歳の斉藤は10年ごとに開かれる中学の同窓会で、
花田あかりと久しぶりに会う。
そして、こどもの頃の話題で、
クジラ公園の管理人のサンじいさんのことに触れる。
マンション内の公園に外部の子供が入ることを拒んだ
サンじいさんと小学生の斉藤たちは
「戦争」を繰り広げた思い出がある。
そのサンじいさんが、あたりの祖父だという噂が流れ、
その真偽をあかりに尋ねると・・・
という「ハナダソフ」

スーパーのレジ係の尚美は、
中高生の頃は、
将来スーパーのレジのおばちゃんにだけはなるまい、
と思っていたのに、40を越えた今、
レジのおばちゃんだ。
その尚美が、
小学生の男の子がボールペンを万引きするのを見つけてしまう。
実は尚美自身、息子の大都がコンビニで万引きしてしまい、
店長に叱られた経験がある。
尚美はその男の子に「レジを通してね」とだけ声をかける。
このスーパーには、
自主的に空カートを集めてまわる高齢のお客さんがいて・・
という「カートおじさん」

離婚して引っ越しの荷物整理のさ中、行人(ゆきひと)は、
古いビデオテープを見つける。
再生してみると、
昔、テレビの番組に出た時の録画だった。
想い人に告白するために、
マラソンを完走してから告白する、という設定だ。
マラソンはハーフマラソンになり、20キロになり、
実際は10キロしか走っていない。
その完走先に道代が待っていて、告白する。
結果は駄目だったが、
番組収録後、食事をしたのを機会に交際が始まり、
結婚したが、離婚した。
その番組を再生した行人は・・・
という「十キロ空走る(からはしる)

どの話も、町の片隅で起こった、
小さな小さな出来事だが、
人間がよく描かれており、
会話が軽妙なので、
読後感はものすごくいい。
終った後、温かい気持ちになり、
しばし余韻に浸る。

筆者は明らかに才能がある。
いずれ何かの賞を取るだろう。




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