小説『ほどなく、お別れです それぞれの灯火』  書籍関係

[書籍紹介]

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「ほどなく、お別れです」とは、
葬儀の出棺前に、葬儀社の人が遺族にかける言葉。

ということで分かるように、
この小説は、
葬祭場を舞台に展開する。

清水美空(みそら)は、スカイツリー付近の葬儀場
「坂東会館」に勤めて1年目の新米社員。
アルバイトから始めて、この葬儀社に就職した。
他人の感情が伝わってきたり、
思念を感じ取ったりという、
“気" に敏感な体質をしている。
時々、葬儀をしている故人の“気" を感ずることもある。

美空の上司・漆原(うるしばら)はベテランで、
特に、故人が事故や自殺で亡くなってしまったという、
訳ありの葬儀を多く担当している。

物語は、様々な死因で亡くなった人の
葬儀を通じて、美空が漆原の指導で成長していく様を描く。

第一話「揺蕩(たゆた)う心」は、
交通事故で亡くなった高校生の葬儀。
加害者の大学生の両親が謝罪に訪れたことで、
母親の心が悲しみから怒りに変貌してしまう。
その心をどのように慰めるか。

第二話「遠景」は、
90歳の老女の葬儀。
娘の婿の家に同居していて、自室で自殺した。
直葬のつもりだった娘婿に対して、
「それではおばあちゃんが可哀相だ」と孫たちが主張して、
葬儀を行うようになった。
どことなくやっかい払いが出来た、という印象の喪主に対し、
関係先の女医・坂口有紀の手紙が様相を変える。
その手紙には、娘婿に感謝する故人の気持ちが述べられていた。

第三話「海鳥の棲家」は、
自宅で末期を迎えたいと言っていたにもかかわらず、
容体が急変して病院で亡くなった40代の男性。
二人の子どもを抱えて気丈にふるまう未亡人の
悲しみの捌け口を作ってやる。

第四話「それぞれの灯火」は、
希望していたレストランに就職できたにもかかわらず、
心労から電車の前に身を投げてしまった若い女性。
美空は、通夜の司会を漆原に命じられる。
自分と同年配の、しかも自殺かもしれない女性を
どうやって送ることができるか、美空は悩み抜くが・・・

そして、4話を貫くものとして、
美空の高校時代の友人・夏海の
6年前に亡くなった兄の話がからむ。
サーファーの兄は海難事故で姿を消し、
遺体もあがらなかった。
まだ両親はその死を受け入れていない。
夏海は、遺体がなくても葬儀をあげることは出来るかと美空に問う。
一つの区切りをつけるために。
そして、第二話に登場した女医の有紀が
兄の婚約者だということが判明し・・・

美空自身も、
生まれる前に姉を亡くした背景がある。
漆原の他に、
独特な世界を持った僧侶・里見も登場する。

人間の死を受けとめる職業で、
半端な気持ちで読むことのできない小説だが、
基本的に明るく展開する。
少し明る過ぎるくらい。

長月天音のデビュー作「ほどなく、お別れです」の続編。
著者自身、葬儀場でアルバイトをした経験があるといい、
また、4年前にご主人を亡くしている。

読んでいて、つくづく思ったのは、
「来世」への希望ということ。
宗教に付き物の思想だが、
来世のあることが、
どれだけ死の恐怖を和らげることか。
父母や愛する人に、会いに行く、再会できる、
という考えが恐怖を希望に変える。
宗教の奥深さを感ずる。
人間が死なない存在だったら、
宗教は成立しなかっただろう。
                                        
葬儀の達人、漆原の、
含蓄ある様々な言葉が胸に残る。

「死が絶対的な別れであることに変わりはない。
それを受け入れて前を向ける人と、
嘆き続ける人とは、
一体何が違うのかと、俺も考えたことがある」
「受け入れることができる人は、
別れた人を心の中で生かし続けているのだと思う。
先ほどの喪主のように、
当然のように“その先の世界”があると
信じられる人もいる。
結局はその人の心の問題だ」
「ひとつ言えるとすれば、
悔いを残さない生き方をすることだ。
簡単なことだぞ。
相手を怒らせたらすぐに謝る。
隠し事をしない。
やり残すことがないように、
今できることは今のうちになっておく」
「伝えられなかったことがあるから、
未練が残る」
「生死のことや、人間の感情の仕組みが簡単に分かったら、
宗教も哲学も必要ない。
別れの悲しみがあるから、
いっそう大切な人を愛しく思える」




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