短編集『家康謀殺』  書籍関係

[書籍紹介]

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「野生時代」12月号で、年に一度行われる
「山田風太郎賞受賞者短編競作特集」
という特集のために、
伊東潤が、2014年から2018年にかけて掲載したものに、
2019年4月の1作を加え、
時系列にそって並べた6篇の戦国小説の短編集。

「雑説扱い難く候」

桶狭間合戦と加賀一向一揆を背景にし、
雑説(情報)に翻弄される武将の姿を描く。
特に、圧倒的優位にいた今川義元を
ピンポイントで奇襲して首を取った織田軍の謎を解明する。
その情報を与えてしまった佐川景吉(かげよし)の、
梁田(やなだ)広正に対する偽雑説による復讐に帰結する。
雑説によってのし上がった男は、
雑説によって滅ぼされていく。

「上意に候」

小牧・長久手の戦いを背景に、
叔父・秀吉の養子となった秀次
関白職返上を巡る葛藤を描く。
特に、信長が武功を挙げた家臣たちに分け与える土地の不足を補うため、
茶湯(ちゃのゆ)を流行らせ、
茶道具を褒賞として与えたのに対し、
秀吉が土地を求めて朝鮮半島に触手を延ばした、
という説は興味深い。
秀次は書画骨董を褒賞にしようとするが、失敗する。
功労者に対する褒賞という、封建制度の根幹をなす問題だ。

「秀吉の刺客」

文禄・慶長の役を背景に、
高麗の将軍・李舜臣の刺客として派遣された
根来寺の銃の名手・玄照(げんしょう)の苦悩を描く。
降倭(こうわ)という、朝鮮軍に降伏し、
朝鮮軍のために働いた日本人の武士がおり、
玄照は偽降倭に化けて朝鮮軍に潜り込むが、
李舜臣の人格に触れて苦悩する。

「陥穽」

関ヶ原合戦を背景に、
毛利元就の孫・広家
徳川側と大阪側の狭間に立って、
家康の謀(はかりごと)の罠にはまる姿を描く。

「家康謀殺」

大坂の陣前夜
西に向かう家康の興丁(よちょう)の一人、伊賀の忍・吉蔵が、
組頭の永井直勝(なおかつ)から、
興丁の中にもぐり込んでいる
大阪方の刺客を探るよう指示を受ける。
興丁とは、家康の輿をかつぐ役割で、
その中に刺客がいるということは、大変な事態だった。
興丁の角右衛門、法善坊、与一と天十郎の誰が刺客か、
という謎で物語が進む。
サスペンス仕立てで、6篇の中で一番面白い。
もしかしてこうなるのではないか、
と思わせておいて、やはりそうなる。
ルール破りとすれすれのところだが、
後で読んでみると、
周到に描写されていたと分かる、
技巧的な一篇。

「大忠の男」

大坂の陣を背景に、
速水守久の秀頼に対する忠義を描く。
事態を打開する方策として、
京を火の海にする秘策を受けながら、
それが父・秀吉の願いにかなわぬと、
策を退ける秀頼の姿に共鳴する。

「京には十万を超える民がいる。
多くの者は炎に焼かれて死ぬだろう。
たとえ助かっても、食うや食わずで
路頭に焼け出されることになる。
それはわが本意ではない。
京を焼くぐらいなら、
たとえ豊臣家が滅びようとも構わぬ」


と言う秀頼の姿が凛々しい。
最終的に守久は秀頼と共に命を落とすが、
民の上に立つ武士の姿の理想形を描いて涙を誘う。
6篇中、最も感動的な一篇

総じて、戦国時代の情報戦を描くが、
人と人が騙し騙され、裏をかき、陥れる。
戦国時代というのは、
日本の歴史の中でも
特異な不幸な時代だったのだと、改めて思う。




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