小説『熱帯』  書籍関係

[書籍紹介]

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本書には、著者の森見登美彦ご本人が登場。

担当編集者との話し合いの中で話題になった
「千一夜物語」に触れて、
森見先生はある本を思い出す。
学生時代、たまたま購入した「熱帯」という小説だ。
妙に面白い小説で、少しずつ読み進めていたのだが、
ある日枕元に置いていたはずの「熱帯」が消えてしまう。
その後図書館や本屋をさがしても「熱帯」は見つからず、
結局その結末を知ることはなかった。

それからしばらくして、
森見は「沈黙読書会」なるものに参加し、
そこで「熱帯」を手にした女性に出会う。
森見はその女性に「熱帯」を読ませて欲しいと申し出るが断られる。
「熱帯」は誰も最後まで読んだことのない
謎の本だというのだ。

森見は、「熱帯」を探る会合に参加する。
そこに集まったメンバーは、
かつて「熱帯」を読んだことがあるが、
森見同様、最後まで読む前に本自体が消失したのだという。
そこでは、思い出して熱帯の筋を辿るが、
ある点まで来ると、
一同の記憶の断片だけが羅列されたようになる。

参加者の一人は、
自分の持っている「熱帯」だけが本物で、
他の人の読んだ「熱帯」は偽物だという。
また、別な人は、
「熱帯」には、作者が仕掛けた「暗示」があり、
その暗示に従い、自分で本を処分したのだという。
また、ある人は、そもそも「熱帯」という本は存在せず、
メンバーの願望によるもので、
それらを重ね合わせて、
一冊の「熱帯」という本を捏造しようとしているのだという。
また、ある人は、
「熱帯」の謎を追究しているように見えながら、
じつは新たな謎を創造しているのだという。

実に面白い、興味津々の展開である。

そのうち、メンバーの一人の女性が失踪し、その後を追った男を
さらに後を追い・・・と展開していくのだが、
前半の一冊の本を巡る謎、というテーマはどこかに消え失せ、
すっかりファンタジーになってしまう。
想像力を駆使したファンタジーになると、
もはや「なんでもあり」で、
全ての合理性が排除されてしまう。

そういう点で、期待感を膨らませる前半と、
後半とのギャップの大きさに、
読者は戸惑うばかりとなる。

「千夜一夜物語」が背景にあり、
また、登場人物の語りの中で
別の人物の語りになるという
「入れ子細工」的構成なので、
読みにくいことこの上ない。
しかも、読了後のカタルシスはない
という、「無駄な読書をしてしまった」という感想になる。

先の直木賞候補だが、
選考委員の評は辛い。

伊集院静
前半部に対して、後半部に疑問を抱く選考委員の意見があったが、
私には後半部を興味深く読めた。
これからもこの世界を突き進むことが
氏にとって何より大切なことのように思えた。

宮部みゆき
森見登美彦さんがこの世界で描こうとした世界と、
「スランプに陥っている作家が、
誰も読み通したことのない幻の物語の謎を解く」
お話だと思い込んで読んだ私のワクワク感が、
最後までどうしても重なりませんでした。

林真理子
読者をぐるぐると迷路の中に誘い込んだ。
その混乱が大好きという人もたくさんいるであろうが、
私は楽しめなかった。
読者も一緒になってイマジネーションを楽しむ作品なのだろうが、
私は従いていけなかった。

桐野夏生
導入部は大変魅力的だった。
これからどんな話が始まるのかと期待したのだが、
中盤から、作者が前段の構えに縛られているように感じられた。


浅田次郎
資質の発見に苦慮しておられるのは(垣根涼介と)同様であろう。
無責任な勘を働かせれば、
もしや長篇向きの持続力よりも、
短篇小説の強靭な筋肉を隠し持っているのではあるまいか。

宮城谷昌光
本があっても、たれもその結末がわからない、
というむずかしい設定がなされている。
それを知的な遊戯にしないで、
愚直におしすすめていったら、
あるいはまれにみる名作になったのではないか。

東野圭吾
本作には○も△も×も付けられなかった。
この作品の何を楽しめばいいのか、
まるでわからなかったからだ。
候補になっているのだから、
ほかの人にはわかる美点があるに違いない。
それが全く見えないのは、私に文学的素養がないからだろう。
つまり本作は純文学なのだ。たぶん。

高村薫
繰り出される言葉の織物は、
やがて小説らしい磁場をはらんでゆくことが十分に予感されるのだが、
残念ながら今回はそれ以前に
小説の細部に破れ目が多すぎ、未完成の印象が先に立った。

北方謙三
物語へ引きこむ力は、尋常なものではないと感じた。
それが、次第に迷路へ入っていく。
想像力をすべて解き放つと、こんなふうになっていくのか。
頭の中にイメージが溢れ、
読了した時はそれに溺れてしまっていた。


これで、第160回直木賞の候補作を読了。

順位をつけると、

1位 深緑野分「ベルリンは晴れているか」
2位 垣根涼介「信長の原理」
3位 今村翔吾「童の神」
4位 森見登美彦「熱帯」

なお、受賞作の真藤順丈「宝島」は、
私の感性に会わず、途中で読むのを断念。


なお、その前の第159回の総評がまだだったので、順位を掲載。

1位 木下昌輝「宇喜多の楽土」
2位 本城雅人「傍流の記者」
3位 島本理生「ファーストラヴ」
4位 窪美澄「じっと手を見る」

上田早夕里「破滅の王」
湊かなえ「未来」
私の感性と合わず、中途で断念した。
特に、「未来」は、
次の東野圭吾の評で十分だろう。

いい歳をした男にとっては、
小学生や中学生が未来の自分宛に書いた手紙を
延々と読まされるというのは、
やはりかなり忍耐のいることであった。
構造上、必要な手続きであるにせよ、
そこを何とかするのがプロではないか。 
                     

それぞれの作品の本ブログでの評は、↓をクリック。

ベルリンは晴れているか

信長の原理

宇喜多の楽土

傍流の記者

ファーストラヴ

じっと手を見る





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