小説『ファーストラヴ』  書籍関係

ヘルシンキから帰国した娘は、
グランプリ・シリーズの録画したものを観て、
感激を新たにしています。
現場にいた者だけに許される特権です。

↓は、羽生選手とのツーショット
金髪のお姉さんの頭の上に写っているのが、娘。

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この角度のカメラでは、
随分写っていました。

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[書籍紹介]

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直木賞受賞作

主人公の真壁由紀(まかべ・ゆき)は、
テレビ出演もこなす新進の臨床心理士。
その由紀に、聖山環菜(ひじりやま・かんな)という女性の半生を
臨床心理士の視点からまとめる、
というノンフィクション執筆の依頼が舞い込む。   
環菜は、その頃、世間の話題にのぼっていた
殺人事件の犯人だった。

アナウンサー志望の女子大生が、
キー局の二次面接の途中で辞退し、
帰路に包丁を買って、
父親が講師を務める美術学校を訪ね、
女子トイレで父親を刺殺して、
多摩川沿いを血まみれで歩いていたところを逮捕された、
という事件だ。
父親が高名な画家であったこと、
環菜が美人であったことから、
マスコミの注目を浴びていた。

環菜の国選弁護士として付いた庵野迦葉(あんの・かしょう)は、
由紀の夫の我聞(がもん)の血のつながらない弟で、
由紀は取材のために迦葉と接触した。
実は、由紀と迦葉は大学の同期で一時期恋人だったことがあった。
そのことは夫の我聞には隠していた。

由紀は環菜と面会し、
カウンセリングの形を取りながら、
環菜の心の中に入り込もうとする。
拒絶と容認を繰り返しつつ、
環菜は由紀に心を開きつつあった。

大学時代の環菜の恋人や
小学生だった時、父の絵画教室でモデルをつとめ、
男性の視線にさらされていたこと、
自傷行為を繰り返していたこと、
が判明し、
環菜の母親、
環菜の親友、
環菜が小さい時に関係を結んだ男性、
などに接触するうち、
由紀は環菜の子供時代に何か重大な問題があり、
母親との間にも問題が横たわっていることを推測する。

やがて、裁判になるが、
それまでの供述を翻し、
環菜は殺人ではなく、事故だったと主張し始める・・・

という話に、由紀と父親、母親との確執、
迦葉の母親との軋轢などが浮き彫りになり、
環菜との関係を通じ、
由紀も迦葉も自分の人生の問題と立ち向かうようになる・・・

それを通じて、「家族」という名の迷宮を描く、
というのだが・・・。

小説の中にメンヘラという言葉が出て来るので、
調べたら、
「心の病気を患った人」を指すネットスラングで、
「精神疾患・精神障害を持つ人」という意味。
「メンタルヘルス」(心の健康)という言葉が
匿名掲示板の2ちゃんねるなどで「メンヘル」と略されるようになり、
さらにそれに -er形がついて「メンヘラ」という言葉が生まれた。

つまり、この小説は、
心の病気を患い、事件を起こした女性の
過去を探り、事件の遠因を明らかにする、
という内容。

読んでいて、
アメリカ映画によく出て来るシチュエーションだと感じた。
日本より精神分析医や臨床心理士が多いアメリカでは、
こういう話がよくあるのだ。

弱々しい印象だった環菜が
裁判になった途端、何だか強くなるのは、
ちょっと意外に感じた。
それに、父の死の真相も、
ちょっと無理筋ではないか。

それについては、迦葉の言葉が重い。
裁判では主張を変えたことで心証が悪くなるが、
「事件の背景が隠されたままのほうが良かったなんてことはないよ」
と言う。続けて、
「たとえ刑期が多少短くなったところで、
納得いかない理由を押しつけられた記憶や理不尽は
死ぬまで残る。
どっちが幸せかなんて言い切れないしさ。
本人が納得いくようにやるよ」

ただ、裁判員裁判にもかかわらず、
裁判員の反応があまり描かれていいないのは何故なのか。
そもそも、環菜のようなトラウマを抱えた人格の持ち主が
局アナになろうとするなど、あり得るのだろうか、
という疑問は残る。

また、登場人物の大半が
家族関係に問題を抱えている、
というのも作られた感じがする。

こういうジャンルに斬り込んだ著者の着眼点は認めるが、
あまり納得いく内容ではなかった。

正直言って、これが直木賞?
という印象が強く、
最近の直木賞候補のレベルダウンが選ばれた原因であると共に、
選考委員もこのジャンルに戸惑ったのではないか。

選考委員の評価。

北方謙三
抑制が利いて、行間が豊かだと感じた。
闇を、ゆっくりとまさぐり、かき分け、
気づくと、人の心の奥底に眠る、
真実というものに手が届くかもしれない、という快感がある。

宮城谷昌光
理不尽あるいは不条理とむきあう者は、
その対峙する時間の経過のうちに、
自身がかかえている理不尽、
不条理の解明がなされるか、
潜在的なそれらが浮上するというのが、
小説の原理におけるふりあいというものである。
この作品ではある程度それはなされているとはいえ、
構成的明確さに欠ける。
小説全体がもっている質感はかなり佳い。

浅田次郎
受賞に異論はない。
ページを繰るたびに、才能のしずくがこぼれ落ち、
香気が立つような気がした。
それでも本作を強く押せなかった理由は、
構造上の疑問であった。
このストーリーを一人称で支えるのはつらい。

桐野夏生
全体的に薄味な印象だ。
いつも感じるのは、作者の心の裡にある、
異性との間に生じる違和感やトラウマの存在である。
決して声高には言えない、そのヒリヒリした痛みと躊躇いは、
若い女性の共感を呼ぶことだろう。

東野圭吾
主要登場人物の大方が
深い精神的外傷を引きずっているというのは、
ちょっとやりすぎではないか。
ミステリ的には、警察ではどう供述したのか、
犯行の再現はどう為されたのか、といったところを指摘したくなる。
しかし迦葉と我聞という兄弟の関係はよく描けているし、
作者の都合で人物を動かしていない点に好感が持てたので、
今回はこの作品を○とした。


林真理子
私は強く推すことが出来なかった。
精神科医でもジャーナリストでもない臨床心理士が、
判決の出ていない殺人事件について本を書こうとするのが不自然。
「女子アナウンサーの試験を受けた日の殺人」というのが
キーワードになっているが、
女子アナは自己肯定のカタマリのような職業。
殺人者のキャラクターとまるで合っていないのである。

高村薫
「文章がいい」という声が多かった。
結局、最後に残るのは、現代の都市生活や働く女性の、
ありがちな空気感だけなのだが、
「文章がいい」本作の好感度の高さの正体は、
この現実感の無さなのだろうか。

宮部みゆき
残念ながら私の感覚はこの「ファーストラヴ」という作品世界に
合わなかったらしく、支持できなかったのですが、
体温に近いような酷暑のなかで、
この物語に浸っているときに覚えた冷ややかな恐怖と閉塞感、
作中で暴かれてゆく秘事への嫌悪感には
忘れがたいものがありました。

伊集院静
作品のテーマ、構成、展開、登場人物それぞれの存在感、
そして何よりこの作家だけが持つ、
どのセンテンスからも伝わって来る叙情の込もった文章が、
今回の候補作の中で群を抜いていた。
とくに本作で感心したのは主人公・真壁由紀から感じられた、
内面に潜む、戸惑い、不安の表現であった。




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