小説『悲嘆の門』  書籍関係

[書籍紹介]

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「サンデー毎日」に2012年7月から
2014年6月まで連載した小説。
なにしろ2年間、
上下巻で800ページ。
長い。
長いが、読ませるのは、
いつもながらの宮部みゆきの筆力。。

主人公は三島孝太郎という大学1年生。
意外と楽しくない大学生活に、
高校時代のフットサルクラブのOBである真岐誠吾(まき・せいご)の誘いで、
クマーという会社でアルバイトを始める。
クマーは最近出来た新しい業種で、
ネット上に存在する情報を監視し、
法律違反や犯罪のおそれのあるものを見つけ出し、
調査、措置する会社だ。
孝太郎は、その女社長で美人の山科鮎子に強い憧れを抱く。

一方、退官刑事の都築茂典(つづき・しげのり)は、
町内にある、廃墟のようになっていて、
茶筒ビルと呼ばれているビルの屋上ガーゴイル像が
夜毎その位置を変えるらしい、という噂について、
町内会長に頼まれて調べることになる。

ガーゴイル・・・
怪物などをかたどった彫刻であり、雨樋の機能をもつ。

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パリのノートルダム大聖堂に多数みられる怪物群は
ガーゴイルとして有名。

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本書の中のガーゴイルの印象は↓が最も近い。

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そのさなか、
不可解な事件が立て続けに起こる。
苫小牧、秋田、三島と起こった殺人の
共通点は、足の指のうち一本が切断されていることだった。
その関連から、これは連続殺人で、
「指ビル」と名付けられてネットは沸騰する。
真岐らは、場所が離れていても、
ネットを介してなら殺人が可能として探る。
更に、戸塚で殺人が起こり、
今度は膝から下が切り取られていた。
段々東京に近づいてくる中、
ついに第5の殺人が起こり、
しかも被害者は山科鮎子で、
全ての指が切り取られていた。

これに、孝太郎の家の向かいに住む園井家の娘、
中学生1年生の部活での
裏サイトでのいじめ事件、
クマーでの同じ学生アルバイトの森永健司の失踪事件がからむ。

森永は新宿区で高齢者が連続的に失踪している事件を追っている間に姿を消した。
孝太郎は森永の調査の足跡をたどり、
貧困のため母親に死なれた孤児の真菜の書く絵から
茶筒ビルのガーゴイル像に行き着く。
夜中に茶筒ビルに出かけた孝太郎は、
合い鍵を作って茶筒ビルに侵入していた都築と遭遇する。
そこで二人が見たものは・・・

と、ここで物語が急速に変質する。
えっ、そういう方向に行くのか、の驚愕。
殺人事件のミステリーと思っていたから、
全く意表を突かれた。

これから読む人のため、ネタばれは避けるが、
宮部みゆきの作品群を知っている方は、
ああ、あの領域群か、と分かることだろう。

こうして、連続殺人、失踪事件、
ビル屋上の悪魔像の話、
更に美香のいじめが、
縄をなうように一つにまとまってくる
まさにストーリーテラーの宮部みゆきの面目躍如。
読者を惹きつけつつ、
次の展開に向かう手腕は見事としか言いようがない。

背景にネット社会の悪意が存在するのも
現代的テーマを匂わせる。
こうした題材の取り入れ方もぬかりない。

悪意の存在と、
それに対比しての善意の人々の描写も、
いつもながらの宮部ワールドだ。

森永の言葉。

家があって電気とガスと水道が使えて、
三度の飯が食べられて、
大人は仕事をして、
子供は学校へ行く。
そういう生活って、
すごく脆いんだ。
ちょっと判断を誤り、
そこにちょっと不運が重なると、
ぼろぼろとすべてが崩れてなくなってしまうんだよ。

ただ、物語の核となる、
ある世界については、
渇望も領域(リージョン)も輪(サークル)、無名の地など、
何度読んでも
イメージ化できなかった。
まして、「その門をくぐる者、すべての希望を捨てよ」という、
題名となっている「悲嘆の門」も、
なぜそのようなものが存在するのか、
機能を含めて、全く理解できなかった。

こういう世界に引きずり込んだら、
「何でもあり」で、
ご都合主義になってしまう。

しかし、物語を読む楽しみを
たっぷり味あわせてもらった。




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