小説『罪の声』  書籍関係

[書籍紹介]

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「週刊文春」ミステリーベスト10の2016年国内部門第1位の作品。

昭和59年に起こった「グリコ森永事件」を題材にしたミステリー。
ただ、犯人まで特定しているため、
創作であることを強調するためにグリコはギンガ、
森永製菓は萬堂製菓と変えられ、
「ギン萬事件」と呼ばれている。
犯人を名乗るグループの「かい人20面相」は、
「くら魔天狗」と変えられている。
しかし、事件の経過はグリコ森永事件そのままで、
これについは、作者が巻末で、

本作品はフィクションですが、
モデルにした「グリコ・森永事件」の
発生日時、場所、犯人グループの脅迫・挑戦状の内容、
その後の事件報道について、
極力史実通りに再現しました。

と断っている。

物語は、二つの糸から成り立つ。

一つは、テーラー曽根を経営する曽根俊也が
入院中の母親からの依頼の探し物で、
父の遺品らしきものの中から
カセットテープと黒革のノートを発見する。
ノートには英語での記録と共に、
「ギンガ」「萬堂」という言葉が書かれていた。

カセットテープには、子供の声で、
何か場所を指定する言葉が録音されていた。
俊也は動画サイトを開き、
ギン萬事件のドキュメンタリー番組の中に、
カセットテープと同じ音を見いだす。
それは一連のギン萬事件の中で、
要求した金の受け渡し場所を指定する音声だった。
俊也は、この声は自分の声だと思うが、
幼少の時のことで記憶にない。

俊也は父の親友だった堀田を訪ねて相談する。
その話の中で浮かび上がったのは、
父の兄の達雄で、イギリスで消息を絶っている人物だった。

堀田と俊也は金融関係の男で伯父を知っている男と会い、
事件当時、伯父が日本に帰国していたこと、
犯人グループの会合を見た人物がいることを聞き出す。
その会合の場所、堺市の小料理屋で
板長からその会合の件を聞き出す。
その場にいた生島という人物に
中学3年の姉と小学2年の弟がいたことが分かる。
事件の時、子供のテープは3種類あった・・・

もう一つの糸が大日新聞文化部記者の阿久津。
年末企画でギン萬事件の特集をやることになり、
そのチームに刈り出される。
最初に手をつけたのが、
ギン萬事件に酷似したオランダのハイネケン誘拐事件で、
事件の詳細を聞き込みしていた東洋人の存在を探るために
イギリスに飛ぶ。
元誘拐交渉人の男に調べてもらい、
その東洋人と同棲していた女性の存在を知り、
シェフィールドという地方都市まで行き、
その女性に会うが空振りに終わる。
デスクの鳥居からは、取材費の無駄使いを責められる。

今は系列会社に天下りしているが、
当時事件の取材をした水島から
資料を託された阿久津は、
地道な捜査を進め、
当時の犯人の目的が株取引でとないかとの疑いから
金融業者に取材したり、
犯人グループの無線を傍受した人物の捜査をしたりしているうち、
その録音CDを発見する。

さらに事件に関係したと思われる人物の写っている写真の中に、
「キツネ目の男」を発見する。
「キツネ目」の男とは、
捜査員に目撃された犯人一味の一人で、
似顔絵が公開されたが、逮捕には結びつかなかった人物だ。

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俊也の方は、生島の家庭が
ある時蒸発していることなどに行き着くが、
俊也の中には、
その声が自分の声であったことが明るみに出た時、
自分の家庭がマスコミにさらされ、
それは娘の行く末にも影響があるのではないかと危惧し、
捜査を途中でストップする。

やがて、阿久津の捜査でも、
堺市の小料理屋にいきつき、
そこで俊也と阿久津の
二つの糸が出会うのだった・・・

グリコ・森永事件の脅迫電話で、
子供の声、
しかも3種類の録音テープが使われたのは事実。
犯人の声が録音されるのを恐れたのだが、
この子供の声に着目した点が秀逸
そして、その子供のたどった運命に
作家の想像の羽が羽ばたく。

小説は、後半、
その録音に関わった俊也以外の二人の子供の運命についても
描写は及ぶ。

巻末で作者はこのように書いている。

この戦後最大の未解決事件は
「子どもを巻き込んだ事件なんだ」
という強い想いから、
本当にこのような人生があったかもしれない、
と思える物語を書きたかったからです。

その想いは報われたといえよう。

担当デスクのセリフ。

「これだけの大事件を未解決に終わらせてしまった警察が、
一切の総括をしてないこともおかしいけど、
スクープ合戦に明け暮れて、
劇場型犯罪の舞台を提供したマスメディアも、
当時の報道について
何ら結論を出せていない」

俊也と阿久津という二人の人物の捜査を
二本の糸として、
特に阿久津の地道な取材で真相に行き当たる構成は見事。

犯人像やその動機など、
?という部分は多いが、
過去の第事件に新たな光を当てたという点で、
注目される作品だといえよう。

事件の取材を終えて、
真相解明に行き着いたデスクが次のように言う。

「俺らの仕事は因数分解みたいなもんや。
何ぼしんどうても、
正面にある不幸や悲しみから目を逸らさんと
『なぜ』という想いで
割り続けなあかん。
素数になるまで割り続けるのは並大抵のことやないけど、
諦めたらあかん。
その素数こそ
事件の本質であり、
人間が求める真実や」

粘り強い取材を続けた阿久津が行き着いた先こそ、
その素数だった、
というのは興味深い。

久しぶりに構想の大きなミステリーを読んだ。

グリコ・森永事件について、
知りたい方は、↓をクリック。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%82%B3%E3%83%BB%E6%A3%AE%E6%B0%B8%E4%BA%8B%E4%BB%B6





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