小説『殺人者の顔』  書籍関係

[書籍紹介]

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ヘニング・マンケル著による
スウェーデンの警察小説
クルト・ヴァランダー・シリーズの第1作。
スウェーデンが誇る現代警察小説の金字塔だという。
著者はあのイングマル・ベルイマンの娘婿だそうだ。

物語の舞台はスウェーデン南部のスコーネ地方、
バルト海に面した小さな町々だ。
1990年1月8日、
レンナルプ村に住む老夫婦が何者かに襲われた。
隣人の通報によりイースタッド警察署の
クルト・ヴァランダーらが到着すると
夫は既に死亡し、妻は瀕死の状態であった。
強盗の仕業と思われたが
負った傷の状態から両者共に拷問を受けており、
奪われた物も不明。
目ぼしい財産を持っていそうにない田舎に住む老夫婦に
犯行の動機となりえるものがあるとは思えない中、
重傷を負った老婦人は「外国の…」と言い残し死亡した。

被害者を縛っていた縄の特徴ある縛り方と
外国人という手掛かりで捜査を進めようとした矢先、
どこからか捜査情報が漏れ、
ニュースで犯人が外国人らしいと報道されてしまった。
実は、その頃のスウェーデンは、
国外から流入する移民との軋轢を抱えており、
外国人の犯罪となると、
住民の感情を刺激するおそれがあった。
実際、移民の収容所が放火され、
更にはソマリアから来た移民の一人が
散弾銃で頭を吹き飛ばされるという
第二の殺人事件が発生した。

捜査の中、被害者の老人には、
妻以外の古い愛人が昔おり、
その女性に生ませた息子に
定期的にお金を渡していたらしいことが分かる。
事件の起こる少し前に
銀行から大金をおろしており、
それを入れたはずの鞄が消えていた。

クルト・ヴァランダーは、
被害者の息子らしき人物が
最近借金を精算している事実をつかみ、
事情聴取するが、
彼にはアリバイがあった。

ヴァランターらの努力により、
第2の殺人の犯人は捕まったが、
第1の殺人の手がかりはないままだ。
そんなある日、銀行を訪ねたヴァランターに、
あるひらめきが訪れる・・・

首都ストックホルムから遥か離れた寒村が舞台で、
その寒々とした環境の描写と
主人公のクルト・ヴァランダーの置かれた境遇が共鳴しあう。

なにしろ、妻に最近離婚されたばかり。
娘との関係もぎくしゃくしており、
絵描きの父に認知症の兆候が表れている。
新任の女性検察官に一目惚れするが、
相手は夫も子どももある身だ。
妻と会って食事をしても、
よりを戻せる見込みはなく、
淋しさに泣いてしまうほど。
妻とは別れた後、
誰と来たのか確かめようと尾行したりする。
父親はイタリアに旅行すると言って、
パジャマで畑を歩いて保護された。

このように、
主人公である中年警官の現状は悲惨だが、
ただ、職務には忠実で、
老夫婦の惨殺事件、移民の殺害事件、
どちらも難しいものを、
逃げ出さず放り出さずに取り組む姿が胸を打つ。
また、鑑識をする刑事で信頼できる相棒のリードベリが
ガンに冒され、余命いくばくもない状況が
ヴァランダーの淋しさを加速する。

リードベリとの会話。

「いや、おまえさんはいい警官だ」
とリードベリがはっきり言った。
「いままで言ったことがなかったかもしれないが、
おまえさんは実にいい警官だよ」
「だが、まちがいが多すぎたよ」
とヴァランダーは答えた。
「おまえさんはしぶとかった。
絶対に放り出さなかった。
レンナルプの老人たちを殺した犯人を捕まえたい、
その一心でな。
大切なのはそれだよ」

それでも、ベッドの中でヴァランダーは考えてしまう。

新しい時代には
新しいタイプの警官が必要なのかもしれない。

スウェーデンが抱える移民や難民受け入れの社会問題が
背景に色濃く存在する。
こんなにも前からヨーロッパには移民・難民問題があったのだ。

女検事とのヴァランダーの会話。

「移民政策が存在しないからこそ、
この国はまさにカオスの状態になっているんです。
いまスウェーデンには、
どんな外国人でも、
どのような動機であろうと、
いつでもどこからでもどのようにでも、
入ってこられる。
国境でのチェックはない。
税関などどこでも素通りです。
警備員もいない飛行場が無数にあって、
毎晩麻薬であろうと
もぐりの移民であろうと、
運びこまれてくるのに、
コントロールはまったくなされていないんですから」

あとがきには、こう説明がある。

本書の中で取り上げられている外国人に対する反感は、
1990年代の初頭にはとくに強かった。
スウェーデンは第二次大戦後、
他の北欧諸国から
労働力として移民を受け入れた。
その後、不況の時代には労働力を輸入しなくなったが、
政治亡命者と難民を受け入れてきた。
現在、スウェーデンの人口は約890万人だが、
その5分の1が移民、または親が外国生まれ、
あるいはスウェーデンに帰化した外国人である。
わずか50年ばかりのあいだに
5人に1人の国民が
外国にルーツをもつようになった内訳は、
外国人労働者、外国人労働者が呼び寄せた家族、
新たな労働者(EU諸国の市民には
ビザ無しで一定期間スウェーデンで労働できる取り決めがある)、
難民、政治亡命者、国際養子などである。

ヴァランダーの唯一の趣味は、
オペラで、
家や車の中でオペラの曲を聞いて自分を慰める。

まことに魅力的な刑事ヴァランダー・シリーズは、
全部で9作
読むか、読まないか。






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