『オールド・テロリスト』  書籍関係

〔書籍紹介〕

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フリーライターのセキグチは、
職を失い、妻子にも逃げられ、荒んだ生活をしていた。

昔勤めた出版社から記事を書いて欲しい、と依頼を受ける。
「NHKでテロが起こる」とのタレコミで、
記事の執筆者としてセキグチが指名されていたという。
セキグチは取材費ほしさに出かけるが、
実際に、NHKのロビーで火災が起こり、12人の犠牲者が出た。

犯人たちは自殺し、
残したその遺書が
隷書体という珍しい書体で書かれていたことに着目して、
セキグチは、犯人の一人が通っていた書道教室に向かう。
そこは老人たちが集う寄り合い所のようなところで、
その中にある書道教室で
生徒の二十代女性のカツラギに出会う。

預けていたジャケットのポケットに、
次の犯行を予告するマイクロフィルムが入っており、
その画像から、大田区池上柳橋商店街に行くと、
刈払機で3人の男女を襲う事件が発生し、
犯人の若者は刈払機を自身の首に向けて自殺した。

犯人の通院していた心療内科にカツラギと行くと、
アカヅキという医師が、
老人たちの集団がテロを画策していること仄めかす。
さらに、アカヅキは歌舞伎町の映画館でテロが起こることを示唆し、
セキグチたちはそこへ向かう。
映画館では毒ガスが撒かれ、
火災も引き起こされ、
867名もの死者が出た。

セキグチは、カツラギの祖父の友人であるというコンドウに会う。
すでに百歳を迎え、喋ることもままならない状態だったが、
今回のテロ計画の発起人であるという。
しかし、計画とは変わってきており、
現在、計画の実質的な主権を担っているのは、
ミツイシだと明かされた。

コンドウが死去し、弔問に訪れたセキグチは、
そこでミツイシに出会う。
ミツイシは、
「腑抜けた日本を、大戦直後のような焼け野原にし、
一から再生する必要がある」
と主張し、そのため、
満州から引き上げる際に持ち込んだという
88ミリ対戦車砲を使用して、
原発を狙うという。

ミツイシたちの本拠を訪れたセキグチは、
しっかりとした意志のもとに
日本にテロを起して日本の再生をめざす
高齢者たちのテロ集団に遭遇する。
そう、彼等は「オールド・テロリスト」なのだ。

高齢者たちのテロ集団の話、というので、
世の中から忘れられた老人たちの
世間に対する復讐のテロ、を想像したら、
それは「凡人」の私の発想で、
「天才」村上龍は、
全く違う老人たちの姿を提示する。
満州国の残党で、
社会的に見れば成功者たち。
逆に敗北者は仲間に加えないのだという。

「おれたちって、
家庭とか、あと仕事だな、
なにか問題があって、参加したやつなんか誰もいないんだよ」
「家庭もダメ、仕事もダメ、
そんなやつは、ミツイシは参加させなかった。
私生活に不平不満があるやつなんか、一人もいないよ。
そんなやつは、ダメというか、やばいんだ。
動機が浅いから決意も鈍いし、
平気で裏切ったりするんだよ」

目的のために無差別テロも辞さず、
高度な訓練で
原発の攻撃を目指す。
その背景をあかし、
セキグチに執筆し、公表してほしいという。
しかし、その背後には
もっと深慮遠謀の
日本荒地化計画が隠されていた・・・

セキグチは同じ村上作の「希望の国のエクソダス」に出て来る人物。
いわば続編だが、
人物以外はつながりはない。
老人たちの正体に近づくプロセスが天才的で、
カツラギという女性が重要人物として登場する。
このカツラギのキャラが魅力的で、作品を支える。
壮絶な過去とトラウマを持つカツラギは、
性格破綻者だが、真実への洞察力が並外れている。

「年寄りは、静かに暮らし、
あとはテロをやって歴史を変えれば
それでいいんだ」
というミツイシの言葉が後に残る。

高齢者たちが世界を変える
という視点が面白く、
ありそうもない話がありそうな話に見えて来るのは、
村上龍の力業(ちからわざ)。

とにかく面白く、
ページをめくる手が止まらない。
長い小説だが、
読み終えた後の重量感は
読み終えてよかった、
と感じさせるものだった。

分かれた女房と会話した後のセキグチの言葉。

思いがけない由美子との会話のあと、
おれが襲われたのは、
後悔だった。
後悔ほど恐ろしいものはないかもしれない。
感傷や絶望なら、
簡単ではないが、
慣れや、回復の見込みがあるような気がする。
後悔は違う。
一生消えることがない。
安定剤を飲むときも、
ウイスキーを喉に流し込むときも、
露になった後悔が、
鉛のように全身にのしかかった。

私がよく観る、
テレビ東京の「カンブリア宮殿」での村上龍は、
高密度の知識を持った常識人として登場するが、
小説の世界では、
これほど危険な思想の持ち主だと分かる一編。

                        



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