『黎明の笛』  書籍関係

〔書籍紹介〕

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空自幹部の倉橋日見子は、
二年間交際していた
陸自・特殊作戦群の秋津和生からプロポーズを受ける。
だが、上司に婚約の報告をしたその日から、
日見子に対する情報保全隊の執拗なマークが始まった。
身辺を疑われる覚えのない日見子は、
情報班の部下、安西とともに真相を探るべく、
密かに動き出す。
その矢先、秋津率いる約40名が
演習場から突然失踪。
直後、「竹島を『奪還』した」という驚愕の一報が入る。
緊張が走る航空総隊司令部。
はたして失踪メンバー、秋津たちの真の目的は?
そして日本政府は、自衛隊はどう動くのか? 
情報の閉ざされた中、
日見子の孤独な24時間の戦いがはじまる……。

元自衛官の書いた、自衛隊小説
そういう意味で専門性が高い。
しかし、高い専門性を補う工夫が足りないので、読み辛い。

自衛隊の部隊が
独断とはいえ、竹島を占拠する
というアイデアは買える。
しかし、主人公倉橋日見子の視点を中心に
航空総隊司令部を舞台に描くので、
せっかくのアイデアも臨場感に欠ける
竹島を占拠した状況も
失踪グループの動きも
ほとんど直接描写はない。

これは小説の基本で、
ある事件が起きた時、
それを直接描写で描くのと、
間接描写で描くのとでは
読者を引きつける力が違う。

後半のほとんどを占める
韓国戦闘機による石油備蓄基地の攻撃と
それを巡る空中戦も
総隊司令部のスクリーンに表示されるだけ。
間接描写が興をそぐ典型だ。
韓国の世論、日本の世論がどんなっているか
政府の動き等
一番知りたい点も描いていない。

しかし、元自衛隊員の筆だけあって、
日本の自衛隊に対する問題意識は高く、
次々と刺激的な指摘が登場する。

秋津の日本政府への要求。
「我々の行動が日本政府の意志であることを認め、
竹島の奪還完了を宣言せよ。
宣言しない時は、
武は持つだけでなく、
それを用いる気概なくば、
意味がないということを思い知ることになる」

この
「武は持つだけでなく、
それを用いる気概なくば、
意味がない」
という部分が秋津たちが行動を起こした中核だ。
そして、更に続ける。
「竹島は現在我々の制圧下にある。
よって、もし我々の行動を
日本政府の意志とは無関係だなどと宣言すれば、
それは日本政府には竹島領有の意志はないと
世界に宣言することと同じになる。
既に実力で管理下に置いておきながら、
それを否定するんだからな。
その場合、日本政府には、
竹島を実効支配する意志はないとみなされるだろう。
韓国は制圧部隊を送り込み、
我々は殲滅されるだろう。
だが、彼らも無事ではすまないし、
現在我々が拘束している警備隊と政府関係者、
そして二名の民間人の命も保証はできない。
そして、それ以上に、
日本は竹島を取り戻す主張の根拠を永遠に失う」

この行動によって自衛隊は次のことを理解すると言う。
「自分たちが、
虚構の安寧の中にいたのだということを。
防衛力だけ整備して、
それだけで敵を抑止できると信じ、
偽りの平和に酔っていたのだということを」

「専守防衛などという軍事的合理性とは
かけ離れた理念を押しつけられ、
存分に力を発揮することがゆるされない状態に
不満を覚える者は多い。
でなければ、我々の行動に、
なぜこんなにも参加する者がいるのだ。
彼らは命じられて参加しているのではない。
自分たちがいくら戦う能力を磨き、
寄らば斬るの気概を持っても、
国家が同じ気概を持たなければ、
何の意味もなさない」

「それに染まった自衛官は、
武人の気概を失い、
訓練のための訓練を繰り返すだけの木偶と化す」

「国民は、武を用いることで
初めて達成されるものがあるのだということを理解するだろう」

それは、日本国民の寝ぼけた国防意識を
目覚めさせるには十分なはずだ。
年間四兆六千億の予算を注ぎ込もうとも、
専守防衛などという
軍事的に非合理的な戦術を継続していたのでは、
たった一機の戦闘機により、
許容しがたい損害を受けるという、
この世の冷厳な現実を知ることになる。

「日本人は、
痛い思いをしなければ目覚めはしない。
国民を導くためには、
楽しげな笛の音では駄目なんだよ。
震え上がらせるような
悪魔の笛でなければ駄目だ。
たとえ、これを契機に竹島が戻ってきたとしても、
棚ぼた的な利益など、
すぐに忘れ去られちまう。
恐怖をもって導いてこそ、
日本は真の夜明けを迎えられる」

「最終的には、
国際司法裁判所への提訴を、
韓国に飲ませることだな。
話し合いとやらが好きな日本政府としては、
これ以上ない結果だろう。
で、そのためには、
それまでの間、
日韓双方からの委任を受けたという形で、
アメリカ軍に駐留させるのが一番だ」
「アメリカは動いてくれますか?」
「くれるどころか、
もう第三海兵遠征軍あたりに準備させてるかもしれん。
アメリカは、日韓でケンカをさせるわけにはいかないからな。
奴らが他に採れる選択肢はねえよ」
「今までの対応を見ると、
韓国が提訴を飲むとは思えませんが」
「それなら、日本と戦争するか?
今までとは状況が違うだろうが。
今回の事件までは、
韓国は竹島を実効支配してた。
実効支配が長引けば長引くほど、
いずれ国際司法裁判所に提訴することになれば、
その事実は有利に作用する。
だから、提訴に応じなかった。
だが、秋津たちが竹島を占拠したことで、
奴らは実効支配を失った。
日本政府が秋津たちを脱走兵だと言わない限り、
現在の実効支配者は日本だ。
この状態が長引けば長引くほど、
国際司法裁判所の判断は日本側に傾く。
韓国としては、
今の時点で提訴に応じた方がいいんだよ」

等々、
平和ぼけした日本に対する警鐘という意味で、
興味深い小説である。





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