「フェリシエラとわたしと、終わりゆく世界に1 ゆき、ふりつむ」
小説の感想など
■フェリシエラとわたしと、終わりゆく世界に1 ゆき、ふりつむ/著:今田隆文/絵:水上カオリ/富士見ファンタジア
なんか、変わった感じの物語でした。
個人的には1巻目から「1」って付いているのは好きじゃないんですけどね。
それは置いといて。
物語としては、僕は好きですね。
とてもゆっくりとしていて、最初から最後までほぼ1つのことしか進まない。
途中のクライマックスがない!
まあ、ないわけではなく、雪玉と呼ばれる敵をやっつけるシーンはあるんですが、その描写がわかりにくくてねえ、、、
そしてこの雪玉については触れたものを無にしてしまう以外なんの説明はないし、もうちょっとわかるように描けばいいのに、さっぱり。
そして主人公ヒヨリの存在意義についても、さっぱりわからず。
登場するほとんどが人工知能のあるロボットっていうのもすごいですが。
動ける人間が1人しかいないってのもすごい。
この巻では、なにか理由があって隠されていたっぽい主人公ヒヨリが、ほかのロボットたちに見つかるところから始まります。
ただ、ヒヨリはすごく幼くて、なんにも知らないんですね。
ロボットは、本来的には人間をサポートするために作られたものだから、そのための基本情報がインプットされているべきなのに、それがない。
そのヒヨリが、ほかのロボットや人間の中でいっしょに生きていくようになる、という物語なんですけど。
その世界では、人間は堕落してしまってバーチャル世界に浸るようになり、怠惰してなにも生産することはできないみたいです。
そしてそのまま死んでいくみたいです。
そして、活動しているのは最後の1人、という結構切望的な状況なんですけどね。
でもこの人間がとてもいい人だし、ロボットたちもまあ普通の人間の容姿をしていて、けんかしながら和気藹々と過ごしているので、あまり危機感がありません。
前半あたりの描き方はすごくいいと思うんですよね。
みんなの生活を紹介されて、いろんなことを見ていくんですが、なんせ感情的なこともなにもわからないもんだから、みんなが大変なんです。
自分で服を着ることもできない、食事もできない、「うれしい」とかもわかんない。
でも、それを周りの者が教えたりして、歓迎会を開いたりして、すごくあったかいんですよ。
物語全体が、すごく危機的状況なのにすごくほのぼのしているのがいいです。
登場人物も多いんですが、みんなキャラクタははっきりしていて、年齢も性格もばらばら。
なんか、ほっとするんですよね。
ちょっと昔の学生さんとか、ちょっと昔の町の人たち、みたいな感じ。
この人物のほのぼのさと、ほんとは危機的な世界の状況、幼いヒヨリの素の良さが、この物語のいいところでしょう。
ただ、作り方にはちょっと。
あえて「1」とするのであれば、次も読んでみようと思えるものにしないとねえ。
淡々とヒヨリの紹介だけ進んでいって、ページが来たから1巻おしまい、的な感じに思えます。
いちおう、雪玉の謎、バーチャル世界に浸った人間たちの様子、フィリシエラの障害など、次に続く要素はあるんですが、全部弱いです。
まあでも、僕は好きですけどね。
打ち切りらしいですけど、とても残念です。
ヒヨリがどのように成長していくのか、雪玉とはなにか、人間は復活するのか、超マイペースで進んでいきそうなところも含めて、楽しみだったんですけど。
(H20.10.14)

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