「ギャル・ももが逃げた!」
9月25日深夜、ご近所の方から通報で、横浜一角は突如の戒厳体制がしかれました。
以前から「外」に異常な執着を持っていたももちゃん、一度エレベーター脇の縁を伝って脱出を試みたのですが、はるパパ警備員に発見され、未遂に終わりました。
その後、百均金網と籠でアルカトラズ刑務所並みの高い塀が作られ、監視体制も強固にしたのですが、昨日深夜、とうとうその目をかいくぐり、脱走に成功したのです。
幹線猫通路には検問が設けられ、懐中電灯のライトが闇夜をつらぬき、上空にはヘリコプターが轟音を立てて舞います。
目撃証言によると、どうやら脱走犯;リチャード・ももちゃんは我が家の屋上にいるらしいのです。
はるパパ・ジェラード警部の執拗な追跡が始まりました。
警部は非常用はしごを伝い、屋上に出ました。
闇の中に目を凝らします。すると、
いました!
ももちゃんがうひょひょーと脱走劇を楽しんでいます。
かわいい顔してあいつ、愉快犯だったのです。
「リチャード!君は完全に包囲されている。かんねんして出てきなさい!」
ジェラード警部は拡声器を手に持ち、脱走犯の説得にかかりました。
「今、君のお母さんがここに来ていらっしゃる・・・」
「ももちゃん・・・!」
と、お母さんが声を上げたその瞬間、なんということでしょう、またもやリチャードはうひょひょーと逃げ出し、屋上から飛び降りました。
警部は駆けつけ、下を見下ろしますが、どこにも姿はありません。
闇の中にリチャードは忽然と姿を消したのです。
ヒュー・・・一陣の風が吹き抜けます。
「いずこへ・・・!?」
ジェラード警部はまるでチャーリー浜のように、呆然と屋上に立ち尽くすのでした。
アルカトラズ百均塀
ガガガッ、けたたましい機械音が深夜に鳴り響きました。
ジェラード警部はトランシーバーを耳に当てます。
くぐもった声が闇に響き、警部の天然パーマが風になびいています。
やがて、信じられないという顔で警部はトランシーバーを降ろしました。
逃亡者、リチャード・ももちゃんがアルカトラズに戻ったというのです!
はしごを伝い、家に戻ると、確かにリチャードはいました。
ベランダで脚を首に当て、ぼりぼり耳をかいているではありませんか。
なんというふてぶてしい態度。
思わず警部が銃口を向けようとすると、バシッ!、シロミ婦警が猫パンチで払い落としました。
「拳銃は最後の武器よ」
婦警はそう言って、あくびをしました。
落とした拳銃を豆ちゃんがひょひょいしながら遊んでいます。
と、突然、あたり一面に芳香が漂いました。
ももちゃんです。ももちゃんが大事なクリスマスローズの植木鉢にうんちをしたのです。
ジェラード警部は歯ぎしりして、うんちを掃除しました。
「犯人検挙」の一報が猫署捜査本部に流れました。
あくびをしていたクロード課長、涙目のためお部長、大また開きで寝ていたぎんじろう捜査員は段ボール箱に戻り、再び眠りこけます。
炊き出しの準備をしていたふうちゃん婦警は「ばかやっちゃが!」と言いながら背伸びをしました。
「明日、食べましょ」
シロミ婦警はふうちゃんが作ったおにぎりカリポリにラップを掛けました。
かくして、深夜の脱出劇はあっけなく幕を降ろしたのです。
しかし、意外な結末が待っていました。
翌朝、両婦警が朝食の支度に行くと、ラップは破られ、おにぎりは跡形もなく消えていたのです。
いったい、誰が・・・!?
そばには、お腹ぽんぽんに膨らませた警察猫チノが寝ていたのでした。
「610グラムだっちーの!」
この物語は(ほとんど)ノンフィクションです。

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