歌稽古を終え、ぼんやりコーヒーを飲んでいました。
一進一退、いいとこまではいくんだけど、もうひとつツメが甘い・・・
録音した自分の声は未だ熟しておりません。
「満足したら成長は止まる」
っていうけど、満足のしようがねえや・・・
ま、地道にやるか・・・なんてことを考えておりますと、どこからかガサガサ音が聞こえてきます。
ふと見ると、我が家の猫が勢ぞろい、全員、天井の一点を見上げています。
視線の先を追えば、いました、音の出所・・・
トンボです。
トンボが部屋に入り込んだのです。
きみ・・・えらいとこに迷い込んじゃったなぁ・・・
天井の侵入者はまるで舞台上のマイケル・ジャクソンのように、観客たちから一斉の視線を浴びています。
おい、テレてる場合じゃないよ。
よりによって・・・
猫屋敷に・・・
私はつい先ほどまでの反省をすっかり忘れ、目の前の「アトラクション」に心奪われてしまいました。
ももちゃんは動物園のクマのように行ったり来たり、ためおくんはお気に入りの籐椅子から注視、シロミちゃんは態勢を低くして隙をうかがい、クロードは唇を痙攣させてキリキリ言っています。
ふうちゃんは・・・
彼女だけは我関せずで、今週のお気に入り;ダンボール箱の中で高いびきです。
おそらく、トンボごときではふうちゃんの相手にはならないのでしょう。
なにしろ彼女、見かけによらず機敏な動作で、スズメを捕まえたことすらあるツワモノなのですから。
で、ぎんじろうはと言いますと・・・
「どうかしたのかにゃあ・・・?」
と、ひとり蚊帳の外。
何が起こっているのか気づいてもいないようです。
さすがはのんびり、おっとり、優しい猫です。
と、クロードが動きました。
トンボめがけて大ジャンプし、ひょひょいと手・・・前足で獲物を操り、あっという間に口に咥えました。
しかし、さすがに猫です。
食べようとはせず、いったん、口から放し、トンボが逃げようとするところを再び手・・・前足でひょひょい、再び咥えて河岸(かし)を変えます。
これぞ猫の猫たる所以、やつは獲物を「もてあそんでいる」のです。
ところが、これからだっていうときに、大事なおもちゃを横取りしたものがいました。
かみさんです。
見かねて、トンボをベランダに放してやったのです。
かつて、ふうちゃんが捕まえたスズメを逃がしてやったのも彼女でした。
ベランダではぎんじろうがゴロリと日向ぼっこをしております。
やつの目はこんなことを言っていました。
トンボだって、オケラだって、あめんぼだって・・・
みんな、友達にゃんだ!
「優しさ」って言うんですよね・・・
じゅわーっと心に届きました。
こんな世知辛い、冷たい、厳しい世の中だから、猫も人も優しさを忘れてはいかんのです。
敬愛する野村監督がこんなことをおっしゃっていました。
「人間的進歩なくして、技術的進歩なし」
その通りです。
私の歌が未だ熟さないのも、人間が未熟だからなのです。
トンボを優しく見守るぎんじろう・・・私は深く思い知りました。
おれはぎんじろうみたいになるぞ!
と、決意した二秒後・・・
ぎんじろうは・・・
・・・やっぱり、猫でした・・・

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