我が家のしろみちゃんはある日突然、駅の坂道に現れました。
道行く人たちに必死でアプローチしています。
ひとりがだめなら、また次のひと、そうやって懸命に何か訴えているのです。
「誰かわたしを助けて!」
そう言っているようでした。
多分、捨てられたのでしょう。胸に骨折した跡があり、ひょっとしたら虐待を受けていたのかもしれません。
一週間ほど様子を見ていると、あの美しかった純白の毛並みが段々薄汚れてきました。
これはもう限界だと思い、我が家に保護したのです。
すぐに里親さんが見つかったのですが、その家の先住猫との相性が悪く、一ヶ月ほどで彼女は出戻ってきました。
ただでさえ捨てられて傷ついただろうに、また出戻ってきて・・・
なんだか不憫でなりません。
しろみちゃんは我が家の猫になりました。
ある日、私は彼女の写真を撮りました。
すると、そこには奇妙なものが映っていたのです。
彼女の背中に別の猫がいます。
よく見ると他にも何匹かいるではありませんか!
一体何なのでしょう!?しろみちゃんはこの猫たちの生まれ変わりなのでしょうか?
「誰かわたしを助けて!」
あの声はこの子たちが叫んでいたのでしょうか・・・
「お花の中にムギョちゃんがいたの!」
フジコ・ヘミングさんのコンサートから帰ったかみさんは興奮して言いました。
コンサートの舞台は華道家の假屋崎省吾さんが活けた沢山の花で飾られており、その中にムギョちゃんの顔が見えたというのです。
ムギョちゃんは去年の暮れ天国に行った愛猫です。
花と花の間の空間が目鼻に、活けられた花全体が輪郭に見えたのだそうです。
たまたま楽屋で会った假屋崎さんにかみさんがこの話をすると、
「花って猫を呼ぶんですよね・・・」
そう答えたそうです。
かみさんはアニマルコミュニケーターのMさんにもこの話をしました。すると、Mさんは不思議なことを言ったのです。
Mさんがその日、本屋で猫の写真集を見ていたら、めくるページ、めくるページにやたらアメリカン・ショートヘアが出てきたそうです。
ムギョちゃんはこの種類のシルバータビー(銀色の縞模様)です。アメリカン・ショートヘア・・・
実は私も最近目にしていました。
数日前、ある方が私に見せてくれた愛猫写真、それがアメショのブラウンタビーだったのです。
あ・・・
ムギョちゃんが天国から何か言おうとしています。
なあに、ムギョちゃん、何が言いたいの・・・?
「それだけじゃないのよ・・・」
かみさんは未だ興奮冷めやらずといった呈で話を続けます。
「コンサートから帰ってきたらね・・・」
かみさんは息をもつかずまくしたてました。
そしてようやく話し終えると、「明日、行こうと思うの」、そう言ったのです。
私は深く息を吐きました。
何かとてつもなく大きな意志が働いているのを感じずにはいられなかったのです。
そして、こう答えました。
「おれも行く・・・」
がんじろうは東急田園都市線あざみ野、劇団四季稽古場にある日突然現れました。
野良なのに太っていました。
保護した時はなんと6.5キロもあったのです。
ユニークな猫で私の大親友でした。彼のいなくなった穴は未だに埋められません。
彼のことを思いながらヘミングさんの絵本を読んでいると、ある一節で私の目は止まりました。
絵本の猫はおばあさんのひざの上で安らかに息を引き取るのですが、その骨が「ある日、丸い玉に変わっていたのです・・・」
私は本から目を離すと、しばらく呆然としていました。
がんじろうも白い玉に変わったのです。
正確に言うと、その玉はがんじろうの目から生まれました。
がんじろうは晩年、目が全く見えなくなりました。
そこからはとめどなくヤニが流れていたのです。
天国へ行く数日前、その目から突然、丸い塊が出てきました。
私は眼球が飛び出てきたのかと思いました。
そして、それはコロンと床に落ちたのです。
しかし、よく見るとがんじろうの目にはまだちゃんと眼球があります。
何なのでしょうか、この玉は?
まるで真珠のように白くて固い玉です。
わたしはそれをムギョちゃんの毛と一緒に宝石箱の中に仕舞いました。
絵本の中の丸い玉・・・
がんじろうの真珠球・・・
かみさんが見た花の中のムギョちゃん・・・
やたら出没する「アメリカン・ショートヘアー」・・・
がんじろうとムギョちゃんが天国で何かをたくらんでいます。
いったい何を・・・
友人のYさんは一緒に野良猫の保護活動をしている仲間です。Yさんの家には常時、猫が30匹前後います。
捨て猫、野良猫を見ると放っておけないのです。
なにしろ広島の実家から車で東京へ帰る途中、浜松で猫を拾ってくるぐらいですから。
彼女が保護したバルちゃんはめでたく名前をルーシーに変えて、白血病から生還したチャ−リーのパートナーになりました。Yさんがプロデュースした里親さんは何人いるか分かりません。
かみさんがヘミングさんのコンサートでムギョちゃんを見て、興奮して帰ってくると、Yさんから留守電が入っていました。
その内容を聞いて、彼女は鳥肌が立ったそうです。
かみさんは私が家に帰るや否やその話を私にしました。
そして、私にはようやく分かったのです。
‘彼ら’が私に何をさせたがっているかが・・・
Yさんはこう言い残したのでした。
「ムギョちゃん、拾っちゃいました!」
つづく

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