私は十数年来、スケジュール、日々の印象的な記録に能率手帳を使っています。
演技のヒント以外でも、以前、このブログでも書いたフィギュアスケートの真央ちゃんと中野選手の集中力、野村監督の人生訓など、自分の生き方に支えになるようなことをその都度記録しています。
そして、その手帳、四月四日には「絶望の夜」と書かれてあるのです。
のっけから暗い話ですが、まあ、ちょっと聞いてください。
詳しい話は多分、十年後に出来るとして、かいつまんで言いますと、こんな時期にベンを見失ってしまったのです。
小心者でペシミストの私は「ああ・・・降ろされる・・・」なんて思ってもしまいました。
そして、自分の非力を痛感したのです。
いったいどうしたらいいか、突然の停電のように、いきなり何も見えなくなったのです。
しかし、なんとかしなくてはなりません。
その夜、歌唱指導のちあきさんに電話しました。
稽古の依頼です。
そう、「落ち込んでる暇があったら、動け!」です。
翌朝、早めに劇場に着いた私はロビーで彼女に稽古をつけてもらっていました。
そこへ、救世主が現れるのです。
音楽監督の甲斐先生です。
先生は稽古を中断し、私を椅子に座らせると、おもむろにベンの歌について語ってくださいました。
その内容は一番最初の歌稽古のときに聞いたことでした。
「治田くんは色々考えすぎて、とてもシンプルなことを忘れている」
確かにひとりでこもって、かってに熱中していましたから、そうなのかもしれません。
私は一番心配していたことを先生に聞きました。
「先生、おれ、できてたことあるんですか?」
すると、先生は即座に答えました。
「あるよ!」
「・・・」
「だから、そこに戻ればいいんだ。ちょっと、やってみよう!」
先生はピアニストに合図するとベンの歌を弾かせました。
もう、何万回も聞いた前奏です。
私は歌いました。そして、その都度、先生は具体的なアドバイスをくれました。
その一番心に響いた言葉がこれです。
「歌になったら、ベンは海が見える、波の音が聞こえるんだ!」
私はスーッと力が抜けていきました。
そして、歌ったのです。
・・・
しばらくして、演出家の山田さんがやって来ました。
甲斐先生は私の歌を山田さんに聞かせようとしました。
すると、山田さんは一言発しました。
それはどきっとするぐらい嬉しい一言でした。
「なにがあっても、わたしは褒めますよ」
わたしは歌いました。
ちあきさんを相手に登場のシーンを演りました。
全部が終わって、山田さんは感想をくれました。
そして、楽屋に戻り、能率手帳四月五日の欄にこう書いたのです。
「希望の朝」
まだまだ、完璧なベンではありません。
昨日の初日は、ゲネプロではできたのに、つい、もとのベンに戻った箇所があったようです。
甲斐先生にしっかり指摘されました。
自覚症状はあります。
ひとり部屋でやりこんだ癖が顔を覗かせたようです。
でも、希望の朝です。あと、104回・・・
いっぱい研究して、じっくりベンを育てていくつもりです。
どうか、みなさん、成長する(予定の!)ベンをお見守りください。
わたしはみんなに支えられて生きています。
おっと、なんだか、めちゃウェットなブログになりましたが、たまにはいいでしょう?
ウェットついでに、四月五日、能率手帳には、こう書き加えています
「ちあきさんの優しさ。甲斐先生の優しさ。山田さんの優しさ」
人間って絶対ひとりじゃ生きていけないよね・・・
「クロードって、ちょう優しいってかーんじ!」
BY 黒猫クロードにいつも遊んでもらえるギャル・モモ
猫もけっしてひとりじゃいきていけないようですね。

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