邪悪な判事に無実の罪をでっち上げられ、美しい妻と娘からは引き離され、十五年の服役の後、男は復讐の鬼となり帰って来た。
十五年の月日は生まれ育ったロンドンをまるで異郷の地に変えている。
妻は毒を飲み、成人した娘ジョアンナは判事の下に軟禁されていた。
男は昔の名前を捨て、パイ屋の女将、ミセス・ラヴェットの二階に理髪店を開く。
そして、客のひげを剃る代わり、愛用の銀の剃刀でクビを掻き切るのだった。
その死体はミセス・ラヴェットがミート・パイの材料にし、店は大繁盛する。
あるとき、待ちに待ったチャンスが訪れる。
とうとう男は冷酷な判事を理髪店の椅子に座らせ、積年の恨みを剃刀に込め、一気に首を掻き切るのだった・・・
復讐の鬼、名前は「スウィニー・トッド」・・・
去年、その予告編を見て、ずっと待ち焦がれた同名の映画・・・
ようやく見ることができた。
血、ナイフ、怨念、人肉パイ・・・どれをとっても目を背けたくなるようなシロモノばかりだ。
しかし、この映画はありきたりのスプラッター・ムービーとは一線を画し、むしろ甘美で、上質なエンターテインメントに仕上がっている。
その訳とはいったい何なのか!?
それは音楽である。
同名のミュージカルを映画化したもので、作曲家は・・・そう、「ミスター・ブロードウェイ」こと;スティーブン・ソンドハイムである。
2002年、ミュージカル「太平洋序曲」ブロードウェイ公演、初日パーティーの席、私はこの偉大なる作曲家と話をする機会を得た。
「パーティーは苦手なんだよ」
初老の作曲家は小声で肩をすくめる。
私が彼の作品のオムニバス;「サイド・バイ・サイド・バイ・ソンドハイム」に出た話をすると、
「日本のお客さんは喜んでくれたかい?」
と、作品の評判をえらく気にしていた。
喜ばないわけがない、(わたしの出来はともかく)ソンドハイムの名曲オンパレードの作品である。
放っておいても、音楽が芝居をし、音楽がドラマを作っているからだ。
映画「スウィニー・トッド」
冒頭の荘厳でゴシックな音楽から、観客はおどろおどろしくも、甘美な世界に引き込まれ、ただただ酔いしれるばかりである。
スクリーンに流れる音楽はスリリングでショッキング、そして、時にはユーモラスで、甘く、切なく、美しい・・・
言ってみればあれほど「えぐい」内容を、ソンドハイムの音楽が上質なオブラートで、まったりと包みこんでいるのだ。
あっという間の二時間・・・すばらしかった!
スウィニー役のジョニー・ディップ、ミセス・ラヴェット役のヘレナ・ボナム・カーター、そして、なんといっても悪徳判事役のアラン・リックマン(わたしは「ダイハード1」のあのクールな悪役を見て以来、大好きである)・・・
素晴らしい俳優陣、まるで油絵のような美しくダークな映像、そして、音楽!
DVDが出たら、ワインを飲みながら、もう一度この世界に溶け込み、どきどき、うっとりと酔いしれたい・・・!
あまりの美しさに衝動買いしたクリスマスローズ。
なんとなくスウィニーのイメージ・・・
そして、この子は近所の小さな花屋で出会った掘り出し物。
その邪悪な紫はパイ屋のミセス・ラヴェット・・・
ご近所のミセス・ショーシャンクが作ってくれた、はるパパ・クリスマス・ローズ・ガーデン
http://p4room.mda.or.jp/~pon/extra/xmasrose/xmasrose.html

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