最前列の席というのは、劇場ではたいへんありがたがられるが、これが映画館となるとそうはいかない・・・
三月十八日、日曜、生まれて初めて六本木ヒルズに行く。
決して、遅ればせながらの観光客ではない。
“Festival du film francais”、フランス映画際を観に行ったのだ。
この日は「短編映画特集」で、10分から25分ぐらいの映画が、しめて八本上映された。
あいにく満席で、手を回してもらってようやく椅子を確保したのだが、これがなんと最前列・・・
2月の交通事故で、ただでさえ首は本調子ではないのに、スクリーンの上部を見るためには、目だけではとても捕えきれず、終止首を上向けていなければならない。
まるで、エンパイアステート・ビルディングの前に立つ観光客である。
拷問のような状態で、かなり憂鬱だったのだが、ふたを開けたらあっという間に時間は経った。
面白かった!!
8本中1本は退屈したが、あとの7本は佳作ぞろい!
http://www.unifrance.jp/festival/films.php?langue=JAPANESE
おしゃれで、かわいくて、ちょっぴりエッチで、そして、根底に流れるのがフランス人が持つひねったユーモアである。
「ギターのレッスン」では中年のおじさんが青年のうちにギターを習いに行くだけの話しなのだが、じつにミステリアスで魅力的。
「マ・キュロット」ではママと娘がとてもあけすけで、いやらしくて、でも、しゃれてて、「オディール」はパン屋の女店員が冒険に旅立つのに拍手喝采した!
生まれて初めて見た短編映画だったが、もし、また一番前の席だとしても、もう一度見たい!
三月十九日、月曜、子供が発表会に出るので、親として参観し、高鳴る鼓動を抑えつつしっかり見守った・・・
「サイド・バイ・サイド・バイ・ソンドハイム」、訳詞した30曲を4人の役者たちがステージで歌うのである。
出演者たちは、私が来ることでかなり緊張していたらしいが(何しろ、口うるさい翻訳家だから・・・)、肝心の私は学芸会に出演する子供を、でれでれ、どろどろ、にやけた顔で見守る、ただの親ばかであった。
皆はわたしのつたない言葉を見事に膨らませ、つま先から頭のてっぺんまで生き生きと演じていた。
ストリッパーたちが歌う「ギミック」で河合あっちゃんが「ピピッピ!」と悶えたのには腹を抱えて笑った。
自分のコンサートで、かつて自分自身も歌った歌を、違う人間が歌うことで新たな発見もあり(おれが「勝った!」とか「負けた!」とか、一喜一憂したりして)、とにかく心から楽しんだ。
客席には、「太平洋序曲」の共演者、越智さんや、岡田が来ており、シャケちゃんが「プリティ・レイディ」を歌い始めた途端、胸がキュンとなる。心はニューヨーク、そして、ワシントンに飛んでいった・・・
この作品の前ではとても評論家ではいられない。本当に楽しめます。
ぜひ、再再演を!
パパはでれでれしながら、また、観に行くよ!
三月十一日、宮本亜門邸。
「治田、あの、ニューヨークよワシントンはなんだった?」
思い出話にひとしきり笑ったあと、亜門さんが突然私に聞いてきた。
彼が演出した「太平洋序曲」ブロードウェイ、ワシントン公演のことである。
私はひとつ間を置いて答えた。
「とてつもない夢ですよ。そして、その夢がなんと現実だったっていう、すごい状況だったんです・・・本番が始まる前、他の共演者とブロードウェイの舞台を観たんですけど、観客はものすごい熱狂でした。実際、自分らも楽しんだんだけど、同時にものすごく恐くなった。果たして、俺らはこの観客を楽しませることができるんだろうかって・・・
でも、ふたを開けたら、楽しませるどころか、とてつもないあの反応だったでしょ・・・カーテンコールで二千人のアメリカ人が総立ちでものすごい拍手だった・・・」
亜門さんがにっこり笑う。そして、ゆっくりと彼の口が開いた。
「おれはね、客席から見ていて、みんなが日に日に成長していくのがわかったんだ・・・それは、とりもなおさず、あの熱狂した観客たちが育ててくれたんだよね。
日本じゃ見たこともないくらい、素晴らしかったよ、君たち・・・」
亜門さんの顔がおだやかにほころんだ。
そばで「あいつ」は、どっしりと微笑んでいる。
代々木上原の花屋で私が見つけた巨大なセローム、それにも負けないぐらい、大きくて、立派なセロームだ。
「こいつの下で、こうやって、寝っころがるだろ・・・癒されるんだよ・・・」
亜門さんは、セロームの根元に寝転んだ。
沖縄のガジュマルの下でも、ああやって寝っころがっているのだろうか。
そして、あの素晴らしい演出プランを練るのだろうか。
少年の笑顔を持つこの演出家。
今度はどんな「夢」を「現実」にしてくれるのだろう・・・
うちのセローム


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