「口笛は誰でも吹ける」1964年のオリジナルCDには全曲は入っていない。主たるナンバーだけが厳選されてある。
それに・・・
ちらっとだけ聞こえる私の役の人があまり音程がよろしくなく、彼のソロはほぼカット、彼が加わるコーラスですら別の人が歌っている。
そんなとき、1995年のカーネギーホールで行われたコンサート版CDを手に入れた・・・
「口笛・・・」歌稽古、自分はさほど難しいナンバーではなし、まるで心配していなかったのだが、これが大間違い。
伴奏が加わり、他の人のメロディーが入り重唱になると、音が取れないのだ。そればかりかリズムも上手く入れない。
伴奏がメロディーとぶつかり、トリッキーなリズムが歌の入りを惑わす。
我がチーム;市長、収入役、警察署長、そして会計監査官、四人の悪役人は想定外のパニック、大混乱に陥った。
「きゃーっ!」
「歌えなーい!!!」
四人が四人とも悲鳴を上げる。
想像を絶する難しさ。
その時だ、わたしはあの懐かしい感覚におちいる。
あの時もそうだった・・・
十五年前・・・ミュージカル「太平洋序曲」初演。
難しいメロディをやっと覚えたと思えば、伴奏が邪魔してくる。
「どうしたらいいの!!」
歌唱指導に訴えると、あっさり答が返ってきた。
「筋肉で覚えるしかないよ」
そう、理屈じゃない、数を重ねて慣れるしかないのだ。
歌いこんで、歌いこんで、全てが身体に入ったとき・・・
とてつもない奇跡が起きる。
あの「いやがらせの伴奏」が、とろけそうな快感に変わるのだ。
そう、これが偉大なる作曲家ソンドハイム氏との出会いだった。
1995年コンサート版「口笛〜」を聞く。
涙が出そうだった・・・
素晴らしい・・・!
パニックに陥ったあの重唱なんか、滅茶苦茶かっこいい!!
これだよ・・・これなんだよ・・・ソンドハイム!!
私は戦闘モード、トップギアに入った。
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2002年、ソンドハイム氏(左)、ワイドマン氏(作家)と、リンカーンセンターにて


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