「振りはまだきっちり固めなくていいから、今日は歌だけちゃんとやりましょ!」
作曲家兼音楽監督の深沢先生がおっしゃる。
今日はキツネチャールストン稽古日。
この日のために、ベランダ特訓を重ね、マンション奥様噂話をはねのけ、電車偽装障害者事件にも甘んじてきた。
なのに、歌だけとは…
解せぬ。
なにゆえ!?
「アレンジに出したら、凄く良いのに仕上がってきたのよ!だから、振りもちょっと変わるかもしれないの」
え…
さわりを聞かせてもらう。
おお…!
こ、これぞボブフォッシースタイル…!!
なんと、お洒落!!!
横浜山下町がたちまちブロードウェイ、フォーティーセカンドストリートに変身。
興奮は否が応にも高まる。
頭に浮かぶは劇団四季時代、バレエレッスンでアラスゴンドターンの後トリプルピルエットを平然と回ったダンサーはるパパの勇姿。
おお…気分だけはミハルタ・アツシニコフ…
懸念の変更も振付助手ナリちゃんによれば、前の振りを活かして「ほんのちょっと変わるだけ」。
入ってるぞ、完璧に振りは、ベランダ特訓で!
そ、それをこんなお洒落なアレンジで…!!
出しゃばりすぎて皆に嫌われる女子高生レイチェルが映画「シカゴ」のキャサリン・ゼタ・ジョーンズに変身した瞬間。
まさに完璧だった!
だが、たったひとつだけ大きな問題があったのだ。
振りの変更…
「ちょっと」やなかってん。
全部変わったんじゃよ…
「・・・」

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