後ろ髪を引かれ、思い出を砂浜に残し、再び来れることを祈りつつ、とうとうANA266便は
定刻午後6時半」福岡空港を飛びたちました。
あっという間の一ヶ月、時にしんどいこともありましたが、皆様方のご声援、お手紙、
差し入れに勇気付けられ、心なごまされました。とりわけ今回は私事ながら、誕生日が
重なったこともあり、たくさんお祝いしていただき、感謝に耐えません。
癒し系、酔わし系、肴系、そして今回はお惣菜系、そしてもちろん猫系、いっぱい
プレゼントをいただきました。
決してアイドル系ではない、ただのおじさん系にたくさんのお心遣い、とまどい
つつも、やはり顔がほころんでしまいます。
お手紙は全部読み、食べ物飲み物はみんなで分け合い(時にひとり占めし)、猫本は
ケラケラ腹を抱えて笑い(同じ楽屋の重臣面々は怪訝な顔で私を見ます。猫を飼って
いる浩平ちゃんだけが同じく顔をほころばせます)、グッズは大切に使わせていただい
ています。お花も化粧前に飾り、キャットテールという鉢植えは持ち帰り、今自宅の
ベランダで元気に花を咲かせています。
一人一人にお会いして感謝の気持ちを伝えたい、そんな思いでいっぱいですが、中々
そうもまいりません。
やはり、いい舞台でお返しするしかございませんね。
いよいよ迎えた五十代、ちょっと憂鬱だった時もありましたがすぐに開き直りました。
五十代ならではの舞台をお見せします!
ANA266便、中央部分座席23Gに腰掛けようとすると、ひとつ後ろの座席から
「はるた!」
と、呼びかけられました。声の方向に目をやると、ひとりの中年男がニコニコ笑って
私を見ています。
どこかで見たような・・・
記憶をたどると、確かにいるのですが男はおぼろげにしか正体を表しません。
「ええっと・・・」
戸惑っている私を見て、男は名乗りました。
「ええっ!!」
回りもはばからず大声を上げます。
「うそだろ!」
こんなことがあるのでしょうか!その男は、大学の同級生Mだったのです。
しかも、同じ飛行機のひとつ後ろの席で(!)です。
おぼろげな正体がはっきりと輪郭を表しはじめました。
「何年ぶりだい?」
私が問うと、
「そうだなぁ、卒業して以来だからもう・・・30年?」
「ひぇー!!」
白髪交じりの中年男の顔に、キャンパスで語らいあった黒髪の青年が重なります。
私はMの顔をまじまじと見てこう言いました。
「老けたなぁ・・・!」
「ほっといてくれ」
「そうか、もう五十だもんな・・・」
「おれはまだ四十九だよ」
「そうか、おまえ早生まれだったか・・・」
飛行機が離陸するまで、私たちは前と後ろで昔話に花を咲かせ、互いを懐かしみあい
ました。Mは名刺をくれました。読むと「ユナイテッド航空 旅客営業部部長」と
あります。
ユナイテッド・・・ふと、懐かしさと親しみがこみ上げてきました。
「3年前に乗ったよ」
「どこへ?」
「ワシントン・・・」
「ああ、シカゴ経由か」
さすが部長、当たり前でしょうが良くご存知です。名刺を持たない私は代わりに
「ネバ・ゴナ・ダンス」のチラシをあげました。すると劇場のフォーラムは会社の
すぐそばだと言います。Mは観に来ると約束しました。そして、四十九のおじさんは
五十のおじさんをまじまじ見ると、一言付け加えたのです。
「おまえ、変わらんな・・・」
Mは感慨深げにそう言ったのでした。

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