稽古場撮影情報5
霧雨の東京、イーストウィックのお稽古は休みです。
最近は振り付け稽古中心で、振付師の前田清美ちゃんが・・・まあ、稽古場では
きちんと「キヨミ先生」と呼んでいますが、もう長い長いお付き合い・・・
心情的には「キヨミちゃん」です。
清美先生は(昔からそうでしたが)独特のユーモアセンスを持っていて、とにかく
稽古が楽しいです。稽古場は常に笑いの渦に包まれます。
おじさんも必死でくらいついています。
ぜひ今回は、「ダンサーはるパパ」をご注目ください!
霧雨の東京、撮影の方は早朝から、東京のスタジオに戻り再開されました。
今回の映画で大きな象徴のひとつが、巨大な第9スタジオに設置された、
セットというよりはまるで本物のホテルです。
5月10日、シーン52の撮りで始めてこの巨大なセットを見たとき、私は圧倒され、
しばし呆然と見つめていました。
広々としたロビー、大理石の床、シックな絨毯、品のいい調度品、淡いクリーム色の
壁紙、豪華なシャンデリア・・・それらを吹き抜けの窓から入り込む陽光が鮮やかに
照らしています。
しかし、よくよく見るとその陽光はスタジオの天井にしつらえられた巨大なライトの
光だったのです。
そして、その光を中庭にしつらえられた緑鮮やかな木々、満々と水を湛えた池、花々が
我が世の春とばかり贅沢に浴びています。
驚くべきは、セットであるにもかかわらず「二階」の存在です。
二つ折れの大きな階段を登ると、吹き抜けの向こうに中庭を囲むようにして回廊があり、
その窓からはやはり光が燦燦と差し込んできます。そして、たくさんの客室がやはり
中庭を囲んで配置されているのです・・・
「億単位の金らしいですよ」
助監督のSさんが教えてくれました。
「でしょうねぇ・・・」
私は口をあんぐりとあけたまま、ただ見とれていたのでした。
ところが、九州ロケから戻り、今日そのセットに行ってみたらどうでしょう。
なんと、あの豪華なホテルが見るも無残なボロボロの廃屋になっていたのです!
台本上は35年の月日が経ったという設定で、大掛かりな「衣替え」が行なわれた
のです。
広々としたロビーには枯葉が舞い込み、大理石の床ははがれ砕け、絨毯は黒ずみ、
調度品、シャンデリア、階段にはくもの巣が張っています。
窓ガラスは割れ、飛び散り、壁紙は染みてかびまみれです。そして、中庭の木々は
枯れはて、池の水は干上がり、落ち葉にまみれています。
なんという変わりようでしょう!
しかも、これは全て「人為的な装飾」なのです!!!!
私は始めて見たときよりも、もっと感銘を受けていました。
何百もある床のタイルの一つ一つが丁寧に汚され、波紋のように染み広がるカビは
細やかに生み出され、それが一階と二階、広いホテルの壁紙、絨毯、天井に至るまで
そこら中に描かれているのです。
特筆すべきは二階の窓のサンに吹きだまっていた落ち葉です。
真ん中には一枚二枚で、端の窓枠のところにだけいっぱい積もっているのです!
どんな風が舞ったか一目瞭然です。
なんとリアルなのでしょう!!!!
あの豪華なセットの「全てが」実に見事に、そして「美しく汚されて」いたのです。
「九州から戻ってきたら、こうなってたんですよ・・・」
監督は感慨深げでした。
まだ豪華だった頃のロビーカウンターには、宿泊者アンケート用紙まで置いて
ありました・・・信じられない気の配りようです。
これこそ職人の技というものでしょう。
4月25日の群馬ロケから今日に至るまでの約二ヶ月、私はこんな現場にいられる
ことに誇りと喜びを感じています。
どうぞ皆さん、ぜひとも映画館へお運びくださいませ!

0