12時半からのゲネは音楽監督に断りをいれ、ソロ以外のコーラスは抜かせてもらった。前日の舞台稽古、宇宙人最後の歌で声帯がくっつかなくなったのだ。風邪に加えて大量のスモークのせいである。舞台効果を高めるために致し方ないのであるが、弱り目に祟り目とはまさにこのことだった。
「大丈夫ですか?」
私とダブルキャストの広田が聞く。
私はにっこり笑って答えた。
「ワシントンを思い出すなぁ・・・!」
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(第二章Come back soon!)
「太平洋序曲」ワシントン公演で私は40度の熱を出し、ふらふらになりながらやったのだ。あれくらべたら、この程度の風邪などどうってことはない。頭の中でちゃんと計算していた。舞台稽古は申し訳ないが踊りも唄もかなり抜いてやった。体力と声帯の温存、全ては本番に照準を合わせていたのだ。
1月20日、「シャボン玉・・・」初日3時間前、私は車に乗せてもらい、音楽座の方に病院まで連れて行ってもらった。
「ご出演されるんですか!?」
身分を明かすと先生は目を丸くして驚いた。
「3時間後には舞台の上で大きな声で歌って、脚もこんなに上げるんですよ!」
私は手で頭の上を示した。
「ええっ!?」
ちょっと見栄を張った。
さすがに気が引けたから肩まで下げた。
「あ・・・こんくらいか・・・」
先生が笑った。ワシントンのときも何だかジョークを言ってドクターを笑わせたっけ。
「じゃあ、お薬を処方します。これで随分楽になると思いますが、気をつけてください、かなり眠くなりますから」
薬局で処方薬を受け取った。
ももも、ものすごい量・・・!!!
なんだか、お薬バイキングって感じだった。
午後7時、「シャボン玉飛んだ・・・」初日開演。
頭はもうろうとしていたが、何とか無事切り抜けた。
身体はワーストだったが、芝居はベストだったかもしれない。
そう言えばワシントンのときも終演後、亜門さんに言われた。
「治田、良かったよ!力抜けてて」
ちゃんと演れたようだ。
嬉しかったが、一つだけ反論があった。
力は抜けていたのではない。
入らなかったのだ・・・
二日目も無事に終了、お薬バイキングのおかげで声帯は徐々に回復。しかし、三日目、とんでもないことが起こった。
二幕、傷ついた悠介を励ます歌で、突如、歌詞が飛んだのだ。予兆はあった。袖にいるときからものすごい睡魔が襲っていた。
♪「嘆いてばかりいられないさ・・・」
歌いだす瞬間に歌詞が消滅、思わず、
♪「ためしてばかりいられないさ・・・」
と、歌ったのだ。(何を「試す」ん!?)
その後の♪「笑顔取り戻して」も
♪「笑顔ほにもにょひへ」
なんてわけの分からんことを口走り、間奏のダンスも一小節早く動き出してしまった。
ここだけの話だが・・・(ネットじゃ!)
薬に“らりってる”って感じだった。
共演者には平謝りだった。
1月22日、この日も二回公演を終え、町田公演は無事千秋楽を迎えた。評判はすこぶる良いようだ。
カーテンコールでお客様はスタンディング、たくさんの方が目頭を押さえていらっしゃる。
ある方の話によれば今までの「シャボン玉・・・」の中でも最も良い出来らしい。嬉しい限りである。
自分の二役は、意外にも宇宙人の評判が良かった。
薬で“らりってる”感じが良かったのかな・・・
・・・って、冗談冗談。
早瀬先生はこの休みの間にまた創り直そうと思っている。
さあ、次は北海道ツアー、今度こそベストコンディションで臨まなくちゃ!
「治田さん、ゆっくり休んで!」
帰り際、共演者に言われた。
休みたいところだが、別件が待っている。
昨日も午前中だけは休んだが、午後は必死で取り組んだ。
今日もこれから稽古だ!
生きていくのは大変だね。
でも、未来を作るのは今だ。
お薬バイキング飲んで、頑張ろう!!!
「ひんだれたと・・・」
ひんだれた;すごく疲れた(宮崎弁)

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