「治田くんは、いつも、音楽どおりに終わるんだよ」
これが健さんから頂いたダメ出しでした。
ミュージカルの音楽には役者が歌うナンバーと、台詞の背景で流れる、いわゆるBGMの二種類があります。
このBGMにはさらに二種類あって、一つはX(エックス)タイム;役者が自分の間(ま)で喋ってよく、音楽の方が台詞に合わせて同じメロディーを繰り返す、もう一つは決められた小節の中で喋りきらないといけないものです。
当然、後者の方が厄介です。
絶対に台詞を噛んだり、間違えたり出来ないからです。
役者に何が起ころうと、音楽はどんどん進んでいきます。
なにがなんでも尺の中で台詞を終え、次の台詞なり歌に渡さないといけないのです。
第八場;「恐怖のロンドン」
『うちの病院は入院患者であふれています。どの患者も生肉をむさぼるように食べて、陽の光を恐がる。あなたがお書きになった本に出ているのと同じ症状です。それで、お力を貸していただきたくて、手紙を差し上げました』
この台詞で、私に与えられた時間はきっかり9小節です。
これを越すと、次にアンサンブルが歌う『♪ロンドンは悲鳴を上げている・・・』とぶつかってしまいます。
客席からは多分、普通に喋っているように見えるかもしれませんが、実は、右の耳で自分の台詞を聞きながら、左の耳でしっかりと音楽を確認しているのです。
この台詞で重要な情報は「@患者が『生肉をむさぼるように食べて、陽の光を恐がる』が、あなた(ヴァン・ヘルシング教授)の書いた本とA『同じ症状』」だということです。
ですから、@とAはゆっくり、丁寧にしゃべらなくてはなりません。
つまり、それ以外の箇所で時間調整をしなくてはならないのです。
<なんべんもやっとったら、慣れるやろ!>
なるほど、ごもっともです。
9小節がいつも一定の時間なら、そうです。
しかし、このミュージカルはカラオケではありません。
生です。
指揮者の振るテンポは必ずしも毎回おなじではないのです。
「その日の音楽」に耳を澄ませ、役者がテンポを守らなくてはならないのです。
とは言うものの・・・
慣れてきます。(笑)
と、なると欲が出てきます。
9小節きっかりで台詞を終えようという。
(このBGMは4拍子ですから)8イニング・3/4で先発を終え、1/4のブレスをアンサンブルに与えて次の試合に入らせよう、つまり、『・・・手紙を差し上げました』、ウン、『♪ロンドンは悲鳴を・・・』って感じです。
これがうまくいくと実に快感なのです。
古館イチローという名アナウンサーがいますが、彼はどんなテーマで喋っていても、番組のエンディング音楽きっかりに「それではまた明日」を言える能力を持っています。
これを思い出したんでしょうなぁ・・・
いつの間にかドクター・セワードはセワード・アナウンサーに変身していたのです。
『・・・お力を貸していただくて、手紙を差し上げました。それではまた来週!』
なんてね。(笑)
これに異を唱えてくださったのが健さんでした。
「(時間が)余ったら、余ったでいいじゃない、芝居をしてれば・・・」
そんな訳で、札幌から帰って以降、セワード・アナウンサーはすっかり影を潜めています。
健さん、本当にありがとうございました!
宿舎から見た静岡
静岡公演は大盛況のうちに終わりました。
カーテンコールはスタンディングの嵐です。
「静岡県民は大人しいのに・・・めずらしいなぁ・・・」
静岡出身のシンタローも驚いておりました。
シアター1010のクリロー4人衆に続いて、静岡でもクリロー仲間が観に来てくれました。
ネットで知り合い、それは見事なグレープ・グリーン・バイカラー・ダブルを株分けしてくださった浜松のKさん、そのお嬢様がお友達と一緒に観劇です。
終演後、楽屋に来てもらったのですが、とても喜んでくださいました。
とても初めて会ったような気がしません。
クリロー4人衆が骨太の原種系ダブルだとすると、お嬢様は可憐なアプリコット・バイカラーという感じで、とても素敵な方でした。
お父様の話で色々盛り上がりましたが、よくよく考えると、お父様にはまだお目にかかったことがないのですよね。
でも、多分、超渋系のグリーン・バイカラー・ダブルだと思うんですよ。(笑)
Kさんに頂いた株分けと、種から今年芽吹いた苗
名古屋でもネットで知り合ったクリロー仲間が家族総出でいらっしゃいます。
これまた初めてお目にかかる方です。
演劇とは全く関係ない、しかも見ず知らずの人が観に来てくれる。
「すてきだね、はるパパ」、「うれしいよね、そういうの」
共演者のキリちゃん、キーヨが言いました。
クリスマスローズが取り持つ縁、大事に大事にしていきたいですね!
「9小節で持ってくるっちーの!」
♪@
♪A
♪B
♪C
♪D
♪E
♪F
♪G「また来週だっちーの!」
「ひぇ〜っ!」


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