連作短編集『検事の信義』  書籍関係

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柚月裕子による、
「最後の証人」(2010)、「検事の本懐」(2011)、「検事の死命」(2013)
に続く、佐方貞人シリーズ第4弾。

主人公は東北地方の地検に勤務する検察官。
「罪はまっとうに裁かれるべき」を信条に、
事件に臨み、疑問を捨てておくことをせずに、
時には、検察組織に波風を立てることもいとわず、立ち向かう。

「裁きを望む」は、
ある窃盗事件の犯人が、
憲法39条の一事不再理を利用して、
完全犯罪をもくろむ話。
無罪の証拠を隠して裁判に向かった謎を佐方が解き明かす。
しかし、住居侵入したことが発覚するために、
宅配業者の目撃に頼ったり、
手帳の記載を見るためにコーヒーをこぼすなど、
無理な設定が多い。
なによりも、普通の金庫は、
番号だけでなく、鍵も必要だと思うが。
ただ、「一事不再理」を逆手に取った犯罪はなかなか新しい。

「恨みを刻む」は、
覚醒剤事件の犯人に対する
垂れ込み情報に不審を抱いた佐方が、
真相を解明する話。
背後にある警察内部の陰謀が唐突に出て来るのは困る。

「正義を質す」は、
正月に司法修習生時代の同期・木浦に誘われて、
宮島の高級旅館に赴いた佐方が、
広島高検の次席に会わされるなどしているうちに、
木浦の本心を見抜く。
それは、佐方が担当している
暴力団幹部の保釈に関わる問題だった。
また、検察の裏金問題の告発も関係している。
「孤狼の血」の日岡刑事が絡んで来る。

「信義を守る」は、
認知症の母親を殺めた男の書類が
刑事部から公判部に回ってきた。
(刑事部は、警察から送致されてきた案件について、
 起訴か不起訴かを決める部署。
 公判部は、裁判に出廷し、
 被告人に適当と思われる刑罰を要求するのが責務。)
男は犯行を認めている。
刑事部の捜査結果を尊重して、
公判に進めればいい。
しかし、佐方は、事件後の犯人の行動に違和感を覚える。
だが、再捜査は、刑事部の実績を否定することで、
刑事部と公判部の軋轢を呼ぶ。
しかし、佐方は、
「罪はまっとうに裁かれるべき」という信条により、
犯人の事件前の行動を洗う。
聞き込みをしてみると、
犯人の供述とは、裏腹な事実が次々と現れてきた。
なぜ犯人は、自分の罪を重くするような供述をしたのか、
調べる佐方の前に、刑事部の担当検事が現れて・・・

この短編集随一の読みごたえのある一篇。
謎の解明に読者を引きつける力がある。
犯人の人間像に読者が共感する。

しかし、最後の証人の証言は、
厳重な守秘義務に縛られた職責からはあり得ない。
作者は、その方面の知識が足りなかったのではないか。

全編を通じ、
上司の筒井副部長、
佐方を補佐する事務官の増田の存在がなかなか効いている。


小説『木曜日の子ども』  書籍関係

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42歳のサラリーマン、清水芳明は、
妻の香奈恵と中学二年生の息子の晴彦とともに、
旭ヶ丘のニュータウンに引っ越してきた。
旭ヶ丘に引っ越したのは、
前の学校で晴彦がひどいいじめにあい、
自殺を図ったからだった。

長年独身だった清水は、
同僚の香奈恵と晴彦のいじめ相談に乗っている間に
親密になり、結婚した。
しかし、芳明は、義理の息子である晴彦との間の溝を
まだ埋めきっていなかった。
どうしても、晴彦の14年を
自分が共に過ごしていないことを意識してしまうのだ。

実は旭ヶ丘は、
7年前、
少年犯罪史上に残る無差別殺人事件が起きた場所だった。
給食の野菜スープに
ワルキューレという即効性の毒物が混入されて、
9名が死亡、21名が入院するという大事件で、
犯人の同級生・上田祐太郎はその場で逮捕され、
少年法に基づき、実名も明かされず、施設に送られていた。
事件に先立ち、犯人から学校に送られた脅迫状に
書かれていたマザーグースの歌の歌詞にちなみ、
それは「木曜日の子ども」事件と呼ばれた。

いじめから逃れて、
心機一転、旭ヶ丘で新生活をはじめるつもりが、
住民たちの反応に戸惑う。
晴彦が、7年前の事件の犯人、
上田祐太郎少年とよく似ているというのだ。
はじめは近所の主婦、
そして、中学の教師の反応でそれが分かった。
しかも、新居は、
野菜スープ事件の被害者の少女が住んでいた家だという。

やがてニュータウンでは相次いで不審な事件が起きる。
不審者情報、飼い犬の変死、学校への脅迫状。
そして、木曜日発売の少年誌の間に挟み込まれた、不審なメモ。
上田が社会復帰したという噂が流れており、
「ウエダサマ」と呼ばれて、カリスマ化しているという。

晴彦には友達が出来、時間を過ごしているというが、
その友達の「高木」という同級生は、
学校には、存在していないことが分かった。
しかも、「高木」は、事件の被害者の一人だった。

清水は、沢井良樹という作家の接触を受ける。
沢井は「木曜日の子ども」事件を扱った書物を出しており、
その後も事件を追っているという。
その沢井が清水の家にいる時、
隣家の主人が死ぬ。
タバコにワルキューレが染み込まれていたのではないか
と思った二人は、
その死の原因を調べていくが・・・

作者の重松清といえば
家族愛や友情や人間の思い出などを扱い、
人間的で温かな物語を得意とする作家。
当初、連れ子との溝に悩む父親の話と思って読んでいたが、
次第に物語が変貌していく。
ミステリーになり、サスペンスになり、
最後はホラーに化する。
しかも、かなり無理やりの
現実離れした展開に。

重松清らしさがなくて、驚かされたが、
以前にも、そういう小説は書いている。
少年が家庭崩壊、性、暴力、殺人を経験する「疾走」
暗く、悲惨で、暴力的。
それと同じく、
本書も相当暴力的で、
次々と殺人が起こる。

背景には思春期の少年少女に特有の世界観があり、
コミュニケーションがあり、
SNSによる情報拡散がある。
ただ、「ウエダサマ」が提唱する
「世界の終わり」を見たいという願望は
相当説得力に欠ける。
「世界の終わり」を見るということと、
自分の死とは関係がないではないか。

清水が悩む、連れ子との問題も、
思春期特有のもので、
時間と共に解決する問題ではないかと思う。

後半、明らかにサイコパスの話になるが、
年端もいかない異常者の話など、
読みたくないし、必然性、普遍性を感じられない。
神戸で起こった「酒鬼薔薇」事件のAを想起させるが、
他の中学生に感染していくだけ、被害は大きい。
事件が起こったのは、
静かな街だから、とか、
タクシーの運転手の存在など、
不可解な部分も多い。

ラストのくだりは、
いくらなんでも、
この父子の関係修復は不可能だと思わせる。
読後感はすこぶる悪く、納得性に欠ける。
「イヤミス」(読んだ後に「嫌な気分」になる小説)をわざわざ
重松清が書くことはあるまい。
本来の生き場所があるはずだ。

本作品は野性時代 2007年2月号〜2009年1月号連載したもので、
初出から10年もたっての書籍化。
その間に著者のいかなる葛藤があったかを知りたい。


小説『深夜プラス1』  書籍関係

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イギリスの作家ギャビン・ライアルが1965年に発表した
ハードボイルド冒険小説。
菊池光訳ではなく、
2016年の鈴木恵による新訳版で読んだ。

ルイス・ケインは第二次世界大戦中に
レジスタンスを支えるために
フランスに送られた工作員だが、
役目を終え十数年を経た今は
金持ち相手のビジネス・エージェント(揉事解決人)として
生計を立てている。

そのケインに地下活動の同志で
今は弁護士であるメルランから依頼が舞い込む。
ロンドン在住の大富豪・マガンハルトは
ある事情のため、
リヒテンシュタインまで行く必要があるが
婦女暴行で訴えられてフランス警察から指名手配されており、
普通の方法では大陸に入れないのだ。
さらに何者かに命を狙われているという。

ケインは護衛を兼ねたドライバー役を引き受け、
旅に同行するガンマンには
ハーヴィー・ラヴェルが付いて行くことになった。
アメリカのシークレット・サービス出身で
ヨーロッパでもナンバー3の技量の持ち主だが、
実はアルコール中毒で、
殺しの技術は飲んでいないときしか使えない。
人を殺す罪悪感とガンマンとしての重圧は
ハーヴィーを酒に向かわせていた。
ケインはハーヴィーに仕事の間だけは飲まないと約束させた。

ケインは指定された場所で車を受け取るが、
運んで来た運転手は車内で殺されていた。

ケインは、フランス西岸のブルターニュで
密入国してきたマガンハルトと
秘書のヘレン・ジャーマンと合流。
車で目的地を目指す。

旅の途中で、
マガンハルトがリヒティンシュタインに急ぐわけは、
ギャレロンという正体不明の敵の罠にかかり、
あと36時間以内、
すなわち明晩の24時1分過ぎまでに
リヒテンシュタインの指定場所に着かなければ
企業の所有権を喪失し、
経済的にも破滅するのだと分かる。

翌日、殺し屋の襲撃にあった彼らは、
敵の中にヨーロッパでもナンバー1とナンバー2といわれるガンマン、
ベルナールとアランがいることを知る。
二人ともレジスタンスの暴力班であったが、
銃を捨てて生きることが出来ず、
ついには殺し屋となった経歴の持ち主だった。

先行きが暗くなる中で、
ロヴェルは約束を破り酒を飲んでしまう。

こうして、旅を続ける中、
ケインが「キャントン」という名前で
レジスタンスをしていた前歴が明らかになり、
警察の包囲網から逃れるために、
昔の人々との再会と交流が始まる。
その中には、ケインのかつての恋人、
今は伯爵夫人で未亡人となっているジネット・マリスもいた。
フェイ将軍という情報屋の車を借りた一行は、
スイスを経由して、リヒティンシュタイン国境に近づくが、
そこに敵が待っていた。
相手がこちらの手札を完全に読んでいるのだ。
裏切り者は誰か。
突破できるのか。
そして、ギャレロンの正体は・・・。

実に面白い。
まず、登場人物がみな魅力的で、
人間ドラマとしても読ませる。
レジスタンスの「キャントン」から抜け出せない
ケインの憂鬱が色を付ける。
ハーヴィーはアル中から抜け出せるかのサスペンスもある。
何より全体を包むユーモアがある。
そして、命の危機にさらされても
自分の生き方を曲げない男たちの姿が胸を打つ。

早川書房の『ミステリマガジン』で行われたアンケートを基に、
1991年9月に発行された
書籍『ミステリ・ハンドブック』で発表された人気投票の集計結果では、
本作がスリラー部門の第1位
他に8つのジャンルを含めた
海外ミステリベスト100で第2位の人気を獲得している。

翌年の『ミステリマガジン』で行われたアンケートを基に、
1992年10月に発行された
書籍『冒険・スパイ小説ハンドブック』で発表された人気投票の集計結果では、
ハーヴィー・ラヴェルが
好きな脇役部門の第1位を獲得し、
好きな主人公部門でもルイス・ケインが第5位にランクイン。
作品自体も冒険小説部門における第2位
他に3つのジャンルを含めた総合ベスト100で第7位の人気を獲得している。
                                        

小説とエッセイ『図書室』  書籍関係

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社会学者の岸政彦による小説+エッセイ。
岸氏は芥川賞候補になったこともある。

表題作「図書室」は、
ある中年女性の子供時代の思い出を描く。
二人暮らしをしていた水商売の母を15歳の時亡くし、
親戚に預けられ、
大阪で自立して、短大に通い、
法律事務所に勤め、
一度だけ男と付き合うが、結婚はせず、同棲し、別れ、
今は一人暮らし。
そんな彼女が日々思い出すのは、
放課後に過ごす公民館の図書館での出来事。

いつも寝ている窓口のおばちゃんと、
テーブルで新聞を読みながら寝ている老人たちの
向こうの椅子でいつも会う男の子。
同い年で、別の小学校に通う男の子との不思議な交わり。
太陽がいつか爆発するというその子の話に魅せられ、
感染症で人類が途絶えた後、
その子と二人だけ残った世界を夢想するうち、
二人でその世界に迷い込んでしまう。
スーパーで缶詰を沢山買い込み、
みんな死んじゃったんだなあ、と涙をこぼし、
淀川の河川敷にある防災用具倉庫にもぐり込み、
地球上他に誰もいない世界を体感する。
想像は更に進み、
二人で女の子をもうけ、つばめと名付ける。
やがて発見され、小屋から退出する時、
振り返ると、そこにはつばめがいて、
笑いながら手を振っている。

その後、男の子は引っ越して、別れも告げずにいなくなる。

大人になった主人公は様々な経験をした後、
一人暮らしに戻り、
ある時、あの河川敷を訪れる。
もうないと思っていた倉庫はまだ建っていた。
主人公は、私たちの娘は、まだ中にいるだろうか、と思う。

といった話を淡々と、
子供二人の会話でつなぐ。
子供の想像の中での滅亡した地球。
不思議な味わいの小説。
三島賞候補になった。
「新潮」2018年12月号に掲載。

単行本化のために書き下ろされた「給水塔」は、
著者自身の大阪の町での体験を綴る。

独学でウッドベースを始め、
トリオを組んで演奏していた大学時代。
大学院の入試に落ちて、行き場をなくし、
遺跡発掘現場と建築現場の日雇いを続け、
東京から来た男と知り合い、別れ、
結婚し、空き巣に遇い、大学に職を得る、
というような話を「好きな大阪」を軸に語られる。

これもちょっと不思議な味わい

ビルやマンションを建てようとした時、
地面から遺跡が出ると、
工事をストップして、発掘作業をしなければならない、
その間の経費は施主持ち、
などという興味深い話もある。
そういえば、ローマで地下鉄を掘ると、
しょっちゅう、遺跡にぶち当たり、
工事が中断された、という話を聞いたことがある。
この本での遺跡は、
大阪夏の陣と冬の陣の際に
焼け野原になった時の炭の層、
などというのも面白かった。
そういう場所なんだね、大阪って。

経済的に安定して、
20年ぶりにベースを再開しようとした時の
世の中の様変わりも興味深い。
どう様変わりしていたかというと、
著者の時代は、
週に3回も演奏すれば月10万円になった。
しかし、その固定ギャラから出来高制になり、
せいぜい、1回演奏して千円の時代を経て、
更に、逆に金を取られる時代になったというのだ。

ジャズに限らず、
いまという時代は、
自己表現をしたい人はたくさんいるけど、
ひとのそれを聞きたい、見たいというひとはほとんどいない。
結局どうなっているかというと、
関西のジャズの店で生き残っているところは、
その多くがジャムセッションで金を稼ぐようになっている。
つまり、客ではなく、
演奏する側から金を取っているのである。
普段のライブの日はガラガラで、
セッションのときになると人前で演奏したがる
私のようなおっさんで満席になる、
というのが、いまの関西の普通の光景だ。


そして、こう続ける。

しかし考えてみると、
たとえば演歌という世界もすでに何十年も前から、
歌手が客から金を取るのではなく、
カラオケ教室を開いて発表会をすることで
そこで歌いたいひとから金を取るようになっている。
もっと考えると、
そもそも民謡や日舞の伝統芸能の世界は、
はじめから客ではてく弟子から金を集めるようになっている。
文化というものはもともと「やりたい奴から金を取る」のが
当たり前だったのかもしれない。
戦後のアメリカ的な大衆文化のコピーとしての
「客から金を取るシステム」の方が、
歴史的に見れば例外的な状況だったのかもしれないのだ。


なるほど。

著者は関西大学出身で、
そこでの雰囲気を次のように書いている。

あの、誰でもない、何も持ってない、何もできない、
ただ時間がけがある感覚が、
決してそこに帰りたくはないが、懐かしい。
(中略)
賑やかな関大前という街には、なにかこう、
疎開地のような、バザールのような、
治外法権のような、
人を躁病のようにする雰囲気があった。
なにか、人とちがうことをしてもよい、
好きなことだけをしてもよい、
嫌なことはしなくてもよい、
そうやって人をそそのかす空気があった。
この「土地の精霊」のおかげで、
せっかく関大に入ったのに、
徹底的にダメな人間になってしまうやつもたくさんいた。
私も当然そのうちのひとりだろう。
私は関大という、
どうしようもなく世俗的な大学と、
その周りの世俗的な街を気に入っていた。


昔、大学の構内にあった学生寮に入った友人が、
「ここの寮食(寮の食堂)には、
人を怠け者にする薬が入っているのではないか」
と言っていたのを思い出す。
それまで勤勉に勉強してきたのに、
寮に入った途端に、
寝坊で授業は休むし、時間にルーズになり、
部屋で麻雀三昧の生活を嘆いていた。
多分、環境がそうさせるので、
周囲が留年者だらけの中では、
そうなる恐れがあると思った。

著者が犬を飼った経験も、大変胸に刺さった。

私はこどものときに犬を飼っていて、
その犬ととても仲が良かった。
私たちは心から愛しあっていたと思う。
私は彼女から、生きているものの体温とか、
匂いとか、感情とか、世話することの面倒くささとか、
そういうものがどれくらい大切なものかを教えてもらった。
それは自分の人生に何も利益をもたらさない、
何の役にも立たないものだが、
私は彼女の存在を通じて、
この世界にはなにか温かいもの、うれしいもの、
楽しいもの、好きなものが
どこかに存在するのだということを教わった。


その他、著者が人と交わる時、
ちょっとしたゆきずりの人にも
人生があり、内面があり、歴史がある、
と感じるところもなかなか良かった。


小説『刑事の慟哭』  書籍関係

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新宿署の刑事、田丸茂一(しげかず)は、
1年前、誤認逮捕と自殺の騒動の中、
報道陣の見守る前で、
真犯人を連行した行為が
本部に反抗し、恥をかかせたたとみなされ、
主軸から外され、冷遇されていた。

そんな中で、OL殺人とホスト殺人が起きる。
別々に捜査本部が立ち、別々に有力容疑者が浮上し、
捜査本部はその容疑者がホンボシと決めつけている。
2つの事件の共通点を田丸はみつけ、
捜査会議で進言するが、
「また捜査本部への反抗か」
とみなされ、取り合ってもらえない。

共通点というのは、
新宿で起きた企業爆破事件の裁判員裁判で、
その裁判員の候補者かつ落選者が
新たな2つの殺人事件の両被害者だということだった。
しかも、企業爆破事件の犯人として立件された被告が、
強引な捜査による冤罪だというのだから、
警察上層部に受け入れられるはずがなかった。

田丸は神無木と相棒を組まされ、
重要でない捜査に回されるが、
1年前の事件でも田丸と組んだ神無木は、
今度は田丸を信ずる側に回っていた。

捜査会議で、自分の意見が入れられないことを察した田丸は、
それを逆手に取って、
捜査の方向を正しい方向に向けさせようとするが、
田丸を信頼する神無木によって、
逆に阻害されてしまう・・・

作者の下村敦史は、
2014年「闇に香る嘘」で江戸川乱歩賞を受賞。
社会的な題材を取り上げ、今、期待される新人作家だという。
「闇に香る嘘」「黙過」と読んだが、
状況設定、人物造形、文章と
とても読み進む気が失せて、
中途で断念した。

本作は、組織に歯向かったとみなされた刑事の孤独で、
設定が良かったので、読み進むことができた。

裁判員を扱った作品で、
裁判員候補者に身分証明は求められないので、
なりすますことが出来る、というのは盲点だった。

ただ、爆破事件の現場にいた人間が
裁判員候補者に4名いた、などという、
あまりに確率的に無理がある設定には違和感を覚えた。
また、その状況から生まれる犯人の動機も、
それが殺人まで犯すものになるだろうか、という疑問は残る。

自分の意見を入れてくれない上層部を
逆手に取って、一つの方向性に導こうとし、
それを相棒によって阻止されるという状況はなかなか面白い。
背景にインターネットやSNSによる
不満の拡散という病理が設定されているのも、
現代を切り取るものだ。

ただ、文章と会話に未熟な点が多く、
あまり高い評価は与えられない作品だった。





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