小説『冷たい檻』  書籍関係

先日、銀座に出て、このお店に。

クリックすると元のサイズで表示します

「俺の」のベーカリー。

クリックすると元のサイズで表示します

この「銀座の食パン〜香〜」を求めて。

クリックすると元のサイズで表示します

食べられるというので、

クリックすると元のサイズで表示します

2階のカフェに。

クリックすると元のサイズで表示します

お目当ての食パンは、
焼き上がり後15分以内でないと食べれません。

クリックすると元のサイズで表示します

運良く、15分以内だったようです。

クリックすると元のサイズで表示します

ちぎって食べるように言われましたが、
熱くて触れません。
でも、本当においしくて、
半斤をあっと言う間にぺろり。

買って帰ろうとしましたが、
次の焼き上がりまで40分、というので、断念。
代わりに山型パンを買いました。
「香」との違いは、
「香」はそのまま食べますが、
山型はトーストにします。

クリックすると元のサイズで表示します

2斤単位でしか売ってくれません。
スライスもしてくれない強気の商売。
でも、帰宅後、2斤がすぐになくなりました。
おいしいけど、高い。


[書籍紹介]

クリックすると元のサイズで表示します

日本海沿いにある岩森村で、駐在所の警官が失踪した。
それから1カ月余り、交代での駐在が終った後、
後任として貧乏クジを引いた島崎巡査部長が着任する。
すると、本部から送り込まれたという調査官・樋口が現れる。
どうやら、警察内で密かに失踪事件を調査するためらしい。
樋口は島崎の運転で村内を見てまわるが・・・

何もない過疎の村。
10年前出来た
「ショッピングタウンいわもり」が賑わったこともあっだが、
近隣にもっと大きいモールが出来たため衰退し、
ついにメイン棟が閉鎖。
あとはいくつかの個人経営の店が残っているだけだ。

もう一つ、 「複合型ケアセンター いわもりの丘」
という施設があり、
介護付き老人ホーム「かもめ」と青年の家「みらい」、
それに児童擁護施設「にじ」の3つで構成されている。
厚労省の肝入りで、
今後の医療へのモデルケースを目指すという
一見崇高な理念を掲げ持つ。

物語は、樋口と島崎による調査と
土地利権の陰謀と
施設の内部で起こる出来事が並行して進む。

やがて、分かって来るのは、
その複合施設は中国の巨大薬品会社の資本で作られており、
その収容者に与えられている薬が
新薬の人体実験の疑いがある、ということだった。
だからこそ、ほとんど無料で
老人や青年、子供たちが受け入れられているのだ。
老人は認知症の中でもアルツハイマーに限定されており、
青年は過去に犯罪歴があり、
子供たちも、
何らのトラウマを抱えている者たちが集められている。

既に警官の失踪の他に
老人が崖から落ちて死ぬ、という事件が起こっており、
やがて、施設の青年が、
廃墟となった「タウン」で殺される。
子供たちの間では「アル=ゴル神(しん)」の存在がささやかれる。

樋口の立場も次第に判明してくる。
彼は警察官ではなく、
国の「組織」から派遣された人物で、
17年前に息子が誘拐されて行方不明になっている。

という重層的な話が
2日間という樋口に与えられた期限の中で展開する。

人物もそこそこ立っているし、
話の展開も面白いが、
なぜか心弾まない。
真相も、アメリカ映画のようだな、という印象で、
心の中にすとんと落ちてこない。

樋口の息子の失踪事件が
最後に絡んでくるが、
救いのようでもあり、
ご都合主義のようでもあり・・・

警察小説のようであり、
実はそうでもない。
樋口が警察官ではないからだ。
樋口の所属する「組織」は、
警察をはじめとした
司法捜査機関では手に負えない案件を扱うという。
そんなものが本当にあるのだろうか。

ただ、470ページの間、
読者を引っ張っていく筆力はある。


小説『凍てつく太陽』  書籍関係

[書籍紹介]

クリックすると元のサイズで表示します

葉真中顕(はまなかあき)による戦時サスペンス。

主人公の日崎八尋(やひろ)は
北海道庁警察部特別高等課所属の特高刑事

特高(とっこう)とは、特別高等警察の略で、
国体護持のために
無政府主義者・共産主義者・社会主義者他、
国家の存在を否認する者や過激な国家主義者を査察・内偵し、
取り締まることを目的とした日本の政治警察。
敗戦後、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の指示により
廃止された。

1944年12月、
室蘭の大東亜鐵鋼の飯場から
人夫が逃亡し、
その逃走経路を確定するために、
飯場に潜入した八尋は、事件を解決するが、
仲間と慕われていた朝鮮人のヨンチュンを騙して、恨みを買う。

翌年1月、
大東亜鐵鋼で人夫を統括していた朝鮮人将校・金田少佐が
芸者遊びのさなかに殺され、
芸妓の菊乃が行方不明になる事件が発生。
金田少佐の死体の脇の建物に
被害者の血で文字が書かれていた。
犯人の名前が「スルク」ということは分かるが、
その正体は判然としない。
捜査にあたる八尋の行き先で同様の事件が起こり、
やはり血文字があり、
カンナカムイというアイヌ語の言葉が書かれていた。
しかし、それは憲兵により秘匿される。

やがて、八尋に嫌疑がかけられる。
遺体からアイヌの毒が検出され、
八尋の父がその研究者で、
毒が父の作ったものと一致したためだ。
特高の「拷問王」三影(みかげ)の
苛烈な拷問に八尋は罪を認め、
無期懲役の判決が下され、
網走刑務所に収監されるが、
その同室に、あのヨンチュンがいた。

八尋は罪を晴らすために脱獄を企てるが・・・

一方、三影は、八尋の罪が冤罪である証拠をつかみ、
事件の背後に愛国第308工場での秘密研究があることを知る。
金田少佐以来の被害者が、
全員この工場の研究者であることが判明する。
三影のかつての教官・能代がそれにかかわってくるが・・・

実は八尋は日本人の研究者と
地元のアイヌの間に生まれた子供。
両方を知ると共に、
その両方から排斥される存在。
それに、朝鮮人で内地にやってきて、
差別と労働搾取にあうヨンチュンの心情も分かる。

こうして、事件の背後にある
日本人とアイヌ、朝鮮人、
天皇を頂点とする皇国臣民
の存在の意味まで斬り込んでいく。

なかなかの労作で、
アイヌの血を受けた存在についての斬新な踏み込み方をする。
潜入捜査、連続殺人、八尋の投獄、脱獄、復讐と
ジェフリー・アーチャーばりの波瀾万丈で、
軍事機密を巡る謎も物語を引っ張る。
それが日本における原爆製造の話にまで及んだ時、
この話、どこまで進むんだ、と期待が広がる。

しかし、室蘭への米軍空襲の中、
軍需工場に潜入するあたりになると、
突然、話がチープな印象になってしまうのは、なぜなのか。
意外な人物の正体が2度も出て来、
話を面白くするのは分かるが、
ちょっと無理やりだ。
また、繰り返される日本人論、国家論、
戦争論、民族論がくどいので、
かえって感興をそぐ結果となっている。

いくつか物語の綻びも散見される。
たとえば、脱獄の時、縛ったカミサマと呼ばれる囚人は
どうやってその縄を解いたのか。
軍需工場に潜入する時、
謎の人物の正体を八尋はどうやって知ったのか。

しかし、今までにない題材に斬り込み、
戦争の末期に起こった殺人事件の謎に挑む
物語の構造そのものは面白いと言えよう。


連作中編集『ドッペルゲンガーの銃』  書籍関係

一昨日訪れた恵比寿ガーデンプレイス

クリックすると元のサイズで表示します

そこのクリスマスツリー。

クリックすると元のサイズで表示します

日本とは思えない景観。

クリックすると元のサイズで表示します

逆方向から見ると、

クリックすると元のサイズで表示します

「歓びのかたち」という
クリスタルのツリーを見ることが出来ます。

クリックすると元のサイズで表示します

移動して、おじさんの町、新橋へ。
このお店の

クリックすると元のサイズで表示します

この看板に、アサリの魅力で惹きつけられました。

クリックすると元のサイズで表示します

これがそれ。
アサリがたっぷり。

クリックすると元のサイズで表示します

「おっかけ」というライスとスープのサービスがあり、

クリックすると元のサイズで表示します

サラリーマンの満腹感を助けます。

所変わって、東京ミッドタウン日比谷のツリー。

クリックすると元のサイズで表示します

クリックすると元のサイズで表示します

このあたりは様々イルミネーションが楽しめます。

クリックすると元のサイズで表示します


[書籍紹介]

クリックすると元のサイズで表示します

倉知淳による謎解き中編3部作。

主人公は女子高生ミステリ作家の水折灯里(みずおり・あかり)。
老舗出版社が主催する短編ミステリィの賞に佳作入選し、
受賞第1作を編集者に迫られ、アイデアが浮かばず、困っている。
そこで頼りにしたのが、兄の刑事・大介。
この大介、勉強が好きで、試験にも強く、
国家公務員採用総合職試験に軽々とクリアし、
警察庁の入庁試験にもあっさりパスして、
若くして高級官僚になった人。
しかし、強いのは紙の試験だけで、
空気を読めず、状況判断も駄目で、
灯里は密かに「ポンコツ」と呼んでいる。

そのポンコツが持ち込んだ3つの事件が、
いわゆる「本格もの」なのだ。

第1篇 文豪の蔵 
     〜密室空間に忽然と出現した他殺死体について〜

ある作家の生活していた家を記念館とする話が持ち上がり、
好事家なら垂涎の的になるような
稀覯本や初版本が所蔵されている蔵で死体が発見される。
しかし、蔵は完全に密閉されており、秘密の入り口もない。
蔵は南京錠で施錠されており、
鍵はずっと蔵の持ち主である徳山氏が首からぶら下げていた。
犯行時刻にも首に掛かっていたとの証言がある。
他の場所から死体が運ばれたのではないことは
鑑識の捜査の結果でも明らか。

という典型的な密室殺人
「誰に」「どうやって」密室で殺されたのか。

第2篇 ドッペルゲンガーの銃 
     〜二つの地点で同時に事件を起こす
      分身した殺人者について〜

東京の北と南の端で、ほぼ同時刻に事件が起きた。
一つは足立区で起こったコンビニ強盗。
もう一つは大田区の雑居ビルでの殺人事件。
どちらも犯人は目出し帽にゴーグル姿で、
コンビニの方は監視カメラの映像が残っている。
雑居ビルでは、銃声が聞かれ、逃げる犯人が目撃されている。
二つの現場は遠く離れているはずなのに、
犯人が同一人物としか思えない事件なのは、
コンビニの天井に残った銃の線状痕
死体から取り出された銃弾の線状痕が一致したからだ。
線状痕(せんじょうこん)とは、
銃から発射された弾丸につく、かすかな傷跡のことで、
銃によって違う、いわば「銃の指紋」
しかし、二つの現場は25キロも離れており、
一つの現場から別の現場までの移動が
2分間でなされるとは思えない。

捜査会議で、「ドッペルゲンガーじゃないか」と冗談だ出るほどだ。

ドッペルゲンガー・・・自分とそっくりの姿をした分身。
             同じ人物が同時に別の場所に姿を現す現象
             を指すこともある。

どうして同じ時刻に二つの事件が起こり、
同じ銃から銃弾が発射されたのか。
それとも、本当にドッペルゲンガー現象なのか。

第3篇 翼の生えた殺意 
     〜痕跡を一切残さずに空中飛翔した犯人について〜

雪の夜、ある邸宅の離れで老人が自殺する。
雪の上に残ったのは、老人が離れに向かったゲタの跡と、
発見者である長男の車椅子の往復の跡だけ。
被害者は首を吊った状態で死んでいたのだが、
人に絞められたのではなく、
間違いなく自分の体重で締まったものだ。
自殺かと思われたが、
鑑識が死体の手首に残ったわずかな擦過傷を指摘する。
自殺で終れば、この話自体がないのだが、
結果は殺人。
容疑者は3人の息子。
しかし長男は両足を骨折して車椅子生活、
次男は右腕を骨折中、
三男の極端に背が低く、
いずれにしても被害者を吊り上げて結ぶことができない。
その上、3人は母親が違い、ものすごく仲が悪い。
殺人であるなら、
どうやって首を吊らせたのか。
雪に残された足跡は、
誰も離れにいなかったことを示している。
犯人は翼があって、空を飛んだのか・・・


警視監である父と、キャリア刑事である兄の威光を使って
灯里は事件現場に潜入し、
様々な推理をし、それが兄によって否定される。
そこへ、もう一つの人物が登場して・・・

と、その人物が登場した時には、
うわ、この話、そういう方向になるのか、
と驚くこと必至。

結果、謎はその人物によって解かれる。

やり尽くされた感のある本格ものの謎に
果敢に挑戦した、
ユーモアたっぷりの3つの中編。

兄の大介の活躍の余地がないが、
それは続編に期待か。

敏腕編集者の佐田山によって評価される各編のオチが楽しい。



小説『ロンリネス』  書籍関係

[書籍紹介]

クリックすると元のサイズで表示します             

この小説、少し読んで、
以前、同じシチュエーションの小説を読んだことがある、
と気づいた。
その小説とは、同じ作家の「ハピネス」で、
「ロンリネス」は、「ハピネス」の続編なのだった。

「ハピネス」の本ブログでの紹介は、↓をクリック。

小説「ハピネス」

前作は、東京の湾岸地区のタワーマンションに住む
ママ友たちのコミュニティーを描いたもので、
それぞれ子供の名前のついた
いぶママ、真恋ママ、芽玖ママ、
花奈ママ、美雨ママ
と呼ばれている。

主人公は花奈ママこと岩見有紗で、
前作の後、5人の関係は既に求心力を失っていて、
真恋ママ、芽玖ママの二人はちょっとしか登場しない。

今回の話は有紗のマンションの1階下にいる
電器会社に勤める高梨との不倫関係を中心に描く。
そして、副筋として、美雨ママといぶママの夫との
W不倫がからむ。
美雨ママはいぶママの夫の子供を宿しており、
夫は堕ろしてほしいというが、美雨ママは生む決意をしている。
その結果、いぶママも美雨ママも離婚することになる。

一方、有紗と高梨の関係は、
「絶対寝ない」という掟を作りながら、
ついに一線を越えてしまう。
「結婚後出会った本当の恋愛」などという
都合のいい理屈も述べる。

というわけで、
タワマンに住む奥さんたちの
ゴタゴタを延々と読まされるのは苦痛だった。

ただ、書き方が巧みなので、
すらすらと読める。
読めるが、登場人物への感情移入は全く生じない。
いろいろ悩むが「勝手に苦しんでくれ」としか思えない。

だったら読まなきゃいいじゃないか、
と言われそうだが、
前作の続編として、
その行方を確かめたくて読んだ。

庶民のあこがれの的であるタワマンの中で展開される話は、
こんなことしか考えられないのか、
と思うほど空虚で空しい。(同じか)
ただ、テレビドラマには向いていると思うので、
どこかの空っぽ頭のプロデューサーの手でドラマ化されるかもしれない。


短編集『ある日失わずにすむもの』  書籍関係

今日は昼前から、
奥渋に出掛けました。

クリックすると元のサイズで表示します

渋谷の東急文化村の前を代々木八幡方面に向かい、
松濤町から大山町に変る辺りから先が
「奥渋谷」略して「奥渋」と呼ばれるようです。

クリックすると元のサイズで表示します

で、向かったのは、この店。

クリックすると元のサイズで表示します

魚屋さんですが、
食堂も併設。
これが人気店に。

クリックすると元のサイズで表示します

入ったところに、こんな札がかかっていて、
これを持って注文します。

クリックすると元のサイズで表示します

今日は、テレビで紹介されていた、さば味噌煮を。

クリックすると元のサイズで表示します

「カミ」はさばの上の方、「シモ」は尻尾の方。

札の後には番号がついていて、

クリックすると元のサイズで表示します

その日によって変る当たり番号。

クリックすると元のサイズで表示します

「6」で当たり。
この中から一品おまけになります。

クリックすると元のサイズで表示します

これが、さば味噌煮定食。

クリックすると元のサイズで表示します

さばを2日間煮込んでいるため、
骨まで食べられます。
スプーンがついているのは、
汁をご飯にかけて食べるため。
これが美味で、ご飯をお代わりします。
でも、ご飯を残すと罰金を取られます。
↓がその告知。

クリックすると元のサイズで表示します

趣旨は、お百姓さんが作った米を無駄にしないため。

世の中には隠れた美味な店が沢山あります。


[書籍紹介]

クリックすると元のサイズで表示します
                             
世界中の各地に住む普通の人々を描く12の短編。

たとえばボストンに住むマークスは、
弟と共にブロンクスを出て、
ジャズのミュージシャンになる。
ようやく音楽家としての生活が堅実になった時、
徴兵に取られる。

スペインの片田舎に住むホセは、
吝嗇で蓄財だけが楽しみな生活をしていたが、
兵役について出生する時、
立ち寄った教会で、
自分のために祈りを捧げてくれる村人たちに出会う。

といった調子で、
舞台はバンクーバー、フィリピン、
太平洋の島、西海岸、 東海岸、
房総の漁師町、ポルトガル、パリ
と変化する。

共通するのは、遠くで第三次世界大戦が起こっており、
登場人物たちが、
徴兵されるためにその土地を去ること。
そして、その人たちの幸福を求める生活が
戦争によって中断される姿だ。

表紙に小さく「twelve antiwar stories」とあるように、
乙川優三郎流の反戦小説
戦争がいかに市井の人々の暮らしを破壊するかを描く。

「戦争がなぜ悪いかというと、
それが普通の人々の幸福を追及する自由を奪うことだ」
と言った人がいたが、
まさに、この小説の登場人物たちは、
ささやかな生活で幸福を求め、
愛する人を獲得し、
地域に根を下ろし、
堅実な生活を作り上げる。
それが戦争に駆り出されることで中断しなければならない。
自分には関係のない、
遠い場所で行われている戦争のために。
そして、愛する人と別れ、
生きて帰ることができるかどうか分からないまま、
住み慣れた土地を去る。
誰が何のために始めた戦争か分からないのに。

察するに、戦争はアメリカと中国との間で始まり、
それが世界を巻き込んでいったもののようだ。

最終章「こんな生活」は、
その中国の農村の夫婦の話で、
最も哀切な物語だ。

内陸部の貧しい村に生まれた彼は
子供のころから過酷な農作業を見て育った。
ほとんど自給自足の生活で、現金収入は少なく、
痩せた土地と闘う両親は実際の年齢より十歳は老けていた。
いつ建てたのか分からないような粗末な家で
粗末な食事に耐えながら、
重労働の日々を重ねる。
子供の目にも二等の生活に見えて、
自分の代にはなんとかして変えたいと思わずにいられなかった。
それは父も祖父も同じであったが、
農作物の増収をはかる方法も技術も分からず、
それを生み出す教養もなかった。


こんな描写もある。

この国で人間らしく暮らすことを許されているのは
都会に生まれた人々で、
恐ろしく豊かであった。
企業に勤めて高給を取り、
好機と見れば転職し、
起業し、
金が金を作る人たちである。
安い仕事を嫌う自由もあれば、
安い労働力を使う自由もある。
しかし彼らの優雅な生活を底から支えているのは
貧しい地方からくる出稼ぎ労働者たちであった。
低賃金だが、貧困からの脱出を可能にする唯一の方法であった。


父も農村を出て、都会に出て、失意の帰郷をする。
村に留まった主人公に幸運が訪れたのは、
外国の商社が村の発展に手を貸したことだった。

彼にとって幸運だったのは
外国の商社が広い農地と用水の便に目をつけたことで、
ある年を境に状況が一変した。
努力と技術を持つ彼らは
同胞より親切で、礼儀正しく、
辛抱強い農業改革の指導者であった。
しかも農民の自立と増収を忘れていなかった。
(中略)
驚いたのは効率的な作付け、
農薬の適量、見栄えと品質の大事なこと、
安全性と信用、出荷方法といった技術情報を
異国の商社員が惜しげもなく教えてくれたことである。
(中略)
著しい成果の大部分は外国人の指導に依るところが大きかった。
寛容な彼らは自らの利益のうちに村の発展を組み入れていたし、
長い将来を見通すことに馴れていた。
消費者を無視して目先の儲けに飛びつくことが
本当の進歩をもたらさないことも知っていた。
ジェンドン(主人公)はそういうことも彼らから学んだが、
どんなときでも自分を正当化する民族の気質が彼の中にもあって、
規格外の野菜の混入や農薬の量の僅かな間違いを指摘されて、
つい反論することがあった。
しかし自己弁護のための感情的な屁理屈にも
彼らは顔色を変えずに向き合い、内心では呆れながらも、
目に見えない安全性やそのための努力が
大きな信用を生むことを諭しつづけた。
(中略)
慢心に気づいた彼は自身の過ちや油断を認めることからはじめた。
どういう教育を受ければ
彼らのように優しくなれるのだろうかと
見上げる気持ちであった。


主人公は生活の豊かさを手に入れるが、
戦争が始まる。

突然彼らの国と戦うことになったときも、
なにを馬鹿な、と彼は心底から失望した。
外国資本の流入によって経済成長を遂げながら、
軍備の増強を重ねた挙げ句、
利己的な思惑に任せて国力を振るい、
帝国化したのは自分たちの国であった。
それまで世界はどうにか平和で、
戦火を広げる必要などどこにもなかったのである。
国と国との敵対関係は人と人との深交を踏みつけて、
一般人には無意味な争いであったから、
ジェンドンは支配階級の過信と欲深さに辟易した。


事態は悪化し、主人公の環境は
元の劣悪なものに戻ってしまう。
そして、徴兵の知らせが届く。

病気の妻のために、農作物を整理し、
近所の人に妻を託して、
家を出る時の描写は哀切きわまりない。
家の前にうずくまる妻の姿を振り返り振り返りしつつ、
戦地におもむく主人公の姿に
涙を禁じえなかった。

声高でイデオロギーに満ちた反戦の叫びよりも、
ずしりと胸にこたえる反戦の叫び
それがこの一冊の本である。





AutoPage最新お知らせ