映画『僕たちは希望という名の列車に乗った』  映画関係

[映画紹介]

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原題は「沈黙する教室」
これではセガールの映画と勘違いされるとでも思ったのか、
思いっきり文学的な邦題をつけた。

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1956年、東ドイツの高校生のテオとクルトは、
西ベルリンの映画館で
ハンガリーの民衆蜂起を伝えるニュース映像を目の当たりにする。
二人は級友たちに呼びかけて
授業の始まりに2分間の黙祷を実行する。
自由を求めるハンガリー市民に共感した純粋な哀悼だったが、
それは当局からは、社会主義国家への反逆と見なされる。
調査に乗り出した当局から、
一週間以内に首謀者を告げるよう宣告された生徒たちは、
人生そのものに関わる重大な選択を迫られる。
仲間を密告してエリートへの階段を上がるのか、
それとも信念を貫いて大学進学を諦め、
労働者として生きる道を選ぶのか・・・。

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ベルリンの壁が出来るのは、5年後の1961年だから、
当時は西ベルリンに行くのは自由だったという事実。
その西ベルリンから、
世界の本当の有様を知らされた若者たちの葛藤。

ロシア革命で、世界初の社会主義国家が出来たのは、1920年
第2次世界大戦を通じて、東欧がソ連の影響下に置かれ、
社会主義国家群が出来て、西側と対立。
などという歴史的事実は徐々に忘れ去られているが、
東ドイツ、チェコスロバキア、ハンガリー、ブルガリア、ルーマニアを境に、
「鉄のカーテン」↓が引かれていた。

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しかし、社会主義が人間の本性に反していたため、
いずれの国も統制強化社会となっていく。
上からの強圧がなければ、社会主義を維持できないのだ。

しかし、1991年にソ連が崩壊すると、
重しの取れた社会主義国は次々に体制を改め、
現在ヨーロッパにはソ連型社会主義国は残っていない。
現在では中華人民共和国、北朝鮮、
ベトナム、ラオス、キューバなどが残っているだけである。
それも、現実的には、
政治的には社会主義を堅持しながらも、
経済的には資本主義を導入して効率化と発展を追求する、
一種の混合経済を進めている。
ただ、体制を維持するためには、
言論への抑圧を続けなけれならず、
人類の「自由」への希求は激しいものがあるから、
やがては中国も北朝鮮も体制を変えざるを得ない時が来るに違いない。

この映画では、東ドイツの社会が
どのような息苦しいものだったかが分かる。
善意で行った黙祷が
反国家的なものとして糾弾される。
女尋問官に一人づつ呼ばれて様々な質問をされ、
裏切りを仄めかされる。
ついには、教育相が登場する騒ぎに。
大の大人が高校生に圧力を加え、
子供の行動を国ぐるみで圧殺しようというのだ。
人生の初期段階に、
行く道を決めなければならない若者たちの苦悩は深い。
それでも大多数の学生が節を曲げず、
最後の教室のシーンで、
次々と「自分が首謀者だ」と名乗り出る姿は、
キューブリックの「スパルタカス」(1960)を思わせる。
そして、最後は、西に向かう。
まさに、「希望という名の列車」に乗って。
そういう意味で、よく内容を表わす邦題といえよう。

原作者のディートリッヒ・ガルスカは、
東ドイツから西ベルリンにクラスメートと共に逃亡。
西ベルリンで高校を卒業したのち、
ドイツ文学、社会学、地理を学び、
高校教師を務めた経歴の持ち主。
2006年に自らの経験を記した
「沈黙する教室 1956年東ドイツ―自由のために国境を越えた高校生たちの真実の物語」↓を発刊。

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映画化された本作がベルリン国際映画祭でお披露目された
2か月後の2018年4月18日に死去。
監督は「アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男」などの
ラース・クラウメ

5段階評価の「4」

予告編は↓をクリック。

https://youtu.be/bFBqvD98Jvw

ヒューマントラストシネマ有楽町、ル・シネマ他で上映中。


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映画『居眠り磐音』  映画関係

[映画紹介]

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佐伯泰英による時代小説の初映画化
原作は全51巻に及ぶ作品。
文庫書き下ろしで2002年から2016年にかけて刊行され、
累計発行部数2千万部を超えるベストセラー。
2007年から2017年にかけて
山本耕史主演でテレビドラマ化されている。

豊後関前藩(架空)の
坂崎磐音(いわね)と小林琴平、河井慎之輔の三人は、
幼馴染みであると共に、
直心影流の佐々木道場で腕を競い合う修行仲間だった。
3年の江戸詰を終えて国に帰る三人は、
共に藩政改革を志す夢を抱いていた。
また、磐音は琴平の妹・奈緒との祝言を
帰国後直ちに行う予定だった。

しかし、その3人を凶事が襲う。
慎之輔が妻の舞(琴平の妹)が不貞を犯したとの讒言を信じ、
家に帰るなり、斬り捨ててしまったのだ。
妹を殺されて錯乱した琴平が慎之輔を斬り、
家老の宍戸文六の強引な裁決により、
琴平に上意討ちの刺客が向けられる。
やむにやまれず上意討ちの一翼を担った磐音は、
琴平と対決するが、心ならずも幼馴染みを斬ってしまった。
磐音は藩を去り、婚約者の奈緒は行方知れずになってしまう。

江戸で浪人として生活することになった磐音は、
昼はうなぎ割き、夜は両替商の用心棒として働き始める。
そして、田沼意次の発行した南鐐二朱銀の両替比率を巡る
両替商同志の争いに巻き込まれていく・・・

事情により藩を離れた侍が
江戸で浪人生活を送る、というのは、よくあるパターン。
ま、それはいいとして、慎之輔が諫言によって妻を疑い、
斬ってしまう、という展開はあまりに短慮過ぎないか。
オセロじゃあるまいし。かんざしがオセロのハンカチか。
その後、琴平が慎之輔を斬り、
磐音が琴平を斬るという展開も無理やりで、
間抜けにさえ思える。
上意討ちに加担した磐音に咎はないのだから、
脱藩する理由はないし、
奈緒を放りっぱなしというのも無責任ではないか。

両替屋の用心棒になってからの
両替比率を巡る話は、
へーえ、そんなことがあったのか、と知識が増えた思い。
その時、磐音が描いた策略は、磐音の優秀さを伺わせていい。

しかし、奈緒との、ああいう形での再会は、
いくらなんでも無理筋で、誇張が過ぎる。
あの境遇の中で磐音に手紙を書く、
というのも奈緒のひとりよがりで、
磐音が知らない形で、
奈緒の今を描く方が哀切だった気がする。

また、「居眠り剣法」なるものが生かされていない。

と、まあ、不満はあるが、
全体的にはていねいな作りで、
時代劇としては水準の出来。

5段階評価の「3.5」

では、なぜ「3.5」しかつけられないかというと、
主演男優の演技に問題があるからだ。

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磐音は、藩の中老の嫡男として、
藩の未来を嘱望されていた立場。
その同志でもある竹馬の友を
仕方ない経緯とはいえ、殺害してしまった。
その呵責から藩から抜け出し、
輝かしい未来を喪失、
許婚者と離ればなれになり、
江戸で用心棒稼業で糊口をしのいでいる身。
その鬱屈、孤独、悔恨、哀しみ
松坂桃李の中からは何一つ立ち上がって来ない。
なぜか。
表情の演技が出来ていないからだ。
松坂桃李の表情は一つしかない。
これでは、男の哀愁が表現出来るはずもない。
それを補う演出上の工夫も不足している。

だから、虫の息の有楽斎が末期のいやがらせに言う
「あんたはこの先も人を斬る・・・何人も、何十人も。
そのたびに思い出すんや・・・
竹馬の友を斬った手触りを。
地獄やでえ・・・」
という言葉に対して、
「・・・地獄であることなど、もとより承知じゃ。
友のおらぬ世で、
愛しい女に二度と会えぬ世で、
生きてゆくなど、死ぬよりも酷ぞ!
だが、それがしは選んだのだ。
生きることを。
ごく当たり前の、穏やかな、人々の暮らし──
われとわが友が、永遠に喪うたもの。
それが脅かされることあらば、
断じて見過ごしはせぬ。
それが地獄の道でも──生きて進む」
という重要な台詞が、何も響かない。

映画が「人間」を描くものである以上、
主役の持っている陰影が表現できなければ、
映画はただのストーリーを追うだけのものになってしまう。

「日本のいちばん長い日」で、
松坂桃李は若い参謀を演じて、
その時も本ブログで
「通り一遍の演技」と書いたが、
本作でも磐音を演ずるには、
やや荷が重かったようだ。

予告編は↓をクリック。

https://youtu.be/0pqomw9Rqnw

拡大上映中。

先着入場者に対して、↓の文庫判シナリオが配付されている。

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なお、佐伯泰英は著作累計6千万部を売る作家だそうだが、
藤沢周平に親しんだ者にとっては、
やや物足りなく、
1冊読んだだけで終った。



映画『ザ・フォーリナー 復讐者』  映画関係

[映画紹介]

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ロンドンでレストランを経営する中国人のクァン(ジャッキー・チェン)は、
愛する高校生の娘の成長を見守っていたが、

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娘は無差別テロに遇い、
クァンの目の前で命を落としてしまう。
クァンは犯人を探し出し、復讐を果たそうと決意する。

クァンには中国からタイとシンガポール経由で脱出した過去があり、
その途中、妻と娘二人を失っていた。
だからこそ、一人娘への愛情は深い。
今は隠退して穏やかな日々を送っているが、
実は元特殊部隊に所属していた。
その封印した過去のスキルを生かし、
復讐のための戦術を展開する。
標的は、テロリストとつながっていると見られる、
北アイルランドの副首相ヘネシー。
クァンはヘネシーと強引に面談し、
犯人の名前を聞き出そうとするが、
ヘネシーはとぼけて真相を明かそうとしない。
そこで、クァンはヘネシーを追い詰めるために・・・

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いつものジャッキー・チェンの映画と違い、
ジャッキーはさえない初老の市井人として現れる。
しかも、娘を殺されて復讐の念にかられる男。
だが、一市民の彼にどんなことが出来るのかと心配していると、
次第に特殊部隊時代に培った技術が現れて来る、
という趣向。
ジャッキー・チェンの年齢を考慮した、うまい設定だ。
今度はアクションはないのか、
と心配していると、
ちゃんとアクションも見せてくれる。
それも、年齢に合わせたレベルで。
体力の落ちた中、必死に闘う姿が胸を打つ。
ただし、ジャッキー・チェンのコミカルな面は完全封印
終始、娘の復讐を目論む沈鬱な男を造形する。

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ヘネシーには、元ジェームズ・ボンドのピアース・ブロスナンを配し、

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監督は、「007 カジノ・ロワイヤル」(2006)のマーティン・キャンベル
英国の風土の中で
中国人のジャッキー・チェンが活躍する。
始めから最後まで、
緊張感もほどほどで、
面白く観れた。

5段階評価の「4」

予告編は↓をクリック。

https://youtu.be/6u-X0togL3c

新宿ピカデリー他で上映中。

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映画『アベンジャーズ/エンドゲーム』  映画関係

[映画紹介]

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アベンジャーズシリーズ第4作にして、最終作
更に、マーベル・シネマティック・ユニバースの集大成となる作品。

マーベル・シネマティック・ユニバース
(Marvel Cinematic Universe )・・・
マーベル・コミックによって出版されたコミックのキャラクターに基づいて、
マーベル・スタジオ製作のスーパーヒーロー映画作品が共有する
架空の世界、及び作品群の総称。

前作「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」のラストは衝撃的だった。
インフィニティ・ストーンの6つの石を獲得したサノスの
「指パッチン」によって、
全宇宙の生命体の半分が失われてしまう
同様にアベンジャーズの半数のメンバーも消滅。
ドクター・ストレンジも、スパイダーマンも、
ブラックパンサーも、ピーター・クイルも、
グルートも、マンティスも、ドラックスも、
スカーレット・ウィッチも、
ニック・フューリーまでもが
塵芥になって、空間に飛散してしまう。
主人公たちの半数が
死んでしまうという、
こんなラストは全く予想出来ず、
世界中で驚きに包まれた。

そして、本作に続く。
元々本作と「インフィニティー・ウォー」は
一つの作品の前後編として企てられていた。
その後、別々な作品となったが、
撮影は2本分同時進行で行われたという。
そうでなければ、前作からわずか1年で
本作が公開されるのは、無理だったろう。

主人公たちが半分になってしまった世界はどのようなものか。
彼らのリベンジはなるのか、
いやがおうにも期待は高まり、
世界的に大ヒット。
なにしろ、興行収入であの「タイタニック」を追い越し、
「アバター」に迫る勢いというのだから。

宇宙船で地球への帰還をを目指していたトニー(アイアンマン)は、
食料や酸素は残り僅かで、死を覚悟していた。
そこにキャロル(キャプテン・マーベル)が現れ、
トニーたちを救出して地球まで運ぶ。
トニーは生き残ったアベンジャーズのメンバーたち、
キャプテン・アメリカ、ハルク、
腹が出たソー、ブラック・ウィドウ、
殺し屋となったホークアイ、ウォーマシン、
アントマン、キャプテン・マーベル、
ロケット、ネビュラら
と合流。

野望を果たしたサノスは、ある星で隠居生活を送っていたが、
そこへアベンジャーズが攻め込み、
インフィニティ・ストーンを取り戻して、
失われた人々を生還させようとするが、
サノスはすでに6つのインフィニティ・ストーンを
全て破壊した後だった。
怒りのあまり、ソーがサノスを殺害する。
全てが手遅れであると知ったアベンジャーズは、
絶望の日々をすごし、5年の歳月が流れる・・・

ここまでが第1幕。
本作は、アメリカ映画の伝統にのっとり、
3幕構成で展開するが、
この後、メンバーがインフィニティー・ストーンを取り戻すために
ある作戦を展開し、
6つの石を獲得するまでが第2幕。
そして、その石を巡ってサノスの軍勢は最後の戦いをするのが、
第3幕。

特に、第2幕は、
それまでのマーベル作品を観て来た人にとっては、
涙が出る展開だろう。

実は、私は、ある時期からマーベル作品とは距離を置いていた。
そろそろ年齢的についていけないものが感じられたからだ。
それが旅行の飛行機の中で
「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」を観て、
あまりの面白さに娘に勧めたところ、
娘がはまってしまい、
マーベル全作品を制覇。
私も本作を観るために、
未見だった「エイジ・オブ・ウルトロン」を含め、
第1作から第3作までを、
娘の解説を受けながら、予習、復習。
「インフィニティ・ウォー」でも、
「この人、誰?」
「この人とこの人との関係は?」
状態だったが、何とか人物像は把握することが出来た。

そして、本作。
堪能した。
マーベル映画10年21本の集大成で、
見事に世界観が一つになっていることが驚き。
ビジュアル的にも驚異の映像が続き、
脚本も破綻なく展開、
その上、演出のセンスが抜群。
監督アンソニー&ジョーのルッソ兄弟
頭の中を覗いてみたくなる思いがした。

ストーリー的にも、わくわくする部分、驚愕する部分、
そして、ほろりとさせる部分が上手にブレンドされている。
アラン・シルヴェストリの音楽もいい。

マーベル映画は年齢的にはきついが、
まだ感受性は残っている、と安心した次第。

5段階評価の「4」

予告編は↓をクリック。

https://youtu.be/KunCDzXlXLI

マーベル(MCU) 作品は次のとおり。
(赤字は公開時鑑賞、青字は公開時は観ず、後で鑑賞、黒字は未見)

  1. アイアンマン(2008年)
  2. インクレディブル・ハルク(2008年)
  3. アイアンマン2(2010年)
  4. マイティ・ソー(2011年)
  5. キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー(2011年)
  6. アベンジャーズ(2012年)
  7. アイアンマン3(2013年)
  8. マイティ・ソー/ダーク・ワールド(2013年)
  9. キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー(2014年)
  10.ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー(2014年)
  11.アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン(2015年)
  12.アントマン(2015年)
  13.シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ(2016年)
  14.ドクター・ストレンジ(2016年)
  15.ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス(2017年)
  16.スパイダーマン:ホームカミング(2017年)
  17.マイティ・ソー/バトルロイヤル(2017年)
  18.ブラックパンサー(2018年)
  19.アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー(2018年)
  20.アントマン&ワスプ(2018年)
  21.キャプテン・マーベル(2019年)
  22.アベンジャーズ/エンドゲーム(2019年)

この後も、次の作品が公開予定。

  23.スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム(2019年6月28日公開)
  24.ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーVol.3 (仮題)

全体の流れは、↓を参照。

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小説『キネマの神様』  映画関係

[書籍紹介]

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原田マハによる、
映画を愛する人々の物語。

再開発企業に勤めていた39歳の円山歩は、
巨大再開発プロジェクトに関わり、
シネマコンプレックスの担当をしていたが、
イギリスの大手シネコン業者との提携が職権乱用との誹りを受け、
会社を退職する。
再就職の当てがないまま、
父母の従事するマンションの管理人室を手伝う毎日。
80歳の父はギャンブル依存症の上、借金漬けで、
最近心臓病の手術を受け、入院している。
歩は、父と母に、会社をやめたことを告げることができない。

退院した父からギゃンブルをやめさせるため、
預金通帳も取り上げてしまった。
そんな時、
無類の映画好きの父親の書いた昔の映画日記を見つけ、
その一ページに自分の感想を書いた紙をはさんでおく。
ネットカフェで父に映画館検索の方法を教えると共に、
書き込みの仕方も教えてやる。

数日後、歩は一人の女性から電話を受ける。
映画雑誌「映友」の編集長・高峰好子からで、
歩に、「うちの雑誌で、書いてみませんか」と持ちかける。
実は、父が映友のホームページのブログに、
歩が映画日記にはさんだ文章を投稿してしまっていたのだ。
特に、次の文章が高峰編集長の気に入ったのだという。

もちろん、名画はどこで観たって名画だ。
けれど夏の夜空に咲く花火を、
家の狭いベランダからではなく、
川の匂いと夜風を感じる川辺で見上げれば
ひときわ美しいように、
映画館で観れば、
それはいっそう胸に沁みる。


こうして、歩はあこがれの映友社に就職する。
と共に、思わぬ経緯で、
父が書く映画感想文が
「キネマの神様」という表題で、
映友社のホームページに掲載されることになる。
ギャンブルから隔絶された父にとって、
映画感想文は生き甲斐のようになり、
その英語版が掲載されると、
「ローズバッド」という人物から
英語でコメントが寄せられ、
父とのやり取りが評判を呼び、アクセス数が増える。
やがて、ローズバッドの意外な正体が分かると共に、
父とローズバッドの間に友情が芽生え・・・

これに名画座「テアトル銀幕」の支配人の寺林や
歩の元部下で、結婚してアメリカ在住の清音や、
高峰編集長のひきこもりの長男などがからむ。

篇中、描かれるのは、映画愛である。

ラストシーンを見ながら、
「ああ、おれはほんとに映画が好きだ。
映画が好きで、映画を見続ける人生でよかった」
と涙が止まらなかった。

客席を立ち上がった人たちの顔は、
どれもが幸福感に満ち溢れていた。
内側から輝いているような、
まぶしさがあった。
観る人を幸福にする映画。
そんな映画に、本日、出会った。
劇場を出ると、
銀座の冷たい夜風が
濡れていた頬に気持ちよかった。
感謝しなくちゃ、と小生思った。
こんな映画が観られる世の中で、
万事平和な世の中で、ほんとうによかった。
借金取りに追いかけられようと、
女房娘に疎まれようと、
映画を好きな人生で、
つくづく小生、幸福者である。


といった描写が頻繁に出る。

作者が映画を愛しているのは分かるが、
こうも真っ正面から映画愛を語られると、
くすぐったく感じるのは、私がひねくれているせいか。

その上、話はあまりに都合良く進む。
登場人物も善人ばかりで、
「映画を好きな人は全員良い人ばかり」
といわんばかりで、少々鼻白む。
映画好きな人の中にも、悪人はいるだろうに。
また、映画も全てが名作ではなく、
クソ映画、悪映画も沢山あるだろうに。
そもそも、歩の父がそんなに映画好きなら、
ギャンブルにはまる時間はなかったのではないか。

ローズバッドと父の友情はなかなかいいし、
終盤、ちょっと涙腺がゆるむが、
それもあまりに予定調和。

原田マハには、こんな直球ではなく、
変化球を期待するのは、
望み過ぎだろうか。

「映友」はおそらく「映画の友」、
高峰好子は、岩波ホールの高野悦子、
「テアトル銀幕」は、飯田橋ギンレイホールがモデルと考えられる。

本の中には、以下のような多数の映画が登場する。

ニュー・シネマ・パラダイス
フィールド・オブ・ドリームス
硫黄島からの手紙
眺めのいい部屋
アメリカン・ビューティー
シンドラーのリスト
I am Sam アイ・アム・サム
フォレスト・ガンプ 一期一会
プライベート・ライアン
タイタニック
アメリ
戦場のピアニスト
イングリッシュ・ペイシェント
Shall Weダンス?
七人の侍
インディ・ジョーンズ最後の聖戦
ターミナル
ビッグ・フィッシュ
ゴーストニューヨークの幻
天国から来たチャンピオン
チャップリンの殺人狂時代
ワーキング・ガール
カッコーの巣の上で
セックス・アンド・ザ・シティ
テルマ&ルイーズ
自転車泥棒
或る夜の出来事
カサブランカ
シャイニング
グッドナイト&グッドラック
ブロークバック・マウンテン
ローマの休日
あなたがいたら少女リンダ
モーリス
予告された殺人の記録
花嫁のパパ
アバウト・シュミット
サスペリア
時をかける少女
真昼の決闘
キング・コング
ゴジラ
大怪獣ガメラ
ミクロの決死圏
第三の男
ALWAYS 三丁目の夕日
シェーン
荒野の七人
オール・アバウト・マイ・マザー
トーク・トゥ・ハー
捜索者
黄泉がえり
リトル・ミス・サンシャイン
アダムス・ファミリー
ロビンフッドの冒険


なお、昔は洋画は
ロードショウ → 2本立てのチェーン(一般公開)→ 名画座、
邦画は
東宝、松竹、東映、日活、大映などの系列館の2本立て → 名画座
という順番があった。
今は、旧作はDVDやBD、WOWOWやネット配信で観るものとなり、
名画座は次々と姿を消している。
今都内で残っている名画座は、

早稲田松竹(1951年開館 153席)

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飯田橋ギンレイホール(1974年開館 206席)

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目黒シネマ(1975年開館 100席)

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キネカ大森(1984年 134席、68席、39席)

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新文芸座(2000年開館 前身の人生座は1948年開館 266席)

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くらいであろうか。

新文芸座のホームページを見たら、
「2本立て」とは?
という項目があり、
「1枚のチケットで2本の映画をご覧いただけます
入れ替えがありませんので、同じお席で続けてご覧いただけます
最終回1本のみご覧の場合は「ラスト1本」料金でご覧いただけます」
という説明があり、おかしかった。
今の若い人は1本立興行に慣れて、
2本立てというのはなじみがないようだ。


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