小説『ダレカガナカニイル・・・』  書籍関係

[書籍紹介]

クリックすると元のサイズで表示します

共作作家・岡嶋二人(井上泉・徳山諄一。
「おかしなふたり」をもじったペンネーム)を解散して、
井上夢人として「ソロデビュー」した最初の作品。
1992年刊行。
                                        
警備会社に勤める西岡悟郎は、
不祥事を起こし、山梨に左遷される。
新しい任地は、
小淵沢から車で行った山中にある
新興宗教「解放の家」の警備だった。
解放の家は、近隣住民とトラブルを起こしていたのだ。
初出勤の日、施設内で火事が起こり、
教祖の吉野桃江が焼死する。
その時、悟郎の体に異変が起こる。
何かの衝撃を受けてはね飛ばされ、
その後、悟郎の中に奇妙な声が聞こえるようになったのだ。
悟郎はその声と対話し、自分が狂ったのだと思い込む。
精神科医の診断も受け、催眠療法もやってみる。

やがて、その声は、焼死した吉野桃江のものらしく、
死後、離脱した桃江の「意識」が、
悟郎の中に住み着いたようなのだ。

ということが判明するのは、172ページあたり。
読んでいて当然なことを
そんなにもていねいに描いているのだ。

催眠療法の経緯もごくていねいに描く。
ていねい過ぎて退屈するくらい。
なかなか悟郎が「声」の現実を認められず、
いつまでも「声」と言い争っているのが、
しつこく感じる。

そうこうしているうちに、
頭の中の「声」は力を発揮するようになり、
悟郎が眠っている間に
悟郎の体を支配するようになる。

教団は離散し、
その一人である葉山晶子が悟郎のアパートにいつくようになる。
晶子は実は亡くなった教祖の娘なのだった。
悟郎は晶子を通じて、教団の教えと、
ポワという精神離脱の事実を知る。

と同時に、異変以来、
寝るたびに襲って来るも悟郎を苦しめる。
火事の中、自分の体が燃えてしまう夢だ。

その夢の謎と、
火事の真相を究明するために、
悟郎は警備会社から監視カメラの映像を取り寄せ、解析する。
火事の現場に出入りした人がいないことを証明する映像だが、
その映像は加工されたものであることが分かる。
と同時に晶子が行方知れずになる。

真相を確かめるために、
廃墟と貸した教団施設を訪れた悟郎が見たものは・・・

という、                                    
超常現象を扱ったSFサスペンス。
いかにも井上夢人らしい、と思わせる内容で、
この人の作品の特徴である、
描写は精緻を究める。

教団の施設が高い壁に囲まれたものだったり、
その中に修行をする宿舎があって
信徒たちが共同生活をしていたり、で、
オウム真理教のサティアンを思わせるが、
この作品が刊行されたのは、1992年。
オウム真理教が地下鉄サリン事件を起こし、
上九一色村の教団施設が注目されるより3年前だから、
その後の事件を予見したと言えるかもしれない。
「ポワ」というオウム真理教が用いた言葉も出て来る。

後半のある時点で、
物語の構造ががらりと変化する仕掛けがあり、
それはなかなかのものだ。
SFとミステリー、それに恋愛小説を融合したような内容で、
いつも新しいことに挑戦する井上夢人らしさがあふれている。

文庫本で683ページに渡る大作だが、
中途はすこし省略して、
展開を早くした方がいいのではないかと思われた。
だが、分かりきったことを
登場人物と共に納得していくのが
井上夢人らしいとも言えるが・・・。




トラックバックURL

トラックバック一覧とは、この記事にリンクしている関連ページの一覧です。あなたの記事をここに掲載したいときは、「記事を投稿してこのページにお知らせする」ボタンを押して記事を投稿するか(AutoPageを持っている方のみ)、記事の投稿のときに上のトラックバックURLを送信して投稿してください。
→トラックバックのより詳しい説明へ




AutoPage最新お知らせ