小説『ガバナンスの死角』  書籍関係

[書籍紹介]

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2013年に「このミステリーがすごい!」大賞を獲得した
「特命指揮官」に続く、
郷間彩香(ごうま・あやか・34歳・警部補)シリーズ第2弾

前作で渋谷の銀行立てこもり事件を担当した彩香だが、
今作は、その事件の半年後、と設定されている。
その間に、彩香は捜査第二課知能犯罪係主任を拝命し、
秋山、佐藤、鈴木、三浦という4人の部下の上に立つ者として、
どうやって班をまとめていくか腐心していた。
トレードマークだったタイトにハイヒールから、
パンツルックにスニーカーと、いでたちも変えている。

二課では課をあげて業界大手の商社、
六本木ヒルズに本社を構える亜秀商事
大型増収賄事件を追っていたが、
郷間班は新設されたばかりで加えてもらえず、
同じ亜秀商事の役員峯の
会社貸与のクレジットカード不正使用疑惑に取り組んでいた。
「事件に大きいも小さいもない」と、
峯の行動を洗ううち、
新田清一という男の名前が浮び、
亜秀商事の社員だった5年前に
同僚を誤って殺したとして2年間服役し
出所してタクシー運転手をしていることが分かってくる。

そこへ、新田が自殺したとの報が入る。
彩香は神奈川県警の佐竹警部に頼み込んで
新田の遺留品を見せてもらう。
新田の会社に出した日報と
メーターによる記録の間に齟齬があることに気づき、
新田が相手に渡さず保管していたタクシーのレシートから
謎の行動を洗い直し、
ある母娘の存在があることを探り出し、
新田がその小学生の娘の心臓手術のために
2億円を工面した事実が浮かび上がる。
その大金をどこから手に入れたのか。
5年前の同僚殺害事件に疑惑が生まれる。

一方、亜秀商事の取締役常務笠井聡は
コーポレートガバナンスという
社内統制をする部署を任されているが、
最近、社内の不穏な動きに気づいていた。
会社幹部が不正を働いているという情報が
上がってきているのだ。
そこへ、新田の件に関わって、彩香から連絡が入る・・・

というわけで、
ある会社の合併を巡る経緯、
その前後の贈収賄事件、
社内での殺人事件、
その被疑者の自殺、
謎の大金、
心臓手術と、
謎が幾重にも張りめぐらされている内容を彩香が解析していく。

前作では「電卓女」と呼ばれる彩香の本領が発揮されなかったが、
今作では、その名前に恥じない捜査をする。
特に、メーターの記録と日報の数字との食い違いを
電卓を操作して解明していく手順はあざやか。
そして、曜日を特定し、地図を解析し、
ある一定区間を走り、それを日報から除外していた事実に至り、
その区域の中にある母娘の存在に近づいていくあたりは、
なかなかの「推理小説」である。

また、コンビニのレシートの金額を分析し、
朝になると紙幣で支払っていることから、
新田が小銭貯金をしていた事実を突き止めるあたりも、
なかなかのものだ。
また、亜秀商事の裏金作りの内容も
彩香の電卓によって解明される。

「なぜだ! なぜわかった!」
と問う相手に対して、彩香がする回答がカッコいい。

「どうしてわかったかって?」
タウンページを2冊重ねたくらいの
厚みのある書類に手を叩きつけた。
ぱさりと落ちた髪をかき上げ、
上目遣いで峯を睨む。
そして僅かに微笑んだ。
「足し算よ!」

描写は捜査2課の彩香周辺と、
神奈川県警の佐竹と
亜秀商事の笠井との
3点を交互に描いていくが、
亜秀商事の部分がやたらと
リアリティに欠けるのは何故なのだろうか。

やがて、亜秀商事のコンピューターシステムの中に
バッグドアという秘密の侵入口があることが判明し、
パスワードを解明して、入ってみると、
そこに犯罪の証拠が隠されていることに気づく。

というわけで、
捜査2課の主任としての彩香の手腕が発揮される本書は
なかなか第2作としては好調である。
ただ、部下のうち、
秋山というヤクザ関係にも通じている
なまけもの刑事のキャラが際立っている分、
佐藤、鈴木、三浦という3人のキャラ立ちが
十分でない点、不満が残る。
これは、第3作、第4作への布石だろうか。

彩香の妊娠騒動と恋愛騒動もあって、
読者を飽きさせない工夫もなされている。

吉田刑事部長のセリフ。

「物差しが正しいと思い込むと、
他のすべてが間違ってた見え方をしてしまうことがあります」
「何かを測ろうとする時は、
まず測ろうとする物差し自体が
正しいかを確かめる必要がある、ということです。
死角というのは、
その思い込みから生まれるのかもしれませんから」

高田課長のセリフ。

「芋づるは、途中で切ってはいけませんよ。
芋づるはつながっていてこそです。
力任せに引っ張れば、
大きな芋を地中に残したまま
切れてしまいます。
慎重に、いいですね」

傷心の笠井に対して言う彩香の言葉。

「見えない悪が焦って尻尾を出したのは、
この会社に、健全な体制をつくり、
不正を許さないという土壌があったからです。
小さいけれど、芽吹き始めていました。
一つ一つは小さくとも、
やがてガバナンスの死角さえも覆う緑が。
これは、あなたのガバナンスがあってこそだと思っています」
「ほんの少し、草むらを揺らしてくれたから
私たちは気付くことができた。
あなたのつくったコーポレートガバナンスは、
決して間違っていなかったということです。
笠井さんの目指していた自浄組織は、
しっかりと根を張っていたんですよ」

ただ、「ガバナンスの死角」という題名は、
事件の本質を示しているとは言いがたく、
分かりにくいのが難。

着任前の不祥事の責任を取って左遷される
吉田刑事部長のセリフ。

「上に立つ者は、
そこにいるだけで責任を負う。
逃れられない、重力のようなものです。
こうい責任の取り方をしないと納得しない人たちがいて、
しかし、それと引き換えに
組織がやり直すチャンスをもらえるなら、
喜んで責任を取りますよ」

巻末に、事件の関係者の「その後」が
順に示されるが、
これはお楽しみの趣向。
特に吉田と彩香の関わりの部分が笑わせる。

大賞受賞もダテではない証明をしたこのシリーズ。
コミカルな感じも増し、
今後も期待できそうだ。

前作「特命指揮官」の感想ブログは、↓をクリック。

http://star.ap.teacup.com/applet/shokuniku/20161212/archive





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