小説『神様からひと言』  書籍関係

[書籍紹介]

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先の直木賞「海の見える理髪店」で受賞した
萩原浩のサラリーマン小説。(2002年の作品)

大手広告代理店を辞め、
珠川食品に再就職した佐倉凉平は、
入社早々、販売会議でトラブルを起こし、
リストラ要員収容所として恐れられている
お客様相談室へ異動となった。
自己保身に汲々としている室長、
仕事よりもオートレースに情熱を燃やす、いい加減男、
一日中パソコンを眺めているオタク、
ひたすら人生訓を書き重ねている心を病んだ男など、
腐った環境の中に放り込まれ、
毎日、商品へのクレーム電話の対応に追われる凉平は、
自身も同棲した女に逃げられていて、
鬱々とした日を重ねていた・・・。

クレーム電話への対応が面白おかしく描かれるが、
現実はこんなヘンチクリンなものではないだろう、
と感じた時点で、
ああ、この話はおとぎ話なんだ、と気づく。
ならば、あとは、お客様相談室から見える会社の実態、
その改善を目指す凉平の努力も、
作り話としては面白く読める。

行方をくらました創業者、
その妾で株式の20パーセントを握る「明石町」の存在も面白い。
先輩社員で頼りないんだか
頼りがいがあるんだか分からない篠崎も興味深い。

その篠崎の凉平への話。

「本当に馬鹿だよ。
みんなそう思ってる。
だけど変えられない。
みんな、怖いんだよ。
いままで手に入れたものが消えちまうのがさ」
「手の中に握ってるものが、
たいしたもんじゃないことを知ってるのに、
手のひらを開くのが怖いんだ。
全部こぼれ出ちまうのが。
本当にたいしたもんじゃなかった
ってことを知っちゃうのをさ」

提携先のラーメン屋におもむく時の凉平の述懐。

正直に言えば凉平も、
やたら偉そうな食い物屋というのは好きになれない。
おとなしくあいづちを打つことがわかっている相手に向けて威張るヤツや、
自分勝手な持論をふりかざすヤツは、
どんな人間でも嫌いだ。
愛想が悪いだけなら許せるが、
人から金をとって飯を食わせて、
なおかつ怒鳴りつけるような店は、
どんなに味が良くたって
二度と行かない。
うまいもんもまずくなる。
広告代理店時代、
接待で行った先の寿司屋の親爺が
あれこれ蘊蓄を語り、
人の寿司の食い方にいちいち文句をつけ、
おまかせをいいことに高いネタばかり握り、
経費が心配になってきてカッパ巻きを頼んだ凉平に、
お前みたいなのがうちに来るのは百年早い、
などとふんぞり返りはじめた時には、
大トロを店のダルマの眉毛に張りつけて、
席を立ってやった。

篠崎が、会社をおでん鍋にたとえる話も面白い。

「ほら、狭いとこでぐつぐつぐつぐつ煮詰まってさ、
部長だ課長だ役員だなんて言ったって、
しょせん鍋の中で昆布とちくわが、
どっちが偉いかなんて言い合ってるようなもんだ。
考えてみ、
このおでん屋じゃ牛スジが一番高くて偉そうだけど、
他の食い物屋へ行けば
使っちゃもらえない。
こんにゃくはここじゃ安物だけど、
味噌田楽の店に行けば
堂々のエリートだよ」
「会社の序列なんて、
たいした順番じゃないんだよ。
一歩外に出たら、ころりと変わっちまうかもしれない。
でも、子供の時から一生懸命に競争して、
ようやく手に入れた順番だからね、
そこからこぼれ落ちたくないんだな」

創業者と共に苦労したことばかり自慢する古参の専務のことを
「明石町」がばっさり言う。

「あの子は駄目だよ。
すぐ苦労話をしたがるだろ。
そういうのにかぎって、
たいした苦労はしていないんだよ」

凉平が行き悩んだ時、
夜の新宿中央公園で出会う、
ホームレス
(ジョン・レノンに似た風貌から
凉平は密かに「ジョン」と呼んでいる)
のくれる一言が凉平の行く道を示し、
それが題名の由来。

この作者の持ち味で、
全体的に軽く、テレビドラマの印象。
と思ったら、
2006年12月24日に、
WOWOWでドラマ化されていた。
主役の凉平は伊藤淳史。
はまり役だが・・・。




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