小説『百年法』  書籍関係

[書籍紹介]

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山田宗樹による
興味津々の衝撃と戦慄の近未来小説

1941年、太平洋戦争が勃発し、
1945年、6発の原爆を打ち込まれて戦争に敗れ、
その後復興した、「もう一つの日本」の物語。
敗戦後、アメリカの占領下に置かれ、
政体は共和国に移行し、大統領制になっている。

その頃、HAVIが実用化され、日本にも導入された。
HAVIとは、ヒト不老化ウィルスを接種することで、
老化を止めることができる制度のこと。
20歳なら20歳のままで、
30歳で接種すれば30歳のままで歳を重ねる。
(事故や病気で死ぬことはあるが、
老衰=寿命で死ぬことはない)

アメリカの鳥類学者が
絶滅危惧種にあたるチョウバトの群の中に
不老化した個体が存在することを発見。
それがウィルスによるものらしいと分かり、
ウィルスの結晶化に成功。
その後、変異させたウィルスが
人間にも感染力を持つことが判明。
ヒトへの接種技術が開発され、接種が始まった。

しかし、人が永遠に生き続ければ、
長期的に問題が生ずることから、
アメリカ議会は、
接種の開始に合わせて「生存制限法」を成立させた。

これは、接種後百年を経過した時点で、生存権が奪われることで、
国家による強制死亡を意味した。
これが通称「百年法」である。

戦後、日本にもHAVIが導入された時も、
同時に百年法を制定した。

不老化処置を受けた国民は
処置後百年を以て
生存権をはじめとする基本的人権は
これを全て放棄しなければならない


具体的には、
接種から百年を迎えると、
強制的に安楽死させられる。

そういう、戦慄の日本の未来図の物語だ。

物語の始まりは2048年の日本。
いよいよ百年法が実施される前年。
ちなみに韓国では生存可能時間を40年とし、
国家への貢献の度合いによって可能期間を延長し、
国家発展につなげた。
中国はHAVIを受けられるのは、
一部特権階級に限定した。
日本の百年は長い、という議論もあったが、
アメリカにならった形だ。

ところが、実際に施行時期が近づいた途端、
動揺する適用者たちの不安に
政府はおじけづいて、凍結を考え出す。
そして、責任を回避して国民投票にかけることになり、
その結果、百年法は凍結されてしまう。

国民投票を巡って、
内務省生存制限法特別準備室長・遊佐章仁らは、
凍結されれば日本の崩壊につながるとして反対する。
内務省次官の笹原拓三は自殺してまで国民に訴えるが、
投票結果は凍結だった。

そして、話は一挙に28年後の2076年に飛ぶ。
その間に、新時代党党首の牛島が新大統領に就任して以来、
憲法改正の国民投票が行われ、
牛島は独裁者の立場を確立し、
百年法の凍結を解除し、
再び、HAVI処置後百年たった者
(実際は5年延びて105年)は、
生命を奪われるようになった。
しかし、大統領特例法により、
大統領の指名した者は適用を逃れることができ、
国会議員をはじめとし、官僚たちも
その生殺与奪を大統領が握り、
牛島大統領、遊佐首相による長期政権が確立した。

しかし、百年法に違反する者たちが続出する。
期限が来ても、出頭せず、姿を消すのだ。
その人物たちは「拒否者」と呼ばれ、
山奥にコミュニティを作って潜伏する。
ただ、その頃はIDカードが無いと
何もすることが出来ず、
100年経過した者はIDが停止されるため、
買い物一つできず、
協力者が必要になる。

話は牛島大統領と遊佐首相の動向、
HAVI未処理者の仁科ケン
などを中心に展開し、
伝説のテロリスト阿那谷童仁(あなたどうじん)もからむ。

HAVIを拒絶して、普通の老いと死を選択する人も出て来る。
逆に「永遠の命」を与えられたために生ずる
精神的行き詰まりも描写される。

やがて、HAVIに付随して発生する
ある事態が明らかになり、
物語は曲がり角を迎える。

不老不死を与えられたら、人間はどうなるか、
死は何のためにあるのか、
そういう根源的な問いも浴びせられる。

「人類は、HAVIなどという技術を持つべきではなかった。
永遠の若さが得られると知り、
深く考えることもなく、飛びついた。
だが我々はその結果、
とんでもない道に入り込んでしまったのかもしれない」


官僚の一人が語る国家観は、なるほどと思わせる。

国力がいかに衰退しても、
電気・通信・水道・道路・鉄道網のメンテナンスだけは
怠ってはならない。
ライフラインと物流は、国を動かす両輪である。
この二つが機能するかぎり、国が死ぬことはない。
宗教や思想、主義、哲学、生き甲斐、人生観、価値観、
そういった精神的なものは、国民一人一人に任せておけばよい。
国政を預かる者の責務は、
国民が人間らしい生活を営むための
物理的基盤を整えることに尽きる。
なぜなら、それができるのは国家だけだからだ。
最終的にその目的が達成されるのであれば、
そのプロセスにおいて、
どのような悪評も恐れてはならない。


事態が一段落した時、
最後の独裁官が述べる演説は、
胸が熱くなった。
国を憂い、国民を愛するその真情に打たれたのだ。

あなた方にお願いする。
自虐的で冷笑的な言葉に酔う前に、
その足で立ち上がってほしい。
虚無主義を気取る余裕があるなら、
一歩でも前に踏み出してほしい。
その頭脳を駆使して、
新たな地平を切り拓いてほしい。
我々の眼前には、
果てしない空白のフロンティアが広がっている。
あなたにもできることは見つけられるはずだ。
我が国は多くのものを失ったが、
たった一つ、若さだけは取りもどせたのだから。


今の日本にも通じる話である。

文庫本で上下2巻、
全部で930ページになる大著。
しかし、引きつけられ、読み進み、
高揚感に至る、
久しぶりの熱い読書体験だった。





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