小説『ひょうたん』と『夜鳴きめし屋』  書籍関係

[書籍紹介]

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本所五間掘にある古道具屋・鳳来堂(ほうらいどう)のお話。
由緒のある高級品を扱うような店ではなく、
文字通り中古の鍋釜、鉄瓶、漆器、花瓶、
屏風、箪笥、長持ち、布団等を扱う。
銭のない若夫婦が所帯を持つ時や、
田舎から江戸に移り住んでできた人などが
足りない家具をあつらえに来る店で、
音松とお鈴の夫婦がなんとか食べていけるくらいの商いだ。
お鈴の母親は「ガラクタ屋」と呼んでいる。
息子の長五郎は、音松の兄の質屋に奉公に出ており、
親父に似ずしっかりしている。

音松は無類のお人良しで、
高価な茶器を浪人者から安く買い取り、
それが盗品だと分かると、
被害にあった家に返しに行くという善人ぶり。
武士の魂の刀を売りに来た浪人に、
いくら商売でもあこぎな真似はしたくないと、
竹光をかたに一両用立てたりする。
その浪人は仕官がかない、
出発の時、金を持って感謝に訪れる。
音松の留守中に、かんざしを売りに来た子供に
お鈴が金を騙し取られた時も、
お鈴を叱るどころか、
「お前ェが悪事を働いた訳でもなし、
その餓鬼達、お前ェからせしめた銭で
今夜は晩飯にありつくことだろうよ。
施しをしたと思いねェ」
とさとす始末。

6篇の連作短編から成り、
店に持ち込まれた
綾部の茶碗、ひょうたん、そぼろ助広、
ぴいどろ玉簪、招き猫、貧乏徳利

が表題になっている。

それら商売の話に、
音松の店にたむろす交友関係を描く。
酒屋「山城屋」の房吉、
料理茶屋「かまくら」を営む勘助、
駕籠かきの徳次たち
幼馴染みの4人が顔を揃え、
お鈴の手料理で酒を飲み、話の花を咲かせている。
その交わりが麗しい。
江戸の庶民の生活の喜びとは
こんなものだったのではないか。
ただ、勘助は死んでしまう。

最後に、次の描写でしめくくる。

五間堀には鳳来堂という古道具屋がある。
主は定式幕で拵えた半纏を年中着ている。
女房は店番の合間に外に七厘を出し、
魚を焼いたり、煮物の鍋を掛けている。
自分刻にはうまそうな匂いが辺りに漂い、
通り過ぎる人々の腹の虫を鳴かせる。
この店には年中、友人達が集い、
なかよく酒を酌み交わしている様子でもある。
夜も更けて通りが静かになると
笑い声が外まで聞こえる。
月に一度はそれが啜り泣きに変わることもある。
何んでもその日は友人の月命日らしい。
泣いたり、笑ったり。
太平楽なものだと近所は噂する。
音松と友人達は、そんな噂を意に介する様子もない。
相変わらず泣いたり、笑ったりを繰り返していた。
泣いたり、笑ったり。



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「ひょうたん」の続編に当たり、
主人公は音松の息子の代に移っている。

店は古道具屋から居酒屋(小説内では「居酒見世」と表記)に
変わっているが、
「鳳来堂」という名前は引き継がれている。
音松が亡くなり、
質屋の手代だった息子の長五郎が引き継いだが、
道具屋としての才がないと分かった時、
店を閉め、かわりに居酒屋を始めた。
母親の鈴の料理の腕を生かそうと思ったのだ。
それから5年、母親が亡くなり、
その間に身につけた料理の腕で、何とか店をやっている。

店の名前がそのままなのは、
父親の店の屋号でを引き継ぐことで、
父親と繋がっている気がするのだ。

居酒屋と言っても、実質一膳飯屋で、
酒を出すことは出すが、
むしろ、白いめしに干物、漬物、
おひたしと味噌汁などで親しまれている。
変わっているのは、その営業時間で、
暮六つ(午後6時頃)に店を開け、
そのまま、朝まで営業。
客は夜の商売をしている者で、
芸者や他の居酒屋の酌婦や夜鷹や、
やっちゃ場(青物市場)でセリをした後の人たちだ。
特に凝った料理を出すわけではないが、
普通の料理が好まれている。

「ひょうたん」の時の関係者は世代交代し、
父親の友人で酒屋「山城屋」を営む房吉と信吉の親子。
居酒屋を始めたのは房吉の勧めだ。
おさななじみの料理茶屋「かまくら」の友吉、
近所の武家屋敷の家臣の浦田各右衛門、
左官の梅次、鳶の宇吉、芸者の駒奴、夜鷹のおしの、
店の半分を倉庫に貸している
味噌屋「信州屋」の若旦那、幸吉。
深川の鳶、丈助などなど。
長五郎は、店の味が落ちたという噂で悩む友吉や
花魁に恋をしてしまい、
見受けしようかと悩む浦田らの相談に応じる。

そして、駒奴の同輩のみさ吉。
実はみさ吉は、長五郎と幼馴染みで、
好き合った仲だった。
しかし、みさ吉が年寄りの隠居の妾になって引き剥がされた。
その間際、一度だけ長五郎はみさ吉と枕を交わしたことがある。
最近、隠居が亡くなり、
みさ吉は芸妓屋の「和泉屋」に帰って来た。
一人の子供を連れて。
隠居は種がなかったというし、
年廻りから、もしかして、
自分の息子ではないかと長五郎は疑う。
その息子惣吉が友達の長松と一緒に
鳳来堂にやって来るようになった。
長五郎は、みさ吉に、
自分の子供かと聞きたいが、その勇気が出ない。
話は惣吉とみさ吉、長五郎の係わりを中心に展開するが・・・

宇江佐真理らしい、江戸の庶民の話。
当時の町人の暮らしを次のように描写する。

普通の人間は夜明けとともに起きて、
朝めしを食べて仕事に行き、
夕方まで働く。
家に戻ったら湯屋に行って一日の汗を流し、
身も心もさっぱりしたところで、
銚子一本ほどの酒を飲み、
晩めしを食べるのだ。
女房子供とその日のでき事を語り合い、
灯り油を節約して早めに床に就く。
それがまっとうな暮らしだと長五郎は考えている。


だから、丈吉は、こう言う。

「よそが店仕舞いしようとする頃に暖簾を掛けて、
それで朝まで見世をやってるってんだから、
大将も相当変わっているね」


それにしても、当時の町民が
毎日風呂に入っていたのは驚かされる。
日本人の清潔好きは、江戸時代からのものだったのだ。

夜の食堂は、後の「深夜食堂」みたいだな、と思った。
                                 




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