短編集『堪忍箱』  書籍関係

[書籍紹介]

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宮部みゆきの時代小説短編集。
1996年10月発刊。
堪忍箱、かどわかし、敵(かたき)持ち、十六夜髑髏
お墓の下まで、謀りごと、てんびんばかり、砂村新田

の8篇を収録。
どれも江戸の市井の人々を描くが、
普通の人が内面におさめた秘密がモチーフになっている。

たとえば「お墓の下まで」
ゆきと藤太郎の兄妹は、
母に捨てられて、長屋の差配人の市兵衛夫妻に育てられた。
しかし、捨てられた、というのは嘘で、
母親は「必ず迎えに行くから」と約束して、
市兵衛の月番の時、自身番に兄妹を押しつけたのだ。
その母親が15年もたって、迎えに来た。
しかし、ゆきは市兵衛にそのことを言えない。
親身になって育ててくれた
市兵衛夫婦に対する裏切りになるからだ。
その秘密を、やはり捨て子の姉のおのぶに告げると、
「あら、あんたたちもそうだったの」と言われる。
実はおのぶも捨てられたというのは嘘で、
ひどい親が泥酔したまま火事になるのを放置したのだ。
そして、市兵衛にも秘密があった。
捨て子を引き取って育て上げるという生活を始めたきっかけは、
市兵衛の亡くなった妻のお滝のある行動があった。
こうして、市兵衛、おのぶ、ゆき、藤太郎は
それぞれの秘密を抱えて生きていく・・・

「謀りごと」は、
丸源長屋の差配人黒兵衛が、
店子の浪人者の留守中に、部屋に上がり込んで、
心臓病で死ぬ。
驚き怪しむ店子たち。
しかし、それぞれが口にする黒兵衛像が
全く異なる。

お勝は憮然とした。
つい昨日まで、差配さんはひとりきりだった。
生きているうちは。
けれど、死んだらいきなり、
四人にも五人にも増えたみたいだ。
いろいろな差配さんの顔がある。


それぞれが抱えた黒兵衛にまつわる秘密の数々。

「てんぴんばかり」
身寄りがなく、姉妹のように一緒に暮らしていたお美代が、
玉の輿で大黒屋の主人の後添えに入って、
取り残されたお吉の複雑な心境。
そのお美代が長屋の差配人の家に来ていると聞いたお吉は、
心の奥底で、お美代が追い出されたのではないかと期待して、
自己嫌悪に陥る。
差配人から聞いたお美代の相談事を聞いて、
お吉は、告げ口しようかと考えて、また自己嫌悪に陥る。
更に、差配人を通じて知ったお美代の心境に、
お吉はまた複雑な想いに囚われる。

かりそめの姉妹の二人の心の奥底の秘密を描いて、
胸に迫る話。

「砂村新田」
貧乏な上に、近頃は父親の眼病が進んで、
悲惨な境遇になったお春。
奉公先のおつかいで砂村新田に向かった途中、
一人の男に出会う。
話しぶりからすると、
その男はお春の母親の知り合いのようなのだ。
行き会ったおきんおばさんは、
その男の服装から素性が悪い男だと見抜く。
しかし、ある日、その男が誰だったのか、
なぜお春に声をかけたのかが知れて、
お春は胸に迫る想いに包まれる。

という具合に、
とりたてて大きな事件が起こるわけではないが、
全くの庶民の中に内包するささやかな秘密の数々
しかも、人間の心の深いところに根ざす
暗い影
少し読んだだけで、読者の心を掴んで離さない、
手練の作者の話に身をゆだねる心地よさ。

「十六夜髑髏」では、
やっかい払いをされたふきに対して、
奉公先の女中が言う言葉、

「あんたはまだ子供なんだね。
だけど、これからはそれじゃ駄目だ。
よおく覚えておおき。
世間様の風には、東も南もないんだ。
ぜんぶ北風なんだからね」


などと、心に残る言葉もある。

                                      




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