短編集『幻色江戸ごよみ』  書籍関係

[書籍紹介]

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宮部みゆきデビュー7年目、1994年の初期作品。
今まで読む機会がなかったのは、
題名に魅力を感じなかったせいではないだろうか。

鬼子母火、紅の玉、春花秋燈、器量のぞみ、
庄助の夜着、まひごのしるべ、だるま猫、小袖の手、
首吊り御本尊、神無月、侘助の花、紙吹雪

の12篇を収録。
どれも江戸庶民の哀歓を描いている。
うち、7篇は、宮部みゆきらしい怪異ものである。

いくつか紹介すると、

「紅の玉」
贅沢禁止令が出たために、
飾り職人の佐吉は、安い仕事ばかりで困っていた。
女房のお美代は病弱で、
高価な薬を買ってやることもでない。
そんな時、高価なかんざしの注文が舞い込んだ。
注文したのは武士で、
家伝の紅珊瑚をかんざしに細工してもらいたいという。
しかし、贅沢禁止令の中、そんな物を作れば、おとがめを受ける。
だが、娘の嫁入りのためで、
表には出さないからと安心させてくれた。
しかも十両の前金付き。
佐吉は心をこめて作り、収める。
しかし、ある時、そのかんざしの使い道が明らかになる。

貧乏な職人とその妻の愛情物語と、
武士と庶民の大義の食い違いを描いて哀切だ。

「器量のぞみ」
自分の容貌にコンプレックスを持っていた娘・お信に、
嫁入り話が舞い込む。
相手は下駄屋の息子・繁太郎で、美男。
その息子が、お信の姿を見て一目惚れしたのだという。
いやがらせだとお信は怒り狂うが、
繁太郎は直接会って、本気を告げる。
結局嫁入りしたのだが、
繁太郎の両親もお信を美女だと思っているらしい。
繁太郎の二人の美人の妹も同様で、
むしろ、自分たちのことを醜女だと思って、気がふさいでいる。
なにかの祟りではないかと思ったお信の前に、
その祟った本人が現れる。
その祟りを解くには、
庭に石灯籠を立てて、
その下に磨いた鏡を埋めていれればいいという。
しかし、それをして、祟りが解けたら、
自分が醜女であることも判明して、
家から追い出されるのではないか、とお信は心配する。
しかし、妹たちのことを考えて、実行してみると・・・

美醜というものについて踏み込んだ一篇。
これは面白い。

「だるま猫」
火消しになろうとした文次は、しかし、火事現場で臆病風に吹かれ、
火消しの組から引導を渡される。
その結果、一膳飯屋の下働きをしているが、
ある時、その親父の角蔵が、昔火消しで、
文次と同じに臆病だったと知る。
角蔵は、押し入れから古い猫頭巾を取り出す。
火消しが現場でかぶる頭巾だ。
按摩が持って来たという。
その按摩も元火消しだった。
これをかぶった途端、恐怖が消え、
火消しの現場で活躍できたのだという。
ただ、引き換えに、大切なものを失う。
文次はその頭巾「だるま猫」をかぶって現場に出る。
確かに恐怖が消え、勇敢に活躍できた。
しかし、その結果・・・

このオチは何か別なもので読んだ気がする。

「首吊りご本尊」
丁稚奉公の捨松が、奉公先の上総屋から逃げ帰った時、
父母は歓迎してくれなかった。
捨松が年季をまっとうしないと、
もらったお金を返さないといけないというのだ。
もう帰る家はない、と落胆していると、
大旦那から呼び出しがかかる。
大旦那が見せてくれたものは、
首吊りして笑っている男の絵で、
「これは上総屋の家宝だ」という。
大旦那が話してくれたのは、
昔大旦那がつとめた家の番頭の話だった・・・

丁稚奉公の辛さと、
それを見守る大旦那の愛情に胸打たれる作品。

「神無月」
居酒屋の片隅で、岡っ引きと店の親父が話をしている。
年に一度、神無月にだけ強盗を働く下手人がいるというのだ。
岡っ引きは、いろいろな情報をまとめて、その事実を知った。
なぜ、そんなことが起こるのか。

その話と並行して、その強盗の話が交互に進む。
強盗はなぜ神無月に限り、犯行をするのか、
その事情が次第に明らかになってくる。
それは哀切極まるものだった。
寝たきりの娘を養う生活。
神様が留守をしていたから、こんな体に生まれてしまったという
神を呪う気持ち。

やがて、岡っ引きは、店主の一言から、
下手人の目星をつける・・・

追う者追われる者の宿命を描いて、胸に残る。
そして、出雲に出掛けて神様が留守になるという
残酷さが胸を打つ。

「紙吹雪」
借金取りに追われて心中した母子。
しかし、娘が一人生き残ってしまった。
その娘は、母の死の原因を作った高利貸しの
住み込み女中になり、
復讐を果たす。
題名の意味は、最後に明らかになる。

どの短編も、
貧困というどうしようもない現実を受け入れる
庶民のあがきが描かれる。
そして、どの短編も、
最初の1ページで読者の心を掴み、
最後まで一気に読ませ、
深い余韻を与えてくれる。
宮部みゆきは、長編もすごいが、
短編の名手でもある。
神が与えた、物書きの才能
こればかりは、天与のものとしか思えない短編集だった。





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