ノンフィクション『ノマド』  書籍関係

[書籍紹介]

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アカデミー賞作品賞を受賞した「ノマドランド」の原作本
副題に「漂流する高齢労働者たち」と書かれており、
主題が明確になっている。

「ノマド」とは、元々遊牧民、放浪者という意味だが、
ここでは、家を無くし、車上生活を余儀なくされ、
常時路上を移動しながら生活する人々
を意味する。
ジャーナリストのジェシカ・ブルーダー↓が、

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ノマドたちと生活を共にしながら書いた本。
2017年発刊。

ノマドの発生の原因は、
基本的には賃金の上昇率と住居費の上昇率が
乖離してしまい、家賃が払えなくなってしまったことだが、
事件的には、リーマンショックで
低所得者ローンが支払えなくなり、
差し押さえられて、家を追い出されたり、
貯金や年金(従業員本人が拠出する年金は株価暴落で破綻)
を失ったことが原因である。
映画では、ノマド生活を
自ら求めたような印象もあるが、
その基調には、こういった原因があったのだ。

ノマドたちは、自分たちのことを「ワーキャンパー」と呼ぶ。
ワーキャンパーとは、短期の雇用を求めて
アメリカじゅうを車で移動する、季節労働者だ。
年齢その他で継続的雇用を確保できない人々は、
季節がらみで起こる雇用をあてにして移動する。
一つはクリスマスシーズンのアマゾン、
一つは夏の間のキャンプの世話役、
ハンターの検問所の運営係、
ラズベリー摘み、リンゴ、ブルーベリー、ビーツの収穫・・・

アマゾンはかつては人の確保に大変だったが、
リーマンショック以来、大量の応募者が出ているという。
そのアマゾンでの仕事は、
広い作業所を、商品を求めて歩くため、
一日に20キロ以上歩く過酷な仕事だという。
棚に手を伸ばしたり、かがんだりで、
体を痛めるものが続出する。
アマゾンにとって高齢者を雇用するメリットは、
高齢者には高い職業倫理があり、
それまでの仕事の経験を持ち込んでくれることだという。
その根底には「高齢アメリカ人の貧困化」があるという。

65歳以上の高齢アメリカ人の大半にとって、
公的年金は最大にして唯一の収入源だが、
その年金額は驚くほど少ない。
従って、定年退職者の多くは
何らかの労働収入なしには生き延びられない。
この現象を「定年の消滅」と呼んでいるという。

ノマドになった中年男性の悲哀。

それまでの生き方に特段の誇りはなかったが、
40歳で箱型トラックに移り住んだとき、
わずかに残った自尊心は
最後のひとかけらまで消え失せた。
落ちるところまで落ちたと思った。
自分を批判的に見れば、
結婚に失敗し、
仕事こそしているものの車上生活をするまで落ちぶれた、
二児の父だ。
おれはホームレスの落伍者だ、と思った。
「毎晩のように、泣きながら眠った」
とボブは振り返る。


ノマドには前例があり、
1930年半ばの大恐慌の際、
大量の車上生活者が登場したという。

ノマドたちは孤独でいるわけではない。
ノマドたちのネットワークがあり、
年1回ほどの集会もある。
その集会に参加した一人は、こう言う。

「みんなノマドとして生活することを
何でもないことのように装っているので、
車上生活が、とても当たり前で、
なにか尊敬すべきことのように思えてくる。
自分は人生の落伍者じゃないと思える」


やはり連帯は必要なのだ。

仲間ができました。
「はみだし者」が山ほど集まった寄せ集め集団が、
私を愛情深く受け入れ、包み込んでくれたのです。
はみ出し者というのは、
敗北者や落ちこぼれという意味ではありません。
頭が良い、心優しい、勤勉な、
ただし「覚醒した」アメリカ人です。
私の仲間は一生アメリカン・ドリームうを追い続けたあげく、
アメリカン・ドリームなんて
真っ赤な嘘だという結論に至ったのです。


集会では、不用品の物々交換をするコーナーもある。
ワーキャンパーを募集するデスクもある。

車上生活者の圧倒的多数が白人である、
という指摘も、なるほどと思った。
黒人だと、すぐに通報されてしまうというのだ。
                                        
車中泊を禁止する州や市もある。
その規制をかいくぐって
車を駐車させるテクニックが多々あるという。
また、ホームレス状態を事実上違法化する法律を制定する州
も増えてきているという。
有力紙・誌も糾弾することがある。
「税収不足に悩むこのアメリカで、
ガソリン・ジプシーは他の国民より少ない税金で
社会的サービスを受けている。」
「だれが大量の放浪者の責任を負うべきか?
税金も収めずに
車版の新種のスラムをつくり、
そこかしこを不法占拠しては
短期間ずつ移動する
寄生植物のような根なし草の責任を?」


ジニ係数という指標で分かる驚きの事実。
アメリカの所得格差は先進国の中で最大で、
ロシア、中国、アルゼンチン、
内戦に疲弊したコンゴ民主共和国と同じレベルだという。

映画にも登場するリンダ・メイボブ・ウェルズも登場する。
映画の主人公ファーンは、
この本の多数の人間像を総合した
創作であることがよく分かる。
いや、この本の主人公は
リンダ・メイであると言っていいほど記述が多い。
そのリンダ・メイ、最後には砂漠に土地を買って、
そこに家を建てるという。
おおや、やはり、定住が理想か、と、
なんだかはぐらかされたような終わり方だった。

映画では、気楽に思えたノマド生活。
しかし、本書を読むと、
すさまじいアメリカの貧困に慄然とする。
これが数十年後の日本にならねばいいが。
                                        
原作者も登場する映画の特別映像は、↓をクリック。

https://youtu.be/vEmREnr44qQ

映画の紹介は、↓をクリック。

映画「ノマドランド」






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