『交通誘導員ヨレヨレ日記』  書籍関係

[書籍紹介]

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三五館シンシャの「〇〇員〇〇〇〇日記」のシリーズ

交通誘導員とは、道路での工事現場や
道路に隣接したビル工事などで、カラーコーンを並べ、
手に誘導灯を持って、
歩行者や自転車、更に車両を安全に誘導する役目の人のこと。
見るからに大変そうで、
「暑そうだな」「寒そうだな」
「排気ガスを浴びて大変だな」
「いろいろ、いやな思いをしてるんだろうな」
と心配してしまう。
まあ、仕事は何でも大変だが、
屋外で、しかも立ったままの仕事なので、
その大変さは際立つ。
その上、高齢者が多い
だから、一層同情してしまう。

という交通誘導員の日常を書いたのが、この本。
筆者の柏耕一さん↓は、当年73歳。

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正真正銘の高齢者である。
出版社勤務後、編集プロダクションを設立、編集やライター業で食べてきて、
今でもライターとの二足の草鞋、と主張する。

高齢者が多いわけは、
若者がやりたがらない仕事であることと、
高齢者でも採用してもらえるかららしい。
大手の会社では、
70歳以上の人は採用しない方針のところもあるらしいが、
慢性的に人材が不足していることと、
工事現場によっては、
何人の誘導員を揃えることが法律で義務付けられていることから、
採用条件は緩い。
日本語が話せて、立っていられる人なら、
何の資格もいらない。
(工事の種類によっては、1級又は2級資格の人を一人置く必要がある)
従って、社会的地位は低い、
と本人が言う。
                                        
警備会社からの派遣がほとんどで、
警備員の範疇だが、
全国で55万人強いる警備員の主流(約40%)だという。
交通誘導警備員の不足は深刻で、
そのため工事の中止や遅れさえ起きているという。

以下、この本を読んで得た知識。

警備業法というのがあって、
その第2条2号に、交通誘導警備とは
「人若しくは車両の雑踏する場所における
負傷等の事故の発生を警戒し、
防止する業務」
と定められているので、
交通誘導以外の業務を強制すると
(たとえば、道路の清掃とか、トイレ掃除とか)
警備業法違反に問われる。
もっとも、現場で警備業法を盾に拒否したりすると、
翌日、現場から外されるが。

また、交通整理をする権限はない。
道路使用許可を取った場所での
交通誘導とお願いだけ。
研修テキストには、こう書いてある。
「工事現場等における人や車両の誘導は
あくまでも相手の任意的協力に基づく『交通誘導』であり、
警察官や交通巡視員の行う『交通整理』とは
まったく異なることに注意しなければならない」


だから、ドライバーの過度な要求には応えることが出来ないのだが、
ドライバーはそれを知らない。
だから、無茶な叱責をする。

大体日当は9000円前後。
交通費は出る会社と出ない会社がある。
70歳以上は日当が1000円安くなる会社もある。
夜勤はプラス1000円、
2級資格を持つ者はプラス1000円。
ただ、人材確保の競合で、日当1万円を募集広告に出す会社もある。
                                        
日払いもあり、家がなければ寮もあるので、
ホームレスやマンガ喫茶に寝泊まりする人のことを診て、
柏さんは「これほど苦しい生き方を余儀なくされるなら、
警備の世界に活路を見出せるのではないのか」
といぶかる。

日当9千円で、25日勤務すれば、額面22万円強の収入だが、
疲れるため、シフトを組んで、
大体19万円ほどの収入になる。
ただ、借金その他、事情を抱えている人が多く、
ギャンブルにはまっている人も多いから、
生活は厳しいらしい。

柏さんが勤務している警備会社は小さく、
70歳以上の高齢者が8割を占めているという。
最高齢では84歳の人もいる。

1日9時間の拘束時間中に1時間の休憩が認められているが、
人員が足りない場合は、食事の時間もトイレの時間さえないこともある。

長岡大花火大会の警備の時は、
人が足りず、日当を1万6000円もらかりりもする。
しかし、仕事がきついので、再度はしたくないという。
花火大会では、花火に見とれてしまい、
叱責される警備員もいる。
                                        
柏さんは、こう書く。

自分が言うのも変だが、
この日記(この本)には
人格者はほとんど登場しない。


人格者はいるのかもしれないが、
                                        
交通誘導員という仕事の性格上、
仲間は深い人間関係を築くことはまずない。
それに現場は日々違うところで、相方も変わる。
仕事を終えて連れだって飲みに行くこともない。
みな仕事が終れば「お疲れさま」と挨拶して
サッサと帰ってしまう。
要するに仲間に人格者かどうか知るまでに至らない。


そういう柏さんも、
妻を騙してお金を巻き上げ、
ギャンブルに投じるような人だから、
人格者ではないようだ。
(私は、ギャンブルをする人は、ダメだという決めつけがある)
奥さんからはたびたび
「あなたは大学を出ているのに警備員なんかして恥ずかしくないのか」とか
「70歳過ぎてやる仕事じゃない。みっともない」
叱責される。

そして、

逆に意地悪な人、こうるさい人、威張る人などは
たった1回の現場でも
強く印象に残る。
よってこの日記にはそんな人物がしばしば登場することになる。
私も警備の仕事をして
世間にはこんなに価値観や性格の違う人がいるのかと驚かされた。


というわけで、この日記は、遭遇した常識敗れの人々の描写に終始する。

警備員の喜びについての記述は面白い。

「警備員の喜びって何ですかね」。
すると紺野は眉ひとつ動かすこともなく
「そんなものはないよ」と答えた。
私は「そうかもしれませんが、
早上がりは嬉しいし、
ラクな現場はなんとなく楽しくないですか」と
いささか的外れ気味の質問を重ねてみた。
「柏さんはそれが警備員の喜びと言うわけ?
それは違うんじゃない。
この現場の監督や棟梁なら
家を一軒作り上げたときには、
無から有を生じたわけだから喜びを実感すると思うよ。
しかし、われわれには物を作り出す喜びはないからね。
警備員は1日働けば足だって棒のようになるし、
寒さ暑さに直撃されるし、
喜びより疲れだけが残る仕事だよ。
ボクは警備業は忍耐業だと思っているけど」


本人がそういう認識だから、「喜び」があるはずがない。

この本、派遣される現場での当たり外れが沢山書かれている。
総じての感想は、次のとおり。

さまざまな現場で仕事をしてきて思うのは
人柄のいい親方の下には粗暴な作業員はいないし、
乱暴な言動をする親方の下には
同じような作業員が多いことだ。

                         
見下した態度を取られることが一番傷つくが、
そういう態度でのぞむ作業員も多い。
一方、通行人の「ご苦労さま」「ありがとうございます」という言葉に
癒されることも多い。

この本を読んで、交通誘導員さんには、
優しくしましょう。

もくじは、↓。

まえがき─ 最底辺の職業の実態

第1章 交通誘導員の多難な日常
    トイレ掃除:警備業法違反を隊員に強いる隊長の弱味
    通行止:交通誘導警備員はお地蔵さまではない
    猛女:子連れ女性のたくましきパワー
    お金の話:警備員のリアルなフトコロ事情
    意気地なし:片交ができないと現場で尻込みする大男
    人は嘘をつく:妻に責められる私の、身勝手な弁解
    最高齢警備員:エロ爺さんは素敵な人格者

第2章 交通誘導員の喜びと悲しみ、時々怒り
    黄金譚:糞尿にまつわる滑稽きわまりない顛末
    大失敗:サイン拒否した親方の言い分
    花火大会:長岡大花火大会警備2 泊3 日道中記
    プライド:大学出て警備員」は恥ずかしいのか?
    陽気な異邦人:外国人労働者たちとの交流
    パチンコ屋警備:監視カメラもあって気が抜けない
    職場放棄:我慢の限界を超えたとき
    承認欲求:警備員の喜びってなんですか?
    夜勤明けの出来事:どん底での犯罪の誘惑

第3章 どうしても好きになれない人
    誘導ミス:交通誘導警備員が一番恐れること
    たかが挨拶:なぜ挨拶をしない人が嫌われるのか
    駐車場警備:ドライバーの思いもよらぬ抗議に泣かされる
    好きになれなかった人:「いじめ」か「愛のムチ」か
    警備員は歯が悪い?:歯医者へ行く時間がないか金がないか
    通報される人:こんな行動は警備員失格!

第4章 できる警備員、できない警備員
    首振り人形:2 秒間隔で首を左右に振り続ければ警備員合格?
    コミュニケーション能力:警備員に外国人が少ないのはなぜ?
    できない警備員:ここにも能力格差は存在する
    家宅捜索:税金未払いで税務署員に部屋を捜索される
    枝道地獄:警備能力を超えた現場

長いあとがき                     
                                        好評らしく、今度マンガ版も出た。
                                     
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