小説『半沢直樹 アルカカンと道化師』  書籍関係

[書籍紹介]

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池井戸潤による半沢直樹シリーズの第5作目。
時系列的には
シリーズ第1作『オレたちバブル入行組』の前日譚にあたる。

東京本部の審査部調査役だった半沢直樹は、
業務統括部長の宝田信介と対立し、
人事部の計らいで、ほとぼりが冷めるまでの間、
大阪西支店の融資課長として赴任していた頃の話。

半沢は支店長の浅野匡経由で
大阪営業本部の伴野篤からオファーを掛け、
老舗美術出版社・仙波工藝社の買収案件の交渉の場に同行する。
業績不振の仙波工藝社の足元を見たような
伴野の失礼な申し出に仙波社長は買収話を拒否する。

後日、半沢は同期の渡真利忍から、
仙波工藝社の買収先は、
新進IT企業・ジャッカルであると聞く。
ジャッカルの社長・田沼時矢が
世界的に有名な絵画コレクターであったことから、
美術に関連した買収話であるとも思われたが、
負債を抱える美術出版社を
破格な高額で買収しようとする意図が掴めなかった。

半沢は、資金繰りに苦しむ仙波工藝社を救済すべく
二億円融資の稟議を作成し承認を待つ。
しかし、大阪営業本部からは、
仙波工藝社が5年前にある会社の
計画倒産に加担した疑惑があることを理由に
稟議が突き返される。

その裏には、ジャッカルの社長・田沼が熱望する
仙波工藝社の買収話を、
何としてでも成立させようとする
大阪営業本部次長の和泉康二と
彼の同期入行の仲間・宝田、
大学の後輩にあたる大阪西支店長の浅野たちが
結託して圧力をかけて稟議を突き返させ、
資金繰りに困った仙波工藝社が
買収話に応じるように仕向ける陰謀があった。
M&Aを推進する頭取の意向もあって、
浅野は取引を成立させ、ポイント獲得を目論んでいた。

半沢たちは仙波工藝社に赴き、
融資の拒絶理由である5年前の計画倒産への
関与疑惑を仙波社長に確認するが、
その中で、計画倒産の張本人である仙波の伯父が、
仙波工藝社のビルの中に
「宝物」が内包していると示唆していたことが分かる。

それは、仙波工藝社のビルに昔勤めていた
今は亡きモダンアート界の寵児・仁科譲の
代表的なモチーフ「アルルカンと道化師」で、
仁科との親友関係の不遇の画家・佐伯陽彦にも関係するものだった。
ジャッカルの社長・田沼が買収に固執する理由は、
その「アルルカンと道化師」の絵が
関わっているのではないかと半沢は推理するが・・・

アルカカンとは、道化の一種。
アンドレ・ドランの「アルカカンとピエロ」が↓。

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左側の人物がアルカカン。

テレビシリーズの「半沢直樹」を観ていた視聴者は、
その続き、と思って読むと戸惑うだろう。
なにしろ、はるか前の話、
おなじみの人物は親友で情報通の渡真利忍(とまりしのぶ)のみで、
大和田は出て来ないし、
中野渡頭取はまだ頭取でなく、名前しか登場しない。

話そのものも、
中小出版社の買収話で、
スケール的にも小さい印象。
しかも、何十年も前の
画家同士の友情話となれば、
少々趣が違う。

ただ、良い銀行員、悪い銀行員、経営の苦しい中小企業、
裏に隠された意図のあるIT企業社長と、
構成戸作品定番の構図はいつもどうり。
それにしても、銀行の幹部というのは、
いつもこんな陰謀を巡らしているのかと心配してしまう。
対決する場である査問委員会と全店会議も
少々現実味に欠ける展開。

そういう意味で、
半沢直樹モノにつきものの爽快感はない。
シリーズの中でも、
下の方にランク付けられる出来といえよう。

仙波社長が伯父の妻・政子に
資金融資の担保の相談に行った時のやり取りが興味深い。
仙波工藝社の財務諸表を見て政子は「あかんな」と断言する。
編集部の整理を提案する政子に、
仙波社長が
「どの編集部も歴史があるし、社会的異議がある」
と言うと、
政子は次のように断定する。

「そんなふうに思うてる以上、望みはないな」
「社会的意義がある雑誌がなんで赤字なんや。
みんなが必要としている雑誌なら当然、黒字になるはずや」


正論。





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