小説『タクジョ!』  書籍関係

[書籍紹介]

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小野寺史宜による「お仕事小説」。

今まで郵便配達人、引っ越し屋、惣菜店などの
仕事を描いてきたが、
今度はタクシー運転手。
しかも女性。
その上、新卒。
「タクジョ」とは、タクシー女性乗務員のこと。

高間夏子(たかま・なつこ)は、
大学2年の時、
ストーカーに襲われた女性のニュースをテレビで見た。
その女性は、男性のタクシー運転手に
自分の家を知られるのがいやだったので、
手前の大通りで降りた。
そこからアパートに行くまでの間にストーカーに襲われた。
タクシーがアパートの前に止まってくれれば、
起こらなかった被害だった。
そこで夏子は考える。
運転手が女性だったら、
その人は安心してアパートの前で降りたのではないか。
女性のドライバーが増えればいいのだ。
→ 私がドライバーになればいいのだ。

ということで、就職活動はタクシー会社一本にした。
そして、徒歩で行ける営業所に配属された。
夏子は母と二人暮らし。
11年前、夏子が小学校6年の時、父母は離婚した。
それ以来、母と二人でアパートに住んでいる。
父母は嫌い合ったわけではないが、
高校教師で硬い父親と
洋服の販売員で柔らかい母親の
性格の不一致だった。

最近は女性ドライバーも採用し、
新卒も増えているという。
タクシー乗務には2種免許が必要なので、
会社が費用を負担してくれた。
マナー研修やホスピタリティ研修や危険予知トレーニング、
地理試験などを経て、デビュー。
まだ女性ドライバーの数が少ないので、
乗った客に「おっ」という顔をされる。
私の経験でも、
中年の女性ドライバーと知った途端に
「大丈夫か」と思った。(偏見一杯だね)
実際は大丈夫でなく
「私、まだ日が浅いので、
道を教えて下さい」と言われた。

珍しいのか、いろいろ訊かれる。
「運転手さん、結婚してるの?」
「カレシいるの?」
などと訊かれるのは、日常茶飯事だ。

勤務は午前8時から翌午前4時まで。
基本1日おきの勤務。
1カ月に11、2乗務。
最大でも13乗務と決められている。
明け休みの後に休みが続くこともあり、
三連休や四連休もある。
1カ月前にシフトが分かるので予定は立てやすい。
旅行の予約だって入れられる。

中には午前8時から午後5時までという日勤の人もいるが、
稼ぎ時の夜勤がない分、給料が少ない。

という基本をわきまえた上での夏子の日常が描かれる。

夏子の基本は、運転が好きなこと。
やはり好きでないと続かない。
そして、一人で決められること。

一人でやれる仕事はいい。
本当にそう思う。
もちろん、そこは会社員。
すべてを一人でやれるわけではない。
縛りもある。
でも現場では一人。
あそこに行ってみよう、またここに戻ってみよう。
そういうことはすべて自分で決められる。
楽しい。
たまにはいやな思いすることもあるが、
それはどの仕事でも同じだろう。


また、こんな叙述もある。

タクシーを運転してるとわかる。
タクシーに乗る人は多いのだと。
実際、思った以上の多くの人たちが、
ワンメーターの距離でもタクシーを利用する。


乗せた出張のサラリーマンに名刺を渡されたりする。
(夏子は連絡しなかったが、
同僚の女性ドライバーがその経緯で結婚にまで進んだ。)
大学時代の元カレが
終電が終ったから家まで送ってくれ、
なんて言ってくる。(もちろんお金は払う)
お金が足りないから持って来る、と言われて、
そのまま消える「籠抜け」にあったこともある。
寂しい場所で止められて、
「金を出せ」と言われたこともある。
役者による冗談だと分かったが、
本当だったかもしれない。
大きな電器店の社長を乗せて、
店員の不備をつい口にしてしまったこともある。

物語の骨になるのは、
父からの紹介で、公務員と見合いをしたこと。
双方、うまがあり、男性は結婚の意志を見せるが、
タクシードライバーをやめてほしいと言われる。
危険の心配があるから、というのだ。

わたしは、仕事をやめることを希望されたのだ。
自分を好きになってくれた人に。
自分も好きになった人に。


揺れ動く夏子。
その結論は・・・

最後に父を乗せて(これも有料)、久しぶりに会話をする。
その会話がなかなかいい。
というか、全体に、
お客との会話、同僚との会話、
見合い相手との会話、母親との会話が
みんないい。
こんな会話ができたらな、と思う感じだ。

夏子と客を巡る、エピソードを6話の連作で綴る。
相当な取材をしたに違いない。
「○○員○○日記」の仕事噺もいいが、
こうして、作家の目を通じて再構築されたのもいいい。

いかにも小野寺史宜らしい、
庶民の生活を描いた、さわやかな話。
読後感はすこぶる良好





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