小説『ダブル・トライ』  書籍関係

[書籍紹介]

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主人公の神崎真守(かんざき・まもる)は、
7人制ラグビーの日本代表・キャプテンだ。
東京オリンピック出場も決まっている。
その神崎が、突然円盤投の日本選手権に出場し、
日本新記録を更新しての2位となり、
「二刀流」として、俄然注目を浴びる。

ここで二つの競技について紹介。

昨年のラグビーワールドカップは15人制だが、
こちらは7人での競技。
セブンズともいう。
スコットランドのメルローズ発祥で、
リオデジャネイロオリンピックから
夏季オリンピック正式種目に採用された。
(15人制は過去4回オリンピックに参加した。)

アフリカ、アジア、ヨーロッパ、アメリカ州、
そして特に南太平洋諸国で人気がある。

15人制の試合は通常80分(前後半各40分)だが、
通常のセブンズの試合は
2分間の休憩を挟んだ前後半各7分で構成される。
大会の決勝は前後半各10分でプレーされることもある。
15人制よりも頻繁に得点プレーが発生し、
スピーディーな展開で人気がある。

試合時間が短いため、セブンズの大会は
同チームが一日で複数回試合を行い、
一日あるいは週末で終えることが可能である。

しかし、15人ラグビーに比べ、格下だと見られ、
それは、本編の中でも次のような記述に見られる。

七人制も、恵まれた立場ではない。
こちらにはこちらの面白さがあるのに、
「十五人制の落ちこぼれ」と見る人も少なくないのだ。
自分たちは誇りを持って日本代表として戦っているのだが、
やはり「ラグビーの本番は十五人制」という世間の見方もある。


円盤投(えんばんなげ)は、
陸上競技の投擲(とうてき)競技(砲丸投・円盤投・やり投・ハンマー投)
の一つで、
円盤を遠くに投げる能力を競う競技。
オリッピックの正式競技で、
やり投と同じく、古代オリンピックから種目だったとされる。
しかし、砲丸ならともかく、
円盤を投げるとは。
そもそも、円盤って何だったのか。

2.5メートルの円形の場所(サークル)から投げ、
34.92度の角度のライン内に入ったものだけが有効試技となる。
一般男子では、円盤の重さは2キログラムである。

その競技の様子は、↓をクリック。

https://youtu.be/ncZJmlRiQYc?t=36

競技人口が少なく、
オリッピックの出場標準記録という制約もあるため、
1964年の東京オリンピック以来、
日本選手の出場はない。

なお、私が円盤投げの存在を知ったのは、
切手少年だった頃、
↓の切手で。

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サン・マリノという、イタリアの小国の発行。

ミュロン作の↓の像も有名。

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話を戻すと、
「二刀流」そのものが珍しいのに加え、
2種目で夏季オリッピックに出場となれば、
注目を浴びるのは当然で、
マスコミは大きく取り上げる。

中でも、スポーツ用品メーカーが見逃すはずはなく、
新興スポーツ用品メーカー・ゴールドゾーンの営業マンの
岩谷大吾が接触を図る。
元ラグビー選手の岩谷は、
神崎との契約を目指し、
上司の後押しもあって、
契約金一千万、用品の提供、
マネージメントなど好条件を持ちかけるが、
神崎は断る。
その後、外資系のスポーツメーカーは2千万を提示するが、
これも断られる。

神崎が断ったのは、
製菓会社創業者の祖父の
生前贈与で菓子メーカーの株と不動産を得て、
株の配当と家賃収入で、
金には困っていないのだ。

スポーツメーカーと契約して、
制約され、干渉されるよりは、
自由に競技をしたいというのが神崎の考えで、
岩谷は、その攻略に苦労する。

誰でも金は欲しいが、
「金よりも自由が欲しい」という人ほどやっかいな人はいない。
ほとんどのスポーツ選手が金に困っており、
スポンサーを探している。
しかし、商品価値のある選手にしかスポンサーは付かない。
岩谷自身、後輩から援助を懇願されて、
何もしてやれなくて苦しんだりする。
しかし、スポーツ界が巨大な利益を生む産業であることも事実で、
富を求めてスポーツする人物も多い。
その中で、神崎は特殊な人間なのだ。

この件は極めて単純なのだ。
二つの競技でオリンピックを目指す。
そして人の助けは受けない──
誰かに援助してもらって続けるのは、
神崎の考えるスポーツではないのだ。

俺は何物にも縛られたくない。
自分のことは自分で責任を持つ。
それで失敗しても、
一人で敗北を噛み締めればいいだけの話だ。
自由でいたい。
それが、すべての基本なのだ。


物語は、その神崎の7人制ラグビーの遠征、
競技会での円盤投げの様子、
岩谷の苦闘に合わせ、
神崎の先輩でもあり、
円盤投げの第一人者・日本記録保持者の秋野泰久の動向を描く。
二人は五輪参加標準記録の達成を目指すが、
秋野は足の故障のせいで成績が上がらず、
岩谷のメーカーからの契約を解除されたりする。

もう一人、重要人物が途中から登場する。
フランスのアルペン選手のアンリ・コティ。
平昌オリッピックの回転で銀メダルを獲得し、
馬術もやる「二刀流」だ。
しかも、華やかなルックスで映画にも進出している。
貴族の末裔で、資産は潤沢。
岩谷の計らいで会ったコティと神崎は意気投合する。
そのコティが、こう言う。

(神崎のことを)「余計な心配──金の心配をしないで、
自分の信じる道を突き進んでいる。
本来、スポーツはそういうものじゃないかな。
金は時間に余裕のある人間だけが楽しめばいいんだ。
少なくとも二十世紀の半ばぐらいまではそうだったはずだよ。
アマチュア規定が緩くなってきて、
君たちのようなスポーツ用品メーカーが、
スポーツは金になるコンテンツだと気づいてから、
金儲けのためにスポーツに取り組む人も増えてきた。
昔は大リーガーでさえオフにアルバイトをしないと
生活できないことも珍しくなかった。
最近は、年俸一千万ドルの選手がいくらでもいるだろう?」


こういう記述もある。

スポーツ用品全体では、
国内での市場規模は一兆五千億円程度で、
年々拡大している。
出版業界やペット業界と大体同規模・・・
しかもスポーツが生み出す「金」は、
スポーツ用品の売り上げだけではない。
他にもプロスポーツの観戦料、
グッズの売り上げなどがある。
それに付随して発生する交通費や
宿泊料などを加えると、
まさに一大産業と言っていい。


金とスポーツの関係は生々しい。
その中で、神崎のような姿勢の人物は、
さわやかだ。
                                        
最後の日本選手権での秋野との闘いと
意外な終わり方。
さわやかな読後感である。





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