小説『8年』  書籍関係

[書籍紹介]

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堂場瞬一によるプロ野球(大リーグ)小説。

8年とは、
ソウル、バルセロナと2度のオリンピックで
華々しい活躍をしながらも、
娘の難病のためにプロになることを断念した
主人公の藤原雄大(ゆうだい)が
33歳にして大リーガーに挑戦するまでの
空白の8年間を指す。

エクスパンション(スポーツリーグのチーム数増加)で、
新しく誕生した、
ニューヨーク第3のメジャーリーグチーム、フリーバーズは、
日本のIT企業のジャパン・ソフトがオーナーで、
スタッフも日本人で占められている。
時代は2000年。

そのフリーバーズのトライアウトを受けて、
3Aのジャージーシティに入団した藤原は、
8年間の空白を埋めるために必死の努力をする。
(引退後も実業団チームのコーチはしていた)
その動機は、
ソウルオリンピックでただ一発のホームランを打たれた
ヘルナンデスと対決するためだった。
難病の娘が亡くなったことで、
人生の宿題を解決しようというのだ。
ヘルナンデスは今期限りでの引退を表明しているから、
わずかな時間しか許されていない。
3Aで実績を挙げ、
一日でも早く3Aを抜け出て、
メジャーのフリーバーズに昇格しなければならなかった。

(アメリカのマイナーリーグには、
3A、2A、1A、ルーキーリーグなど、
7段階のリーグが存在し、
選手たちは、安い年俸に耐えながら、
少しでも上のリーグを目指して研鑽する。)

もう一人、やはり同じトライアウトを受けて入団した選手に
常盤哲也がいた。
甲子園の決勝でホームランを3本打ったので注目を浴びたが、
日本のプロ野球への勧誘を断って、
最初から大リーグを目指してきた。
しかし、常盤には打者が
目の前でデッドボールで負傷したという
大きなトラウマがあり、
捕手でありながら、
内角球が受けられないという欠陥があった。
藤原と正規の捕手のウォーマックは、
その欠陥の是正のために手助けすることになった。

一方、新球団のフリーバーズは、
寄せ集めでうまく機能せず、
開幕から9連敗
年間最多敗戦数を塗り替えようという勢いだ。
なによりも選手のガッツが足りないと、
日系3世の監督、タッド河合は思っていた。
河合は事故で下半身を失い、
車椅子の監督である。

オーナーのジャパン・ソフトの社長西山は、
自分の思い通りにチームを改造しようとして、
口を出す。
それをたしなめる副社長の大越
西山は3Aから常盤を昇格させるよう、命令する。
しかし、現場は「時期尚早」で、
西山は激怒し、
ニューヨークに乗り込んで来る。

それを迎える河合とゼネラルマネージャーの坂田
球団の広報係、香苗などが絡む。
また、藤原は日本に残してきた妻の瑞希(みずき)が
まだ娘の死に向き合うことができずにいる。

こうして、新球団フリーバーズはどうなるのか、
藤原と常盤はメジャーデビュー出来るのか、
ヘルナンデスとの対決は実現するのか、
オーナー西山と現場との確執はどうなるのか、
瑞希と藤原の関係は修復できるのか。
そもそもヘルナンデスの引退表明の真意は何なのか・・・
こうした重層的な構造を織りなしながら、
物語は進展していく。

堂場瞬一のデビュー作
2001年の小説すばる新人賞受賞作。
新人にしてこの物語の巧みさ。
「大型新人現る」と選考委員と出版社は狂喜しただろう。

日本企業が大リーグの野球チームのオーナーになるという発想がユニーク。
日系というだけに逆風にさらされる様を次のように描写する。

アメリカにおいて、「日本」という存在は
未だに一種のタブーである。
オーナーは日本企業。
それだけでも人々を苛立たせる材料になるのに、
日本人のジェネラルマネージャー、
日系三世の監督、
日本からやって来た選手達が加わる。
幹部に対する風当たりが、
ハリケーン並みの風速になるのは目に見えていた。


試合の描写も過不足なく、臨場感あふれる。
登場人物への感情移入も迅速で、
どの登場人物にも愛着がわく。
読後感もよく、
読みごたえはたっぷり。

続編「ホーム」が最近刊行された。
この「ホーム」を読むために、
前編である「8年」を読んだ次第。

この後、「ホーム」を読むのが楽しみ。





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