小説『背中の蜘蛛』  書籍関係

[書籍紹介]

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誉田哲也による警察小説。

3部構成で、
第一部 裏切りの日々
第二部 顔のない目
第三部 蜘蛛の背中
という3つの部分から成り立つ。
連作短編ではない。
第一部、第二部は比較的短くて、前哨戦の印象。
第三部が長くて、これが本編の感じ。

池袋の路上で刺殺殺人事件が起こる。
被害者の妻との関連で犯人は逮捕されるが、
そのきっかけが、警察上部からの
「妻の過去を調べてみてくれ」という要請で、
それが結果として当たりだったのだが、
その要請を受けた本宮刑事課長は違和感を抱く。
これが第一部。

第二部は、それとは無関係で、
違法薬物で監視対象だった男が
木場のイベント会場のロッカーに仕掛けられた
爆発物で惨殺される。
犯人はほどなく逮捕されるが、
そのきっかけになったのは、
その人物を特定して捜査を進めるよう言ってきた
タレコミ電話だった。
電話を受けた刑事は、
その匿名電話は警察官からのようだったと言う。
植木警部補は、違和感を感じる。

そして、第三部。
無職男・田辺がラーメン屋で知り合った男と交流を始める。
その姉と関係が出来、
姉弟が、ヤクザ稼業の義兄にがんじがらめになっていることを知る。
田辺は二人の借金を返して自由にしてあげたいと思い、
あることを始める。

総務部情報管理課運用第三係、
通称「運三」の上山捜査官の
運三での生活が描かれる。
運三は、警察の秘密部署だ。

こうして、池袋の殺人事件、
木場での殺人事件、
田辺の周辺、
上山の周辺が
次第に関連づけられて来る。

要するに、運三は、
携帯電話の通話やメールやSNS、
ネット上のやり取りなどを監視分析する
プライバシー侵害の違法組織で、
池袋の殺人事件の犯人も
木場の殺人事件の犯人も、
その情報解析検索システム「スパイダー」にひっかかってきたもの。
しかし、非合法組織であるが故に、
その情報の出所を明らかに出来ず、
上官の示唆やタレコミなどの形で捜査を方向付けたということなのだ。
もともとウェブは「蜘蛛の巣」の意味だし、
その上にいるのは蜘蛛だ。
だから、国民のプライバシーの侵害は、
国民の背中に張りついている蜘蛛がいる、
ということで、題名の由来。

田辺は元運三の捜査員で、
仕事の性質上、精神のバランスを崩し、退職した。
しかし、スキルが高いので、
運三のシステムに介入する。
また、その違法性から破壊を狙っている。

というわけで、
国家的規模の監視社会、という話が
背骨だったことが分かる。
そういう意味で、新しい警察小説、として評価されたらしい。
しかし、そんな大プロジェクトにしては、
従事する人間が11人しかないなというのもおかしな話だ。

4つの話が並行して進み、やがてからんで来るのだが、
ちょっともどかしい。
「犯人に告ぐ」を書いた雫井脩介あたりが書いたら、
もっとわくわくする展開になっただろう。

しかし、ネット上のレビュー評価は意外と高く、
新境地が評価されたのか、
前回の直木賞候補になったが、落選。
選考委員の評は、厳しい。

角田光代
終盤、前原姉弟の家族、彼らの過去、義理の兄のエピソードは、
小説を盛り上げるために用意されたものに思えてしまい、
さらに姉と弟の近親相姦の場面に至っては、
書く必要があったのかどうか疑問を覚えた。
作者の影が、後半部分に
小説の作り手としてあまりにも見えすぎてしまう。

宮部みゆき
現代社会を舞台にした大人のザッツ・エンタテイメントなこの作品は、
直木賞の幅と懐の深さをアピールしてくれるとも思いました。
今このタイミングで顕彰されるべき作品でした。
社会の治安と個人の自由にどこまで互換性を持たせるか。
そう遠くない将来、この問題が
私たちの日常に直に触れる形で選択を迫ってきたとき、
多くの読者がこの作品を思い出し、
膝を打つことになると私は信じています。

桐野夏生
話の展開はうまいし、それなりに面白く読んだ。
しかし、警察内部にNSA的組織があるという
ディストピア的不気味さにひきかえ、
國見の話が矮小に思えてならなかった。
男たちの物語に特化されているせいか、
登場する女性がステロタイプで寂しく感じられる。

浅田次郎
ドラマならばまだしも、小説としてはやはりわかりづらい。
登場人物が混雑していて、
メインストーリーの求心力が失われがちである。
視点者のキャラクターと世界観が似ているという点も、
わかりづらさの原因になっている。

林真理子
これでもか、これでもかと悪意が炸裂して、
正直言って不快になっていく。
特に強要される近親相姦のシーンではページを閉じたくなった。
嫌悪をかきたてるのも小説だと百も承知しているが、
これでは読者もひいてしまうのではと心配になった。

北方謙三
後半になると、私が感じていた魅力は色褪せてしまった。
近未来にそういうことがあったら、
恐怖以外のなにものでもないが、
それは現実として考えた場合の恐怖で、
小説の中のリアリティとはまた違うものではないか、と思った。

高村薫
通信傍受という国家機密に、
巷の刑事が関与する余地があるはずもないとすれば、
本作でシステムの存在を暴く刑事たちの活躍は
一から十まで安直な作り物に感じられ、
終始没入できなかった。
これは本来、スパイ小説の題材である。

宮城谷昌光
他の候補作品にくらべて、読みやすかった。
捜査にあたる者たちの個性は感じられた。
人が生きていたということである。
が、小説はそれで充分というわけではない。
氏の文中にある説明が、
説明のまま死んでいる箇所がいくつかあり、
それを表現として活かす工夫が必要である。





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