小説『コリーニ事件』  書籍関係

[書籍紹介]

クリックすると元のサイズで表示します

6月19日の本ブログ↓で紹介した映画「コリーニ事件」原作本

映画「コリーニ事件」

イタリア人の老人ファブリツィオ・コリーニ
経済界の大物ハンス・マイヤーを殺害した事件で
国選弁護人になった新米弁護士カスパー・ライネンが、
殺害の動機を一切話さない被告人の過去をさぐり、
事件の真相に辿り着く話。

まるでシナリオかと思うほど、
映画の進行と同じだが、
いくつかの点で映画的改変が加えられている。

映画の楽しみ方の一つに、
原作との違いを比べる
というものがあるので、
改変部について記すと──

@犯人の動機に、
ナチの将校の命令によって、
父と姉が殺されるという事実が明らかになるが、
小説では、犯人はその現場を直接見たわけではない。
姉が死んだ火事の現場と、
報復処刑を目撃した通訳の証言で知るわけだが、
映画では、処刑は民衆の前、
しかも子供時代の少年コリーニの目の前で行われる。
こうでなければ、何十年もの間、殺意を持続する、
ということが起こらないわけで、
映画の改変の仕方は納得がいく。
命令を出したのが、
親衛隊大隊指導者のハンス・マイヤーの署名というだけでは、
このような恨みのこもって殺人を行う、
というのは弱すぎる。

Aなぜこの時期に復讐が行われたかについては、
映画では姉が死んだから、
となっているが、
小説では、父の死後引き取られたおじ夫婦のうち、
最後に残ったおばが亡くなったことによる。
自分が犯罪者として逮捕され、
ドイツの刑務所に入る姿をおばは見たくないだろう、
ということが、犯行を留まらせる動機になっている。

B弁護士が犯人の動機に突き当たる経過が違う。
映画では、遺留品をきっかけに
ナチ時代の事件に行き当たり、
犯人の口から語られるが、
小説では、ナチ時代の所業の資料を保管している連邦文書館で
その事件に行き当たる、という体裁になっている。
文書館の館長は証人として呼ばれる。

Cナチの将校たちの犯罪を時効で救った法律が
明らかになるのだが、
映画では、その法律の制定にたずさわった教授、
伝説的な刑事事件弁護士のリヒャルト・マッティンガーが、
急遽証人台に立ち、
その法律が適切でなかったことを証言する
という展開にした。
こうでもなければ、
映画的には成立しないからの改変と思われる。
小説では、この法律を定めた
ドイツ法曹界の重鎮故エドゥアルト・ドレーアー博士
に対する糾弾が行われている。

D被告人から弁護士に贈られた写真は、
映画では父と息子だが、
小説では姉の写真。
小説では、少年コリーニは
姉がドイツ兵に犯される現場を目撃し、
その後、ドイツ人に火をつけられて、
姉は焼死する。

その他、小説を読んでの知識で、
映画で被害者の孫の女性が法廷の検察側に坐っており、
なぜかと思ったら、
ドイツでは、公訴参加制度というのがあり、
被害者の親族が参加できる。
そして、親族は代理人を指名することができ、
弁護士のリヒャルト・マッティンガーが、
その代理人なのだった。
検察官は他にいる。

また、小説ならではの弁護士の性格描写がある。
ライネンは司法試験で抜群の成績をあげているが、
大きな法律事務所に所属せず、
事務員一人を置いて、
個人事務所を立ち上げる。
その理由として、次のような描写がある。

司法試験に合格すると、
四つの法律事務所から声がかかった。
しかし、どこにも面接を受けにいかなかった。
ライネンは大きな法律事務所で
その他大勢のひとりになりたくなかったのだ。
そういう事務所では、
若い弁護士は銀行員のように見える。
みんな、司法試験で群を抜いた成績をあげ、
身の丈に合わない高級車を購入する。
そして週末、
依頼人が一番高い請求書をだした者が勝者となる世界。
その世界の住人は再婚を経験し、
週末にはカシミアのセーターとチェック柄のズボンに身を包む。
数字、監査役のポスト、連邦政府とのコンサルタント契約、
果てしのない数の会議室、空港のラウンジ、
そしてホテルのロビー、それが彼らの世界だ。
そこの住人にとって、裁判で負けることは、
天地がひっくり返るような破局だ。
だから裁判官は危険な存在とみなされている。
しかしカスパー・ライネンは、
まさにその危険を冒したかったのだ。
ローブを着て、依頼人の弁護に立つ。
そして今、彼はそういう弁護士になれたのだ。


ライネンとは、なかなか見事な志しの弁護士だったのだ。

そのライネンでさえ、この裁判を持て余したのは、
被告のコリーニが一切口を開かなかったからだ。

「弁護を望んでいない人間をどうやって弁護したらいいんだろう」

というのがライネンの悩みだった。

弁護を引き受けた時は知らなかったのだが、
被害者は彼の親友の祖父で、
親友の妹とは恋仲だった、
というおまけがつく。

ドイツの著名な刑事事件弁護士でもある
フェルディナント・フォン・シーラッハのベストセラー。

ハンス・マイヤーにはモデルがいる。
フリードリヒ・エンゲルという人物で、
パルチザンのテロへの報復として、
59人の射殺を命じた。
戦後、一時期禁固刑の判決を受けるものの、
ドイツ連邦裁判所は証拠不十分で正犯者とはみなされず、
ドレーアーの制定した法律によって時効が成立し、
先の判決は破棄されている。

法律関係はさすがに弁護士らしく詳細に述べられているが、
小説としてのこくはない。

父の猟犬の適性を巡る挿話が興味深かった。





AutoPage最新お知らせ