小説『とめどなく囁く』  書籍関係

[書籍紹介]

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桐野夏生の新聞連載小説。
東京新聞他4紙に2017年8月から2018年9月まで連載。

塩崎早樹、41歳は、
相模湾を望む超高級分譲地「母衣山庭園住宅」の山頂の
豪華な邸宅で暮らしている。
夫の塩崎克典はゲームソフト会社を経営していた資産家で、
今は息子に代を譲って、悠々自適だ。
早樹とは、フリーライター時代に経営者訪問の取材で知り合い、
その後、食事を共にするようになり、結ばれた。
克典は前妻を病気で亡くしたが、
必ずしも妻に時間を割いていたわけではなく、
その罪滅ぼしのように、早樹と一緒に時間を過ごしていた。

早樹は、8年前、
前夫の庸介が釣りに出かけた海で行方不明になり、
ついに遺体があがらなかったため、
中途半端な状態でいたが、
7年経って死亡認定されたのを契機に克典の求婚を受け入れた。
克典には、息子と二人の娘がおり、
長女の亜矢は神戸に嫁いでいたたため、
数えるほどしか会っていない。
長男の智典の妻・優子と次女の真矢は早樹と同い年で、
真矢は早樹の結婚式にも出席せず、
まだ早樹は会えずにいた。

早樹は夫から大事にされているようで、
実は静かな支配の中におり、
老成したような暮らしをしていた。
相模湾をのぞむ眺望と
広い庭の屋敷での暮らしは、
早樹にとっては安楽なものそのものだった。
再婚して2年目、
そろそろ仕事をしたいという願望も頭をもたげるが、
克典には、まだ遠慮していた。
自分はリタイアした克典の相棒として
迎えられたと思っているからだ。

ある日、もう縁遠くなったはずの、
前夫の母親・菊美から電話があり、
会って話すと、庸介の姿を2度ほど目撃したのだという。
見間違いではないかと思う一方、
実家の父も庸介に似た人を見たという。
それを契機に、庸介の昔の釣り仲間に会って、交わるうち、
早樹の知らなかった庸介の姿が浮き彫りになってくる。

妻である自分が一番よく知っていると思っていたのに、
他の誰よりも知らないのだった。


中でも庸介が中学2年の時、長期家出し、
女性の世話になっていたという話は心にひっかかった。

そうこうしているうちに、菊美に無言電話がかかってくるようになり、
早樹にも無言電話がかかってきた。

一方で、妹の真矢がブログで、
父への嫌悪と、後妻が財産目当てで結婚したと書いたため、
父が誰であるかの詮索が起こり、
会社としては放置しておくことができなくなる。
そんな中、真矢が勤務していた税理士事務所の所長と不倫関係になり、
狂言自殺をしたため、
真矢を引き取らざるをえなくなり・・・

というストーリーが、
445ページ2段組みで、
詳細に綿密に描かれる。

今さら8年前のことを問題にするのがおかしいと言えばおかしいが、
海難事故で亡くなった夫が、生きているのではないか、
別人として生き、自分はだまされたのではないか、
だましてまで姿を消したかった理由は何か、
という疑念が、
「とめどなく囁」きかけて来、
それがミステリーとなって、読者を引っ張る。

72歳の夫と41歳の妻の生活がどんなものか、興味津々。
夫の克典は、立派な大人であり、
ゲームソフト会社を経営していた人物で、
早樹を包み込み、魅力的。
早樹も美人であることは間違いないので、
いろいろ女優の顔を思い浮かべながら読むことになる。
桐野夏生はどちらかと言えば肌に合う作家で、
どの本も読みやすいが、
これは、少々納得しかねる早樹の心理が
まことに詳細に描かれるので、
ちょっと読み進むのに時間がかかった。

最後の謎解きも、
手紙一本での解明なので、
少々困惑。
もう少しひねりがほしかった。






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