短編集『みちづれの猫』  書籍関係

[書籍紹介]

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直木賞作家・唯川恵による短編集。
どの短編にもが重要な役で登場する。

「ミャアの通り道」

姉弟三人が迷い込んで来た子猫を
父親に懇願して飼いはじめる。

たった一匹の小さな猫である。
しかし、その存在が、
こんなに家の雰囲気を変えるとは思ってもみなかった。


やがて、子供たちは成長し、実家を離れ、
なかなか帰省もままならない。
しかし、「ミャアがそろそろ旅立ちそうです」
という母からのメールに、
三人はそれぞれ家に帰って来る・・・

題名の意味は、
それぞれの部屋の戸口を
子どもたちが各自の部屋のドアを閉めずに、
ミャアのために小さく開けておく、
通り道のこと。

「運河沿いの使わしめ」

離婚の後、腑抜けのようになって
ゴミ屋敷に住む主人公の家のベランダに
一匹の猫が訪ねて来る。
部屋に入れ、その結果、
少しずつ主人公の生活に変化が出て、
立ち直ることができる。

その猫が、家に帰って来ない。
探しても探してもみつからない。
そんな時、スーパーの掲示板に、
その猫そっくりな写真と共に、
捜索願いが出ているのを発見する。
訪ねていくと・・・

題名の意味は、
飼い主の一人の介護していた義母の
「あの猫は神さまの使わしめだ」という言葉による。

「陽だまりの中」

息子の急死から立ち直れない母のもとを
一人の女性が訪ねて来る。
妊娠中の女性だ。
母は、その子は息子の子供ではないかと推察し、
女性は認め、
二人は同居をはじめるが・・・

その姿が、家にエサをもらいに来る
つがいの野良猫の話とつながる。

「祭りの夜に」

恋人とのいさかいで
旅行をキャンセルして、
代わりに、
久しぶりに訪れた祖父母の家。
祖母はすっかりぼけてしまい、
祭りの夜に、
昔の思い人と会うのを楽しみにしている。
その祭りは、猫祭りといって、
全員が猫のお面をかぶって参加するのだが・・・

「最期の伝言」

幼い娘は猫が大好きなのに、
猫アレルギーで猫が飼えない。
母親の亜哉子は、申し訳ない気持ちで一杯だ。
猫アレルギーは、亜哉子からの遺伝なのだ。

29年前、父は母と亜哉子を捨てて、別な女性に走った。
その女性が会いたいと言ってきた。
会うと、父が死の床にいるのだという。
父が去った後、不幸ではなかったと告げるために、
亜哉子は療養所に会いにいく。
実は、猫アレルギーは父親からの遺伝だった。
帰り道、猫のぬいぐるみを忘れてきたことに気づく。
返送されたぬいぐるみを受け取りに行った亜哉子は、
おばの口から意外な事実を知らされる・・・

「残秋に満ちていく」

軽井沢でフラワーショップを営む早映子は、
長い同棲生活をした相手に
結婚を切り出した途端に別れが来た。
その後結婚して、裕福な家庭を持ったが、
息子の20歳の誕生日での衝撃的な告白で息子を失い、離婚した。
今は早映子は58歳。
その早映子と同棲していた男が30年ぶりに訪ねてきた。
夜、食事を共にした後、
倒れてしまった男の病状を知ることになる。
また、男は息子との和解のきっかけを作ってくれた。
男は今飼っている猫の世話を早映子に託すが・・

「約束の橋」

夫の暴力で結婚に失敗し、
化粧品関係の仕事で充実した生涯を過ごした女性の
飼い猫の歴史。
末期ガンにかかり、
施設での余生を送る中、思い出すのは猫との思い出ばかり。
散歩した時、橋がかかっていることを発見するが・・・

その女性の最期の述懐。

時折、考えることがある。
もしかしたら別の人生があったのではないだろうか。
違う生き方を選べたのではないだろうか。
もし伴侶がいたら。
もし子供がいたら。
生き物として命を繋げられなかったのは、
生きる意味がなかったのと同じではないか。
不運を嘆いた時もある。
不幸を呪った時もある。
けれど今となれば、
ねれらはすべて私の人生に必要なことだったと思える。
そして今、わかる。
与えられた人生を生きればいい。
ただひたむきに生きればいい。


7篇全て人生を切り取り、
心に余韻の残る好短編集
筆者の円熟が分かる。
特に、猫好きにとってはたまらないだろう。





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